【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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約束したじゃないですか

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丸めた布団に剣先を当て、涼しい顔で脅し文句を吐くベルフェルトに、駆け込んだ私兵たちはすっかり気圧されていた。

十、十一・・・十三人か。

ベルフェルトは集まった私兵の数を数え、頭の中で攻撃パターンを幾つか考える。

こいつらが大切な人質だと思ってるコレが、ただの丸けた布団だと分かったら、さぞかし怒り狂うだろうな。

そんな事を呑気に考える。

ファイたちの負担を出来るだけ減らし、殿下が到着するまで何としても保たせねばならん。
この時間稼ぎも、こいつらにジリジリと間を詰められれば終いだ。

・・・取り敢えず逃げるのを優先すべきか、それとも確実に五、六名を倒すことを目指すべきか。

服に仕込んだ暗器は、残り七つ。
投げれば確実に一人ずつ仕留められるが、それではすぐに武器がなくなってしまう。
やはりある程度近づかせてから、か。

そんな事を考えている間にも、私兵たちは横に広がりながら少しずつ囲いこんできていた。

まあ、さっき窓も開けた事だし、五、六名倒したらさっさと飛び降りるか。・・・うむ、それが一番無難かな。

などと悠長に考えていたら、痺れを切らしたのか、あちらから一人、唸り声を上げながら切りかかってきた。
それを持っていた短剣でカン、と躱す。

動けない程度に怪我を負わせておくしかないな。
戦力は削ぎたいが、なるべく殺さずに済ませたい。

・・・手っ取り早いのは、足、か。

まずは一人。

「ぐあっ!」

・・・二人。

太腿を押さえながら床に転がった同胞たちを見て頭に血が昇ったのか、今度は複数で打ちかかってきた。

・・・仕方ない。

布団の上に被せてあった鬘を兵の一人に投げつけ、すかさず太腿を刺す。
別の一人にはシーツを巻き付け動きを封じてから、やはり足を狙う。

返す刀で横に回り込んでいたもう一人も同様に。

その後すかさず窓際へと走り、飛び降りようとしたところで、追いついた兵士たちが背後から同時に斬りかかってきた。

・・・これは流石に多すぎる、か・・・?

一人目を躱し、二人目、そして三人目を相手しているところに左肩に痛みが走る。

「・・・っ!」

かすっただけだが、それでも、ベルフェルトの流れるような動きに、僅かの乱れが生じる。

まずい。

そう思った時だった。

ひゅっと空気を切る音と共に、自分のすぐ横を何かが横切っていく。
それは開け放っておいた窓からの一閃。
目の前で剣を振りかぶっていた兵の一人が、叫び声を上げて後ろに倒れ込んだ。

なんだ?

惑う間もなく、自分を囲んでいた筈の兵たちが一人、また一人と倒れていく。

気付けば、部屋の中に立っている男はベルフェルト一人になっていた。

「これは・・・?」

いきなりばたばたと倒れ、痛みで呻いている兵士たちを訝し気に見遣ると、その肩や足には矢が突き刺さっていて。

---そうですね、弓が一番、得意です---

瞬間、脳裏に浮かんだのは、無邪気で恐れを知らない笑顔。

「まさか・・・」

思わず漏らした言葉のすぐ後に、ここにいる筈のない人の声が響く。

「窓を開けておいてくれて助かりました」

それは暗闇から。
窓の向こうから。

まさか。
だって君は、カトリアナ嬢の代わりに囮になっている筈。

どれだけ早く片付けたとしても、せいぜいが馬車で移動中ってとこだろう。

なのに、何故。ここに君の声が聞こえるんだ。

「約束、しましたでしょ? 必ず私が助けますって」

慌てて窓に駆け寄り、身を乗り出して外を見回す。

眼下にはエントランス前に停めてある馬車と、そこから少し離れたところで剣を振るっている・・・。

「・・・ラエラ、夫人?」

いや、ちょっと待て。何がどうなってるんだ?

混乱する頭をまとめる暇もなく、再び扉の向こうから十数人の兵士たちが駆け込んで来る。
今は考えている暇はない。

振り向きざまに短剣を投げつけ、相手方が怯んだ隙に袖口から別のナイフを取り出す。
それを使って応戦しながら、投げた短剣を回収して目の前の相手を動けなくして・・・。

・・・まだ三人しか倒してないぞ?
なんで全員、床に転がってるんだ。

「ふふ、遠距離から攻撃できるって便利でしょ? だから弓って好きなんですよね」
「・・・どこにいるんだ? ルナフレイア嬢」
「あら、見えてませんでしたか? ここですよ、ここ。ほら、塀際の木の上」

声のする方に顔を向けて必死で目を凝らすと、一本の大きな木の枝にちょこんと乗っかっている何とも勇ましいご令嬢が。

その手は弓をつがえ、ベルフェルトと話をしながらも、ひゅんひゅんとあちらこちらに矢を放ち続けている。

眼下を見れば、かなりの人数の兵士が地面に転がっていた。

「ベルフェルトさまっ!」

そう呼びかけながらエントランスから顔を出したのは、ナイフを両の手に持ったファイだった。

「邸内は制圧完了です。外も直に終わるかと」
「・・・そうか」
「いやあ、一時はどうなる事かと思いましたが」

ファイはちらりとラエラに視線を向ける。それから木の上にいるルナフレイアに。
たった二人、しかも貴族令嬢という珍しい助っ人に大いに助けられたファイは、先ほどまでの緊張が嘘のように安堵の表情を浮かべている。

「ファイ、気を抜くな。外にはまだ闘える奴らが残ってるぞ」

ベルフェルトの叱咤に、了解、と答えながらファイも外の戦闘に加わった。
見れば、リノやハスラートも既に庭の方へと出てきている。
弓矢を使い果たしたのか、ルナフレイアは短剣を手に木から飛び降りて。

助っ人を加えても総勢たったの十一名。
なのに圧倒的勝利を収めつつあった。

ベルフェルトが階上から状況を判断し、適宜指示を与えていると、門前に複数の馬車が止まる音がした。

レオンハルトたち、本隊の到着だった。

「・・・って、なに、ここもほぼ終わってるじゃないか」

呆れたような声を上げるレオンハルトと、妻の勇ましい姿に絶句するリュークザインと、既に慣れ親しんだ従妹の戦闘モードにジト目のライナスと。

そんなこんなで、反逆者一味を全員、ひっ捕らえたレオンたちであった。

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