【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
244 / 256

鍛錬、たんれん、また鍛錬

しおりを挟む
王城の敷地内にある鍛錬場で模造剣が激しくぶつかり合う音が響き渡る。

突きを躱し、振りかぶる。
返す剣で下から振り上げる。
体を捻って躱して、勢いをつけて打ちかかる。

あまりに激しい打ち合いに、普段であれば空き場所で素振りなり打ち合いなりなどをする他の騎士たちが、観覧用の席に座ったまま立ち上がれずにいた。

「凄ぇ熱の入りようだな、ライナス」
「ああ。ありゃ確かにアッテンしか相手出来ねぇや」

手本として見習いたくなるような鋭い剣技の応酬。

全体的にライナスバージの剣技が押しているものの、アッテンボローの華麗な技も素晴らしかった。

一時間以上にわたり打ち合った二人は、ここで漸く構えを解いた。

「やっと休憩を取る気になりましたのね?」

凛とした声の方向へと顔を向けると、観覧席の一番奥にシュリエラが立っていた。

本日非番であるアッテンボローに会いに来たのだろう。或いは最初からここで落ち合う約束でもしていたのだろうか。

大きめのバスケットを両手で抱えて階段を降りるシュリエラは、照れ隠しなのか少しばかり口を尖らせていて、その表情がまた周囲の騎士たちの目を惹きつける。

「おい、お前ら。俺の婚約者だぞ。あんま見るな」

鍛錬場の隅っこや観覧席の手前に座っていた騎士たちを、アッテンボローはじろりと睨め付ける。

かと思えば、「よく来たな、リーエ」と、愛しの婚約者には蕩けるような眼差しを向けるのだ。

隣でそれを見ていたライナスは、こいつホント器用だよな、などと感心しきりだ。

「鍛錬も程々になさいませ。王太子殿下の婚姻の儀が来週に控えていますのよ。警備を任せられている貴方がたが大怪我でもなさったら如何なさるおつもりですの?」

ベイベルに絡んだ一連の事件が収束を迎え、シュリエラも晴れて侍女を辞すことになり、今は半年後に控えた結婚式に向け、ライプニヒ邸にて花嫁修行中だ。

あの事件がきっかけとなって想いを打ち明け、婚約することになったシュリエラとアッテンボローだったが、蓋を開けてみればあの時のリュークザインの判断は正しかったことが判明した。

アッテンボローが婚約者の名乗りを挙げたことで回避した縁談の中に、あの件の関係者が紛れ込んでいたのだ。

情報収集のために婚約を持ちかけようとするなんて失礼にも程がありますわ、とシュリエラは怒り心頭だった。
そう、あの時のシュリエラはちょっと怖かった。

「まあまあ、こいつも必死なんだよ、リーエ。十年越しの恋が懸かってるもんだからさ」
「ちょっ、おい、アッテン!」
「恥ずかしがらずとも既に存じておりますわ、ライナスバージさま」

真っ赤な顔でアッテンボローの口を塞ごうとしたライナスに、シュリエラの冷ややかな声が突き刺さる。

「まあ、確かに不安になるのも分からなくはありませんわ。なにせ対決するお相手は、あのルナフレイアさまでさえ勝てないという強者でいらっしゃるのでしょう? 結婚を申し込みたい相手にズタボロに負けるのは余りにみっともないですしね」
「・・・」
「おい、リーエ。少しは手加減して言ってやれよ」
「あら、本当のことですわ」

すっぱりとそう言い放つと、ライナスの頬を指さした。

そこには突きを躱し損ねた時についた傷が。
薄らと血も滲んでいる。

「わたくしのアッテンさまがいくらお強いとはいえ、ライナスバージさまほどのお方が練習如きでかすり傷を負うなど言語道断ですわ」
「え・・・?」
「は・・・?」

シュリエラは、ばっちりキメ顔だ。

「どれだけお二人が実力に抜きん出たお強い騎士さまだとしても、ここの練習では一切の怪我も傷もあってはなりません。お二人ともそんなへなちょこな腕前ではございませんでしょう? なにせお二人は、当代若手で最強の騎士なのですから」
「・・・はぁ」
「まあ・・・うん」

なんとも言い難い表情で、もじもじと頷く二人に、シュリエラは得意げにそう言うと、おもむろにバスケットに手を突っ込み、薬袋を取り出した。

「という訳でどうぞ」

心なしかシュリエラの顔が赤らんでいるような。

「・・・」
「ええと、リーエ。これは?」
「見て分かりませんの? 薬袋ですわ。中に傷薬と絆創膏とあと包帯が入っています。お使いになるとよろしくてよ」
「・・・」
「・・・」
「何ですの? お二人とも、そのお顔は! さっさとお手当てなさいませ! 大事なお身体に何かあったらどうなさるおつもり?」

脱力している二人に、シュリエラは毛を逆立てた猫のように怒り続ける。

だが、そんな態度はアッテンボローをただ煽るだけだ。

「・・・はぁ。もう、リーエ。なんなの。可愛すぎだろ・・・」
「・・・なんていうか、アッテン、お前も苦労するな。なんだよ、あの攻撃は。上げて下げてが絶妙すぎだろ」
「分かるか? 正直あと半年、俺の理性が保つかどうか自信がない・・・」
「いや、それは保たせろよ。じゃないとリュークに殺されるぞ」
「うう・・・頑張る・・・」

煩悩の嵐に苛まれた二人は、その有り余る活力を何とか堪えようと更に鍛錬に勤しみ始め、そんな訳で貴重な休暇を丸っと一日、鍛錬に費やしたのだった。

ちなみに、シュリエラもそんな二人の様子を同じく丸一日、澄まし顔で眺め続けた。

時折叱りつけては、二人にお茶を飲ませたり薬袋を押し付けたりしながら。

そういう訳で、この日の鍛錬は滅茶苦茶はかどったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...