【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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これはれっきとした正当防衛

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鳶色の髪の男が、薄ら笑いを浮かべながらじりじりと距離を詰めていく。
そして、目の前にいる獲物にもうすぐ手が届くというその刹那・・・視界が反転した。

気がつけば、男は床に仰向けに転がっていた。

呆ける男を見下ろすように立っている令嬢は、にっこりと微笑む。

「ああ、一つ言い忘れておりました。先ほどからどなたかと間違われているようですが、わたくしの名はルナフレイアと申しますのよ」
「な・・・っ?」

その声は転がされた男の声か、それとも扉前を守っていた男のものだったのか。
それを確かめる間もなく、仰向けに転がっていた男の腹にルナフレイアの肘がめり込む。

「ぐっ・・・!」
「なんだ、こいつ・・・っ!」

それまで余裕の態度で扉前を陣取っていた騎士服の男は、仲間を助けようと慌てて床を蹴る。

「この・・・大人しくしろっ!」
「お断りしますわ」

その台詞と共に男の視界からルナフレイアが消える。

「へ・・・?」

驚くと同時に身を低くしたルナフレイアに足元をすくわれ、男は尻餅をついた。

「油断しすぎです。ここが国境なら、貴方は秒で命を失くしていますよ」
「は・・・?」

何を言っている、と怒鳴りかけたが、そこで眼前にいた筈の令嬢が再び視界から消えたことに気付く。
だが、時すでに遅しとはこのことか。

我に返ったときには、背後に回っていたルナフレイアから喉元にナイフが当てられていた。

「ひっ」
「お立ち下さいな。鍵を開けていただきましょう」
「は、はひ・・・」
「・・・駄目だ、開けるなっ」

肘うちをくらった男が、腹を抱えながらよろよろと立ち上がり、ルナフレイアをぎろりと睨みつけている。
それを見て、騎士服の男がほっと気を抜いたのも束の間。

騎士服の男の喉元に当てられていた筈のナイフが空を切り、駆け寄ろうとしていた男の太ももに刺さった。

鳶色の髪の男は悲鳴を上げながら、もんどりうって倒れ込む。

「・・・せっかく無傷で引き渡して差し上げようとしていたのに・・・。そこで大人しくしていてくださいませ」

そして、どこから出したのか、持っていたナイフを投げた筈のその手には、既に別のナイフが握られていて。
それをまた、さっきのように、ぴたりと男の喉元に当てた。

「鍵を開けてくださいますね?」

にこやかに問うルナフレイアに、騎士服の男は冷や汗を浮かべながら、ただ黙って頷くしかなかった。

鍵を開けて廊下へと顔を出せば、廊下の角から数名のハトたちがこちらに向かって走って来るところで。

「ええ? もう終わっちゃったんですか? 早すぎですよ、ルナフレイアさん」

余りの手際の良さに、応援に来た筈のハトたちも気がそがれてしまったようで、少しばかり不満そうだ。

「申し訳ありません。でもこの方たち、弱すぎて」
「はは、そ、そうですか。流石、ロッテングルムといいますか・・・」
「取りあえず縛っておいてくださいます? わたくし、まだちょっと行くところがございまして」

そう言うが早いか、ルナフレイアはカトリアナに変装したドレス姿のまま駆けだしていた。

「え? ちょ、ルナフレイアさん?」
「どこに行くつもりですか?」
「ごめんなさい。後で報告しますっ!」

走りながらも律儀に言葉を返すと、そのまま角を曲がって姿を消した。

「いや、でも、あの格好で猛ダッシュってのはちょっとマズい・・・」
「・・・幻でも見たと思ってくれんじゃないか?」

はあ、と溜息を吐きながら縄で拘束していると、後発隊のレオンハルトたちが現れた。
時間にして、ハトたちが到着してから、数分後。

そもそも、ハトたちも最初から後をつけており、ルナフレイアが部屋に連れ込まれてから突入の準備をして駆けつけるまでに五分少々しか経過していなかった。

ルナフレイアの腕を信用していなかった訳ではない。
あくまで令嬢であるルナフレイアの負担を心身ともに極限まで減らすためだ。

だが、蓋を開けてみればこの結果である。
一令嬢に大の男二人が数分でのされて終わり。

レオンハルトやリュークザイン、ベルフェルトの思いやりなど、この令嬢には全くもって不要だった訳で。

カトリアナを襲って妃になる資格を奪おうと計画していた男たちは、こうして余りにも呆気なく捕まった。

「・・・で? ルナフレイア嬢はどこかに行ってしまった、と?」
「はあ・・・。何でも後で報告する、とか」
「ふーん、どこに行ったのかな」

予想外のスピードで解決したルナフレイアの手腕に、レオンハルトは感服と呆れがないまぜになった表情を浮かべながらハトたちからの報告を受けていた。

「殿下、心配は無用かと」
「リュークザイン?」
「そうですよ。きっとあいつのところにでも向かってるんでしょう」
「あいつって・・・ああ、もしかしてベルフェルトのことかい? ライナス」

何とも微妙な表情で頷き合う二人に、レオンも成程、と納得する。

「あれ? でも、どうやって行く気だろ。あの格好だよ?」
「それも恐らくは手配済みでしょう。昨日ラエラと何やら話し込んでましたから」

何でもない事のように言ってのけたリュークザインだったが、レオンハルトは少し引き気味だ。

「うわぁ、手際がよすぎるのもなんか怖いね・・・」
「まあ、あいつは、そうと決めたら止まりませんからね」

ライナスが諦めの入った表情でぼそりと呟く。

「・・・じゃあ、こっちが予想よりも早く終わりましたから、オレたちもさっさと応援に向かいましょうかね?」
「その方が宜しいと私も思います、殿下。奴らは恐らくすぐにでも王都を発とうとするでしょう。・・・その前に取り押さえねばなりません」

ライナスとリュークからの言葉に、レオンハルトが大きく頷く。

「よし、では僕たちも向かうとしよう。カリューガ子爵の邸へ」

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