【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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お返し

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ベルフェルトさまは。

どうしていつも、何でもないような顔をしてさらりと嘘を吐いて誤魔化すの?
どうしていつも、進んで汚れ役を引き受けようとするの?

ほら、今だってまた。

「君の唇はとても柔らかくて美味しそうだ。・・・食べてもいいかい?」

ベルフェルトさまはそう言って、私の両頬に手を当てた。

嘘つき。
本当にそのつもりだったら、さっきのだって頬じゃなくて唇にしてる筈。

私はベルフェルトさまと出会ってからまだ日も浅いから、貴方のことを余りよく知らない。

知らないけど。
貴方が女心を弄ぶような人じゃないって事くらいは分かるんですよ?

だって、もし貴方がそういう人だったら、ここでこうやって私の反応を待ったりしない。
私がベルフェルトさまを殴って怒り出すまで、時間をくれたりしない。

ああ、ほら。
私が何もしないから、困っちゃってる。
私の初めての口づけを奪っちゃいけないって心配してる。

それでも、いつもみたいに芝居を続行しないのね。
こんな時だけど、それはとても嬉しい。

ごめんね、ベルフェルトさま。

私、近づきすぎちゃったのかな。
私に、距離を置いて欲しいのかな。

貴方の側が、とても、とても居心地が良くて。
貴方に甘えるのが、本当に安心出来て。

困らせて、気を遣わせて、こんな芝居までさせて、ごめんなさい。

今日は私が、貴方の役をするから。

頬に添えられた両手はそのままに。
ルナフレイアは距離を縮めて自ら唇を寄せた。

ベルフェルトの頬に。

「・・・」

その行動に、ベルフェルトは驚いて目を大きく見開いた。

驚いて固まった表情が、珍しくて、新鮮で、ルナフレイアは思わず、ふ、と笑みを漏らした。

するり、とベルフェルトの腕の力が抜ける。

それまでルナフレイアの両頬を抑えていた、大きくて、少しごつごつしたベルフェルトの手が解けて落ちる。

そうして一旦、ベルフェルトの膝の上に落ちた手は、その左手は、ゆっくりと、本当にゆっくりと、上がって。
ルナフレイアに口づけられた頬を、そっと覆った。

「ベルフェルト、さま?」

呆然とした表情で頬を抑えたまま、石像のように固まったベルフェルトに、ルナフレイアは心配そうに声をかける。

途端、ベルフェルトの頬がさっと赤く染まる。
どうやら、やっと我に返ったようだ。

「・・・淑女がこんなことを・・・はしたないぞ・・・」

赤面するベルフェルトという珍しいものを見て、ルナフレイアの心臓がとくん、と跳ねた。

いやいや、美形が頬に唇を寄せられて赤面するって。
なんかめちゃくちゃ可愛いんですけど。
なのに凄く色っぽいんですけど。

これ、どう反応すればいいの。

いつも大人の対応で、頼りになって、強くて、優しくて。
皮肉屋で、なかなか本音を言わなくて、周りに気ばかり遣って、飄々と笑いながらいつも影でひっそり頑張る人。

・・・そんな人が、ほっぺたにちゅってされて、ここまで照れるとかって。

うわぁ。どうしよう。
これはどう対応するのが正解?

何か言わなきゃ。
何か。

負担にならないような、何か。
ベルフェルトさまみたいに。

相手を楽にするような言葉を。

「ええと・・・お返し?」
「・・・は?」
「さっき、ほっぺにちゅってされたお返し、です。もしくは・・・仕返しとも、言う?」
「・・・」

これで大丈夫かなって少し不安になって。

でも、すぐにそれは吹き飛んだ。

「くっ・・・ふふっ・・・」
「ベルフェルト、さま?」
「ははっ! そうか・・・仕返しか。ははっ、そうか」

前に一瞬だけ見せてくれた、満面の笑顔。

いつもの皮肉っぽい笑みじゃなくて、無邪気な、子供みたいな、無垢な笑顔。

多分、ほとんどの人が知らない、素の表情。

瞬間。
さっきとは比較にならないほど激しく、胸が鼓動を打った。

・・・ああ。どうしよう。

ひとりで生きる決意をしているこの人が。
王国に命を捧げるために、恋という余計な枷をはめようとしないこの人が。

潔く全てを後にしようとするこの人が、私は、もの凄く、もの凄く、好きなのかもしれない。
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