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無事で
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リュークザインや騎士たちを従え、扉へと向かうレオンハルトは、今しがた入ってきたばかりのシュリエラと侍女に視線を向けるとにっこりと微笑んだ。
「無事で、よかった」
そう一言だけ残し、颯爽と扉から姿を消した。
「・・・」
二人は顔を赤くしてそれを見送っていたが、通り過ぎざまにアッテンボローがシュリエラの頭にぽん、と、手を乗せる。
「君まで頬を染めることないだろ」
不機嫌そうにそれだけを言うと、すぐに手は離れ、アッテンボローも扉の向こうへと消えて行く。
ぽかんとした顔で扉を見つめるシュリエラの耳には、揶揄うような声が廊下から聞こえてきた。
「なんだよ、やきもちか? アッテン」
「煩ぇ」
だが、やがてそれらの声も足音も、どんどん遠くなっていった。
シュリエラの頬は、まだほんのりと赤いままだった。
「大丈夫ですか、シュリエラさま?」
「・・・ええ」
「大役、ご苦労さまでした」
「いえ、そんな。カトリアナさまこそ、無事にここまで戻って来られてよかったですわ」
まだ頬が熱いのか、両手の甲で冷やすように押さえ込みながら、シュリエラは答えた。
そこへアリエラも駆け寄ってくる。
「カトリアナ。よかったわ、無事で。殿下も大層心配なさっていたのよ」
「ご心配をおかけしました、お姉さま。少々絡まれる場面はありましたが、持たせて下さった護身用の小刀のお陰でなんとかなりましたわ。シュリエラさまと無事に合流できた時は、本当にほっとしました」
「まさか騎士服を着た偽物があそこに現れるとは思いませんでしたからね」
「ええ。でも、あちらも油断していたので助かりましたわ。今のわたくしは、どこからどう見てもただの侍女ですものね」
そう言って、侍女のお仕着せの裾をちょんと摘む。
アリエラもその言葉に「そうね」と、素直に肯く。
シュリエラも、改めて感心したように呟いた。
「本当に。ベルお兄さまの変装道具は大したものですわ」
「ええ。わたくしも吃驚しました。・・・後はルナフレイアさまのご無事を祈るばかりですわ」
そう言って、数名の護衛と共に残された部屋の窓から、月を見遣る。
「あのお方ならば、きっと大丈夫ですわ。ベルお兄さまのお墨付きの剣の腕前だそうですもの」
「ええ、わたくしもそう願っております」
シュリエラの言葉に頷きながらも、カトリアナは両手を胸の前で組み、祈るように月を見上げた。
シャガーン宮のエントランスまで誰からも見咎められる事なく戻ってきた男たちは、ここでもう一度、まるで確かめるかのように背後に視線を送り、彼らがずっと手中に収める事を願っていた人物を見る。
長い投獄生活で筋肉が弱っていたのか、賢者くずれの足取りはおぼつかない。
時間が取られるのを恐れた彼らは、背負って運ぶ事に決め、中でも最も体格のいい男が背中を貸すことになった。
そしてそのまま歩くこと数十分。
夜会に集まった貴族たちが乗りつけた馬車が延々と置かれているその一つに、彼らは乗り込んだ。
御者に合図を送り、彼らは誰からも疑問を抱かれることなく城門を出る。
「よし、無事に城門から出られたぞ」
「後は屋敷に、無事合流すれば任務完了だ」
王城の影がどんどんと小さくなっていく中、襲撃者たちは安堵したのだろう、口数が急に多くなっていく。
やがて馬車はとある屋敷の前に停まり、馬車の乗っていた者たちは皆、出迎えた召使たちに声をかけることもなくぞろぞろと入って行った。
「賢者さま、どうぞこちらに」
警戒心も露に周囲を見回す賢者くずれを一室に通すと、出迎えた邸の主人は丁重に着席を促した。
無言で座る賢者くずれの前に、一人の男が進み出て膝をつく。
「偉大なる賢者、ワイジャーマさま。私はベイベル国より参りましたアサドと申します。漸く貴方さまにお目にかかることが出来、光栄に存じます」
「・・・私の事を知っているのか」
初めて賢者くずれが口を開き、アサドを始めとした室内の男たちは口元を緩める。
「勿論、存じ上げております。貴方のようなお方があんな牢獄に囚われていたとは露知らず、お助けするのが遅れてしまいました。貴方に対してこのような扱いをしたこと、この国もいつかその報いを受ける事となりましょう」
「・・・そうだな」
「ワイジャーマさま。我が主人が貴方さまのお力を必要としております。ここにいては、いつ追手が来るとも限りません。どうか早急に、我が国ベイベルにお越しくださいますよう」
ここでアサドの後ろに立っていた者の一人が進み出て、何かを耳打ちした。
アサドはそれに頷くと、賢者くずれへと向き直る。
「ベイベルに向けて発つ準備をしております。まずは今夜のうちにシャウヘッセ伯爵領へと移動しますが、準備が終わり次第、ここを出発する予定です。それまで、食事と暫しのご休憩をお取りください」
そうして今度は、客室の一つへと賢者くずれを案内する。
食事の用意が出来るまで休むことになり、賢者くずれ一人を残して皆が退出すると、賢者くずれは窓際に行き、外の様子を窺った。
誰もいないことを確認して、窓枠に手をかける。
そして、窓を開けると懐から何かを取り出し、外へと放り投げた。
「無事で、よかった」
そう一言だけ残し、颯爽と扉から姿を消した。
「・・・」
二人は顔を赤くしてそれを見送っていたが、通り過ぎざまにアッテンボローがシュリエラの頭にぽん、と、手を乗せる。
「君まで頬を染めることないだろ」
不機嫌そうにそれだけを言うと、すぐに手は離れ、アッテンボローも扉の向こうへと消えて行く。
ぽかんとした顔で扉を見つめるシュリエラの耳には、揶揄うような声が廊下から聞こえてきた。
「なんだよ、やきもちか? アッテン」
「煩ぇ」
だが、やがてそれらの声も足音も、どんどん遠くなっていった。
シュリエラの頬は、まだほんのりと赤いままだった。
「大丈夫ですか、シュリエラさま?」
「・・・ええ」
「大役、ご苦労さまでした」
「いえ、そんな。カトリアナさまこそ、無事にここまで戻って来られてよかったですわ」
まだ頬が熱いのか、両手の甲で冷やすように押さえ込みながら、シュリエラは答えた。
そこへアリエラも駆け寄ってくる。
「カトリアナ。よかったわ、無事で。殿下も大層心配なさっていたのよ」
「ご心配をおかけしました、お姉さま。少々絡まれる場面はありましたが、持たせて下さった護身用の小刀のお陰でなんとかなりましたわ。シュリエラさまと無事に合流できた時は、本当にほっとしました」
「まさか騎士服を着た偽物があそこに現れるとは思いませんでしたからね」
「ええ。でも、あちらも油断していたので助かりましたわ。今のわたくしは、どこからどう見てもただの侍女ですものね」
そう言って、侍女のお仕着せの裾をちょんと摘む。
アリエラもその言葉に「そうね」と、素直に肯く。
シュリエラも、改めて感心したように呟いた。
「本当に。ベルお兄さまの変装道具は大したものですわ」
「ええ。わたくしも吃驚しました。・・・後はルナフレイアさまのご無事を祈るばかりですわ」
そう言って、数名の護衛と共に残された部屋の窓から、月を見遣る。
「あのお方ならば、きっと大丈夫ですわ。ベルお兄さまのお墨付きの剣の腕前だそうですもの」
「ええ、わたくしもそう願っております」
シュリエラの言葉に頷きながらも、カトリアナは両手を胸の前で組み、祈るように月を見上げた。
シャガーン宮のエントランスまで誰からも見咎められる事なく戻ってきた男たちは、ここでもう一度、まるで確かめるかのように背後に視線を送り、彼らがずっと手中に収める事を願っていた人物を見る。
長い投獄生活で筋肉が弱っていたのか、賢者くずれの足取りはおぼつかない。
時間が取られるのを恐れた彼らは、背負って運ぶ事に決め、中でも最も体格のいい男が背中を貸すことになった。
そしてそのまま歩くこと数十分。
夜会に集まった貴族たちが乗りつけた馬車が延々と置かれているその一つに、彼らは乗り込んだ。
御者に合図を送り、彼らは誰からも疑問を抱かれることなく城門を出る。
「よし、無事に城門から出られたぞ」
「後は屋敷に、無事合流すれば任務完了だ」
王城の影がどんどんと小さくなっていく中、襲撃者たちは安堵したのだろう、口数が急に多くなっていく。
やがて馬車はとある屋敷の前に停まり、馬車の乗っていた者たちは皆、出迎えた召使たちに声をかけることもなくぞろぞろと入って行った。
「賢者さま、どうぞこちらに」
警戒心も露に周囲を見回す賢者くずれを一室に通すと、出迎えた邸の主人は丁重に着席を促した。
無言で座る賢者くずれの前に、一人の男が進み出て膝をつく。
「偉大なる賢者、ワイジャーマさま。私はベイベル国より参りましたアサドと申します。漸く貴方さまにお目にかかることが出来、光栄に存じます」
「・・・私の事を知っているのか」
初めて賢者くずれが口を開き、アサドを始めとした室内の男たちは口元を緩める。
「勿論、存じ上げております。貴方のようなお方があんな牢獄に囚われていたとは露知らず、お助けするのが遅れてしまいました。貴方に対してこのような扱いをしたこと、この国もいつかその報いを受ける事となりましょう」
「・・・そうだな」
「ワイジャーマさま。我が主人が貴方さまのお力を必要としております。ここにいては、いつ追手が来るとも限りません。どうか早急に、我が国ベイベルにお越しくださいますよう」
ここでアサドの後ろに立っていた者の一人が進み出て、何かを耳打ちした。
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誰もいないことを確認して、窓枠に手をかける。
そして、窓を開けると懐から何かを取り出し、外へと放り投げた。
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