【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
220 / 256

無事で

しおりを挟む
リュークザインや騎士たちを従え、扉へと向かうレオンハルトは、今しがた入ってきたばかりのシュリエラと侍女に視線を向けるとにっこりと微笑んだ。

「無事で、よかった」

そう一言だけ残し、颯爽と扉から姿を消した。

「・・・」

二人は顔を赤くしてそれを見送っていたが、通り過ぎざまにアッテンボローがシュリエラの頭にぽん、と、手を乗せる。

「君まで頬を染めることないだろ」

不機嫌そうにそれだけを言うと、すぐに手は離れ、アッテンボローも扉の向こうへと消えて行く。

ぽかんとした顔で扉を見つめるシュリエラの耳には、揶揄うような声が廊下から聞こえてきた。

「なんだよ、やきもちか? アッテン」
「煩ぇ」

だが、やがてそれらの声も足音も、どんどん遠くなっていった。

シュリエラの頬は、まだほんのりと赤いままだった。

「大丈夫ですか、シュリエラさま?」
「・・・ええ」
「大役、ご苦労さまでした」
「いえ、そんな。カトリアナさまこそ、無事にここまで戻って来られてよかったですわ」

まだ頬が熱いのか、両手の甲で冷やすように押さえ込みながら、シュリエラは答えた。

そこへアリエラも駆け寄ってくる。

「カトリアナ。よかったわ、無事で。殿下も大層心配なさっていたのよ」
「ご心配をおかけしました、お姉さま。少々絡まれる場面はありましたが、持たせて下さった護身用の小刀のお陰でなんとかなりましたわ。シュリエラさまと無事に合流できた時は、本当にほっとしました」
「まさか騎士服を着た偽物があそこに現れるとは思いませんでしたからね」
「ええ。でも、あちらも油断していたので助かりましたわ。今のわたくしは、どこからどう見てもただの侍女ですものね」

そう言って、侍女のお仕着せの裾をちょんと摘む。

アリエラもその言葉に「そうね」と、素直に肯く。
シュリエラも、改めて感心したように呟いた。

「本当に。ベルお兄さまの変装道具は大したものですわ」
「ええ。わたくしも吃驚しました。・・・後はルナフレイアさまのご無事を祈るばかりですわ」

そう言って、数名の護衛と共に残された部屋の窓から、月を見遣る。

「あのお方ならば、きっと大丈夫ですわ。ベルお兄さまのお墨付きの剣の腕前だそうですもの」
「ええ、わたくしもそう願っております」

シュリエラの言葉に頷きながらも、カトリアナは両手を胸の前で組み、祈るように月を見上げた。






シャガーン宮のエントランスまで誰からも見咎められる事なく戻ってきた男たちは、ここでもう一度、まるで確かめるかのように背後に視線を送り、彼らがずっと手中に収める事を願っていた人物を見る。

長い投獄生活で筋肉が弱っていたのか、賢者くずれの足取りはおぼつかない。

時間が取られるのを恐れた彼らは、背負って運ぶ事に決め、中でも最も体格のいい男が背中を貸すことになった。

そしてそのまま歩くこと数十分。

夜会に集まった貴族たちが乗りつけた馬車が延々と置かれているその一つに、彼らは乗り込んだ。

御者に合図を送り、彼らは誰からも疑問を抱かれることなく城門を出る。

「よし、無事に城門から出られたぞ」
「後は屋敷に、無事合流すれば任務完了だ」

王城の影がどんどんと小さくなっていく中、襲撃者たちは安堵したのだろう、口数が急に多くなっていく。

やがて馬車はとある屋敷の前に停まり、馬車の乗っていた者たちは皆、出迎えた召使たちに声をかけることもなくぞろぞろと入って行った。

「賢者さま、どうぞこちらに」

警戒心も露に周囲を見回す賢者くずれを一室に通すと、出迎えた邸の主人は丁重に着席を促した。

無言で座る賢者くずれの前に、一人の男が進み出て膝をつく。

「偉大なる賢者、ワイジャーマさま。私はベイベル国より参りましたアサドと申します。漸く貴方さまにお目にかかることが出来、光栄に存じます」
「・・・私の事を知っているのか」

初めて賢者くずれが口を開き、アサドを始めとした室内の男たちは口元を緩める。

「勿論、存じ上げております。貴方のようなお方があんな牢獄に囚われていたとは露知らず、お助けするのが遅れてしまいました。貴方に対してこのような扱いをしたこと、この国もいつかその報いを受ける事となりましょう」
「・・・そうだな」
「ワイジャーマさま。我が主人が貴方さまのお力を必要としております。ここにいては、いつ追手が来るとも限りません。どうか早急に、我が国ベイベルにお越しくださいますよう」

ここでアサドの後ろに立っていた者の一人が進み出て、何かを耳打ちした。
アサドはそれに頷くと、賢者くずれへと向き直る。

「ベイベルに向けて発つ準備をしております。まずは今夜のうちにシャウヘッセ伯爵領へと移動しますが、準備が終わり次第、ここを出発する予定です。それまで、食事と暫しのご休憩をお取りください」

そうして今度は、客室の一つへと賢者くずれを案内する。
食事の用意が出来るまで休むことになり、賢者くずれ一人を残して皆が退出すると、賢者くずれは窓際に行き、外の様子を窺った。

誰もいないことを確認して、窓枠に手をかける。
そして、窓を開けると懐から何かを取り出し、外へと放り投げた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...