【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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試金石

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「わたくしが・・・? 本当によろしいのですか・・・?」

アナベラは驚いて目を瞠った。

罪人たちとは別に、謁見の間に呼び出されたアナベラは、それまで恐れでガタガタと震わせていた身体を、今度は違う意味で、歓喜で打ち震えていた。

「ああ、アナベラ嬢の勇気ある高潔な振る舞いを、私は高く評価する。スカッチ伯爵家に君のような臣下が残っていてくれたと聞いて、私がどれだけ嬉しかったか」
「・・・勿体ないお言葉でございます」

頭を深く下げるアナベラに、シャールベルムの眦が優しく下がる。

「爵位は一時、王家預かりとなるが、君の婚姻の際には爵位を戻す事を誓おう」
「ありがとうございます」

処罰を決定する中、王家への忠義を示したアナベラ嬢への温情ある裁定は、リュークザインたちの予期していた通りとなった。

シャウヘッセ伯爵家、カリューガ子爵家、スカッチ伯爵家、とまとめて下される処断だったため、すべて内密にとはいかなかったが、それでも細かく精査していく中で、それら家門の中でも、積極的に謀反行為を支持した者たちとそうしなかった者たちとに分かれていて。
そこでも更に、少数ながらも、アナベラのように行動によって自分の意思を示した者たちがいたことも明らかになった。

ハトに協力を申し出た者、アナベラが動く時に護衛を買って出た者、デサイファミスに報告に来た者、家門の行動を諫めた者もいたという。

数からすれば、謀反行為を企んだ者たちと比べて僅かではあるが、それでもシャールベルムは家門をまとめて滅することはせず、それら一人一人に、細やかに対応を変えていた。

「それでは、こちらでそのように手続きをしておきますからね。まあ、アナベラ嬢も適齢期だし、そうそう遠くない将来に爵位が戻される日が来るんじゃないかな」

穏やかな声でそう話すダイスヒル宰相に、アナベラは黙って頭を下げた。

そして現在、政情が不安定であるベイベル国とは一時国境を閉ざすことが決定し、これ以上の横やりが入らないようにされた。

こうして賢者くずれの力を狙う者たち、そして、それと同時に進行していた王太子妃の座を巡る陰謀は幕を閉じた。

だが、デサイファミスが敢えてエサとしてばら撒いている賢者くずれの噂はそのままに。
それは、この先もまた、王国に仇を成す者たちがいるかいないかの試金石としての役割を果たすことになる。

そうして沙汰が下り、後処理が行われ、漸く少しずつ周囲が落ち着いていって・・・。



「・・・まあ、これですべて問題解決って訳にはいかないけどね」

テーブルを挟んだ向こう側、穏やかに微笑む婚約者に向かって、レオンハルトはそう呟いた。

「でも、取りあえず事が落ちついたようでなによりでしたわ」
「ひとつ大きな問題に片が付いたとは思うけど、気分的にはまだまだ落ち着かないな。あ、嬉しい意味でね。だってもうすぐ結婚式だよ? やっとだよ? もう十年くらい待たされてた気分だもの」
「まあ」

くすくすと笑うカトリアナに、冗談じゃないんだけどね、とレオンが拗ねる。

「はい。わたくしも楽しみにしておりますわ」
「うん。僕も楽しみだよ。それに、あんな便りまで届いたしね」

カップを手に、レオンハルトは懐かしそうに目を眇める。
王太子とカトリアナとの婚姻の儀に、賢者ラファイエラスが祝福に訪れるという知らせが届いて皆を驚かせたのは、つい先日のことだ。

「実は、わたくしは直接お会いしたことがありませんの。だからとても楽しみなんですのよ」
「ああ、そうだったっけ。じゃあ、美しく着飾ったカトリアナを見てもらわないとな。ラファイエラスさまも、きっとカトリアナのドレス姿があまりに綺麗でビックリするぞ」

急にハードルを上げられ、カトリアナは慌てて言葉を挟む。

「ええと、あのレオンさま。ビックリして頂けるかどうかは分かりませんが、最大限、努力はいたしますわ。なんと言っても、エレアーナさまの命の恩人でいらっしゃいますもの」
「ふふ、カトリアナだったら、努力なんかしなくても、物凄く綺麗に決まってるよ」

そんなまさか、とカトリアナが謙遜しても、軽く一蹴されてしまう。

「大丈夫。君の美しさは僕が保証するから」

レオンはカトリアナの手を取り、その甲にそっと口づけを落とした。

「まあ、リュークザインは、もうじき優秀な部下が一人帰ってしまうって、残念そうにしてるけどね」

その言葉に、カトリアナが頷く。

「ルナフレイアさまは、わたくしたちの式が終わったら、領地に帰られるそうですね」
「うん。引き留めたくて、山ほど縁談を持ちかけたらしいけど、全部あっさり断られたみたいだよ」

テーブルに頬杖をついて、どこか遠くを眺めるような眼差しで言葉を継ぐ。

「まあ、国境警備も大事だから強くは言えないけどさ、彼女がここに居てくれたら助かるな、とは僕も思ってたんだよ。だから残念」
「そう、ですね・・・。わたくしも残念ですわ」

カトリアナは相槌を打ち、更に続けて言った。

「ベルフェルトさまも、それでよろしいと思われているのでしょうか」
「うーん、とてもそうは見えないけどな。そもそも、ベルフェルトはあちこちで浮き名を流してるけど、実のところその噂ってかなり盛ってるからね」
「まあ、やっぱりそうですのね」

うん、と頷いてから、困ったような笑みを浮かべた。

「何かのきっかけで、うまく変わってくれるといいな、とは思うよ」

そう言いながら、この国のために陰でひっそりと尽くしてくれる、少し天邪鬼の男を思い浮かべる。

本当に。
そうであって欲しい。

あいつはそういう幸せとは、ずっと無縁の男だったから。
いい加減、自分の幸せにも目を向けられるといいのに。

そう願わずにはいられなかった。

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