【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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浮き名のはなし

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レオンハルト王太子殿下とカトリアナ・マスカルバーノ侯爵令嬢の婚姻の儀を十日後に控えた午後のこと。


休暇を取ったベルフェルトとルナフレイアは、ある子爵の邸を非公式に訪ねていた。

そこで彼らを待っていたのは、麗しいご夫人方およびご令嬢の合わせて三人。

ちなみに仕事ではない。私用である。

どうしても話しておきたい事がある、と言うベルフェルトのたっての願いで、この不思議な顔ぶれでの会合が開かれたのである。

実はこの三人、ベルフェルトと噂になっていた女性たちのうちの数名にあたり、それぞれはラウール侯爵夫人、ドリアノア元伯爵夫人、そしてレイスヒル子爵令嬢である。

噂などが立って無用な面倒事を引き起こさないようベルフェルトもルナフレイアも変装しての訪れだった。

・・・と言っても、この面々での集まりに、何の剣呑さも見られない。
そう、別に痴話喧嘩でも、修羅場でもないのである。

それもその筈、実はこの三人の女性とベルフェルトとの間では、浮名を流すにあたってのある約束事が交わされていた。

「・・・フリ、ですか」

呆けたような、ルナフレイアの声が響いた。

テーブルを挟んで対面に座る三人の女性と、隣に座るベルフェルトが、まるで揃えたかのように、一斉に頷く。

「まあ、互いに縁談などを持ち込まれては困る事情を抱えていた者同士だったのでな、手を組むのはどうか、と持ちかけたのが始まりで・・・」

そう説明したベルフェルトの言葉を継いで、一人目の浮き名のお相手、ラウール侯爵夫人が口を開いた。

「わたくしは、七年前に夫を亡くしておりまして、忘れ形見である息子と二人で暮らしておりますの」

たおやかで楚々とした美人である侯爵夫人は、そう言って微笑んだ。

「バレンティンが成人した暁には、あの子にラウール侯爵家当主の座を継いで欲しい、その一心で、陛下のお許しをいただいて侯爵家当主の代行をわたくしが務めております」

ルナフレイアは、ピンときた。

「・・・そう言う事だったんですね」
「はい。侯爵家当主の座を狙う殿方が多くて困っておりまして、正直、ベルフェルトさまのお申し出はとてもありがたかったのですわ」

人目を欺くために、ベルフェルトはラウール侯爵家を訪れては数時間滞在したり、泊まっていったり。
勿論その際は、信頼のおける執事や侍女たちの複数の目がある中で、しかも夫人とではなくバレンティンと過ごしていたという。

「教師のように、あの子に剣や学問を教えてくださり、却ってこちらが申し訳なく感じるほどでしたわ」

ですが、ベルフェルトさまのご婚約にあたって誤解などがあってはいけませんからね、と夫人は続けた。

頷いたルナフレイアに、次はわたくしが、と口を開いたのが、ドリアノア元伯爵夫人である。

「わたくしも夫を亡くしまして、もう六年になりますかしら。年が離れておりましたから、結婚生活はさほど長くはありませんでしたわ」

こちらは、豊満な身体が悩ましい色気のある美人である。

「子どもも出来ませんでしたから、爵位は夫の弟に当たる方が継いだのですが・・・」

そこで眉を寄せ、はぁ、と大きな溜息を吐く。

「その義弟が、あろうことか言い寄って来たのですわ、わたくしに」
「・・・はあ?」

思わず呆けた声を出したルナフレイアに、元伯爵夫人は我が意を得たりとテーブルをばん、と手で叩いた。

「そうでしょう? はあ?、でございましょう? わたくしもそう思いましたわ。だって既に奥さまがいらっしゃるのよ?」
「はああ?」

はしたなくも更に大きな声を返してしまったルナフレイアだが、誰も彼女を咎めはしない。
寧ろ、皆うんうんと頷いている。

「要は愛人になれ、と言う事でしたの。馬鹿にするのも大概にして欲しいですわ。あんなハゲデブ親父の、しかも愛人だなんて、夫の時は政略結婚だったから我慢しましたけど、何を好き好んでわざわざあんな男と・・・!」

話しているうちに気分が悪くなったのだろう、眉間に皺を寄せ、両腕で自分の身体をぎゅっと抱え込んだ。

「あの、でもそれじゃ、これからはどうされるんですか?」

今後の事を考えたルナフレイアが心配すると、夫人はふふ、と笑った。

「大丈夫です。代わりの方をご紹介いただきましたから」
「ファイを紹介した。あいつは独身至上主義者でな、縁談を回避したくて騒いでいたから丁度良かった」

横からベルフェルトが説明を補足する。

「・・・わたくしは好いた方がいるのです」

三人目のレイスヒル子爵令嬢が語り始めた。

「ですが父が反対しておりますの。相手が平民だからと、許していただけず・・・」

儚げな雰囲気の美少女が物憂げに俯いてそう語りだす。
いかにも可哀想で守ってあげたくなる感じ・・・と、ルナがそう思った時。

令嬢はがばっと顔を上げて拳を突き上げた。

「冗談じゃありませんわ! 無理やりの縁談など断固阻止でございます! わたくしはどんな手段を使っても、愛しのダニエルさまと結婚しますわ!」

おお~っと歓声が上がり、拍手が巻き起こる。・・・勿論、隣にいる二人のご夫人たちからだ。

「・・・と言うわけで、現在、放蕩娘を演じておりますの。お陰さまで今は縁談も来なくなりましたわ。あっ、勿論、市井に下った時のために家事についても学んでおります。もう掃除も料理もなかなかの腕ですのよ?」

ちなみにダニエルさまもこの事はご存知です、と、にっこり笑って付け加えた。

わぁ、凄い。皆たくましい。
などと感心していたら。

横からすっと腕が伸びてきて、ルナフレイアを脇へと引き寄せる。

そのまま、とん、とぶつかったのは、ベルフェルトの広い胸板だ。

「・・・それで、理解してもらえたかな? オレが浮き名を流していた相手についての真実は」

ちなみに契約していたのはこの三人だけだが、その他の諸々の噂に関しては、ベルフェルトがフッたその他の女性たちが、勝手に色々なエピソードを創作して吹聴して歩いたらしい。

「誓って彼女たちとの間には何もない。というか、もともとこちらにそんな気もないところに仕事で忙しくて会う時間もないのだから、物理的にも有り得ない話なのだがな。・・・信じてくれるか?」

すっぽりと腕の中にくるまれた体勢でそう耳元に囁かれ、瞬時に頬を染めたルナフレイアは、ただ黙ってこくこくと頷きを返した。

「なら・・・よかった。オレが愛するのは真実、君ひとりだけだ。そのことを忘れないでくれ」

そう言って、温かく見守る三人の協力者たちの前でルナフレイアのおでこに口づけを落とした。

ルナフレイアの心拍数はギリギリ限界値にまで跳ね上がることになったが、だからと言って、彼女を抱えるベルフェルトの腕の力が緩んだりはしない。
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