【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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思い遣りの示し方

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「まあ・・・アレだな。隣室から話は聞いていたから、取り敢えず報告書はオレがまとめておこう」
「ベル?」
「結婚式の新郎役は代わってやれないが、報告書を代わりに書いてやることくらいなら出来るからな」

普段のしたり顔ではなく、真面目にそう話すベルフェルトの言葉に、リュークザインは少しだけ嬉しそうに眉を下げた。

「お前たちはまだここに残るだろう? オレは一足早く長官室に戻って、報告書を書き上げてくるとしよう」

そう言って、ベルフェルトは軽めの変装をして現場から離れた。

それ以外の者は、まだカリエス商会の支店三階の部屋に残り、情報と状況の確認を行う予定だ。

アナベラが去った後すぐに出て行っては、向こう方に監視などが付いていた場合、厄介なことになる恐れもある。

まあ、そこまで周到な者たちではないだろう、というのがこちら側の意見だが。

アナベラの話から推測すれば、恐らくスカッチ伯を始め、あちらの派閥の者たちは、どうにも警戒心が無さすぎる。

事情を知らない令嬢に、扉越しとはいえ秘密の会合の内容を、一言でも聞かせてしまうとは、どれだけの気の抜けっぷりだろうか。

挙句、娘に直接、王太子妃になる可能性について話して聞かせるとは。

その言葉ひとつだけでも、反逆罪に問われてもおかしくはないというのに。

恐らくその発言の重大性を最もよく理解したのがアナベラで。
報告する結果、家門がどうなるかも簡単に想像がついたであろう彼女が、そのまま黙っていてもおかしくはなかった。

なのに。
敢えて面会を求めてきた。

人目を引かないよう、夜会の休憩所にてラエラと会って。
かつては嫉妬のあまり、デュールを引っかけようとした因縁の相手に頼み込む事までして。

それをしたのはきっと、王家への忠誠心だけではなくで。
そう、それはきっと。

「国家安全を一身に引き受け、身を粉にして働く愛しい人の努力が踏みにじられるのを阻むため、か」

長官室の机の上、ペンを走らせる手を止めたベルは、ぽつりとそう呟いた。

「生まれる家は選べない。愚かな当主のもとに生まれ落ちた苦痛も葛藤も、どこも似たようなものなのだからな」

かつてベルとリュークを苦しめた父たちの姿が、スカッチ伯に重なる。

だからこそリュークは告げたのだろう。
陛下を信じろ、と。

国家機密にあたる事をそれ以上は話せない。

だから、ただその一言を。

貴女の気持ちは分かっている、と。

あまりに言葉が少なすぎて、恐らくは気付いてもらえなかったであろう思い遣りの言葉。
きっと、ただの気休めとしか受け取られなかった筈の一言で。

だが、いつか伝わるだろう。
リュークが、オレがそうだったように、陛下のご判断を、反逆者の処断を目の当たりにする時に。

ふと気がつけば、ペンを持つ手に力が入りすぎて、指先が白くなっている。

「・・・どうもいかんな。身につまされすぎて、客観的に考えられない」

アナベラ嬢に昔の自分の姿を重ねたせいなのか、随分と感傷的になったものだ。

ふ、と笑みが零れ、軽く頭を左右に振る。

「いかんな。どうやらオレも、相当疲れているようだ」

ペンを置き、椅子から立ち上がって背伸びをした時に、扉を叩く音がした。

「ベルフェルトさま? ちょっといいですか?」
「ああ、ルナフレイア嬢」

いつの間にカリエス商会から戻ってきたのか。
変装のつもりだろうか、少しだけ外見をいじった様子のルナフレイアが顔を出した。

「報告書、書き終わりました?」
「あと少し、というところかな」

ルナフレイアの手には盆があり、その上にはお茶と菓子が乗っている。

「朝からずっと動きっぱなしでしょ? 少し休憩しないと」

そう言って、手早くお茶と菓子を机の上に置く。

「我らがエイモス長官に倒れられちゃったら、大騒ぎになりますからね」
「それはどうだか分からんが。まあ、有難くいただくとしよう」

用意された菓子は、以前に街中で一緒に見張りをした際に、「美味いところを知っている」とベルが連れて行った店のもの。

そういえば、気に入ったとか言っていたな。
美味しい、美味しい、と大喜びでぱくついていたっけ。

「・・・アナベラさま、ご立派でしたね」

そんなことを考えていたとき、ルナフレイアが感慨深げに口を開いた。

「家門よりもまず王国の事を考えて行動されて・・・なかなか出来る事ではないですよね」
「そうだな」
「それに、リュークザインさまの思い遣りも流石だと思いました」
「思い遣り?」
「陛下は忠と不忠を一つに括ることはされないって、そう仰ってたじゃないですか。あれはアナベラ嬢に大丈夫だって伝えたかったんでしょう?」

その言葉に、ああ、と気づく。

どうやらオレと同じことを考えていたようだ。
まあ、実体験に基づく慰めだということまでは教える訳にはいかないが。

だから、ただ黙って頷くだけにした。

ルナフレイアは、自分で淹れたお茶を飲んでから再び口を開いた。

「アナベラさまは・・・リュークザインさまのことがお好きだったのね」
「ああ、そのようだな」
「ベルフェルトさまかと思ってた」
「・・・うん?」

なんだ?
唐突にオレの名前が登場したような。

だが、ルナフレイアは、いたって真面目な顔でこう続けた。

「私、アナベラさまは、ベルフェルトさまのことを好いてらっしゃるのかと思ってました」
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