【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
223 / 256

問題は

しおりを挟む
カリューガ子爵邸へと馬車を駆るのは、ラエラ・ライプニヒ。

馬車の中では、ルナフレイアが纏っていた夜会用の華美なドレスの裾をビリリと引き裂いている。
膝より少し下くらいにまで短くなったドレスは、裾周りは悲惨なことになっているにもかかわらず、何故かルナフレイアの纏う剣呑な空気としっくり合っていて。

紺色の鬘を外し、ヒールを厚底のブーツに履き替える。
そして馬車に予め乗せておいた武器を次々と装着していった。

ルナは、御者台に座るラエラへと声を張り上げる。

「門前まで行かなくても大丈夫ですよ。少し手前で降ろしていただければそれで」
「・・・わたくしの身を案じてらっしゃるの? でしたら無用の心配ですわ。わたくしも闘える人間です」

躊躇なく返された答えに、今度はルナフレイアが迷いを見せる。

「ですが・・・」
「わたくしのライバルであるベルフェルトさまの危機ですのよ? わたくしが此処で控えて、彼に何かあったら夫に会わせる顔がありませんわ」

そう叫びながら、ラエラは更に馬をけしかける。

「えっ? ラエラさまのライバル? ええっ? それってどういう・・・」
「わたくしのつまらない焼き餅ですわ。余り悩まないでくださいませ」
「ええと、はあ・・・分かりました」

微妙な表情で頷いたルナフレイアは、がさごそと動いていたかと思えば、長剣一振りと短剣を二振りをラエラに差し出した。

「それではラエラさま、こちらを・・・これで足ります?」
「念のため、短剣をあと二振り。もし有れば、ですけれど」
「大丈夫です。たっぷり積んでおきましたから」

国境を守り続けたロッテングルムの血統故なのか、危機的な状況になればなるほど更に生き生きとする表情は、味方にとっては妙に安心感を抱かせるもので。

「今、参りますからね。ベルフェルトさま」

祈るような呟き。
だが、そう呟いた刹那、カリューガ子爵邸のある方向で数えきれない程の爆発音がした。

「ルナフレイアさま」
「ええ。・・・始まったみたいね」

ルナフレイアは、ぐっと拳を握りしめた。




「なんだっ? 何の音だっ?」
「旦那さまっ、裏口の方から火が上がりましたっ!」
「二階の客間からもの凄い爆音が・・・っ!」
「旦那さま、外に火柱が上がるのが見えましたっ」
「きゃああああっ!」
「奥さま、そちらは危険です。どうぞこちらへ・・・っ」

カリューガ子爵邸は、上に下にと大騒ぎになっていた。

ベルフェルトが用意した癇癪玉の音は凄まじく、まるで小さな爆発でも起きたかのような錯覚を起こさせる。
加えて火薬玉は、ほんの数分ではあるが盛大な火花を撒き散らし、周囲の者たちを逃げ惑わせた。

あちらこちらと逃げ回る人々の中、一人になったところを見計らって相手を確実に倒していく。

・・・家の中にいた者たちは、寧ろ簡単だ。奴らは戦闘に関しては素人だからな。

そう、問題は。

ベルフェルトは、窓からちらりと外を覗いた。

庭や邸周りを私兵たちが走り回っている。

カリューガ子爵が抱える私兵たち。
見たところ、そちらを倒せたのはまだ数名、といったところか。

そこへ、階段を駆け上がる重々しい足音がした。
どうやらベルフェルトのいる部屋に向かっているらしい。

・・・賢者くずれの保護、か。

奴らにとっては大事なカード。
王国への不忠を問われるような行為に手を染めてもいい、と、思える程の。

ベルフェルトは、先ほど脱ぎ捨てた黄土色の鬘を手に取った。
そしてベッド脇に行くと、布団を丸めてある程度の厚みを作る。

おっと、そうだ。窓を開け放っておかねばな。
侵入経路を分かりやすく提示しておかねば、あちらも簡単に騙されてはくれなくなる。

ばん、と窓を開け放ち、ベッドの横に戻って来たところで、扉を激しく叩く音がした。

「賢者さまっ! ワイジャーマさまっ! ご無事ですかっ!」

ベルフェルトは万端を整えて、だが無言のまま私兵たちの反応を待った。

足音からしておよそ十数名。

ここでなるべく大人数を引きつけねばならない。

恐らく、じきに邸内の家人および召使いたちは制圧出来る筈。
あとは私兵たちをどうやって抑えこむか、だが。

返事がないのに焦れたのか、内側から施錠していたというのに、兵たちは扉を荒々しく叩きだすと、やがて勢いよく蹴破った。

そこで兵たちが目にした光景は。

ベッドの上で、ぐるぐるに布団で巻かれて横たわっている賢者の姿と。
賢者を抱え込むようにして座る紫の髪の美男子。
そして、その男の手には短剣が握られており、横たわる賢者の首元に当てている・・・ように見えた筈だ。

「なっ? 賢者さまに何を・・・っ! お前は何者だっ? どこから入った?」

そう言いながら、ベルフェルトの背後に開け放たれた窓があるのを見て、問うのも無駄だと考えたのか。
ぎっとベルフェルトを見据えると、兵たちは腰から剣をすらりと抜いた。

「おっと、それ以上は近づくな。オレの手にあるこの剣が見えない訳でもあるまい?」

ベルフェルトはそう言うと、丸めた布団に鬘を添えただけのモノに剣を押し当てた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...