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鍛錬、たんれん、また鍛錬
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王城の敷地内にある鍛錬場で模造剣が激しくぶつかり合う音が響き渡る。
突きを躱し、振りかぶる。
返す剣で下から振り上げる。
体を捻って躱して、勢いをつけて打ちかかる。
あまりに激しい打ち合いに、普段であれば空き場所で素振りなり打ち合いなりなどをする他の騎士たちが、観覧用の席に座ったまま立ち上がれずにいた。
「凄ぇ熱の入りようだな、ライナス」
「ああ。ありゃ確かにアッテンしか相手出来ねぇや」
手本として見習いたくなるような鋭い剣技の応酬。
全体的にライナスバージの剣技が押しているものの、アッテンボローの華麗な技も素晴らしかった。
一時間以上にわたり打ち合った二人は、ここで漸く構えを解いた。
「やっと休憩を取る気になりましたのね?」
凛とした声の方向へと顔を向けると、観覧席の一番奥にシュリエラが立っていた。
本日非番であるアッテンボローに会いに来たのだろう。或いは最初からここで落ち合う約束でもしていたのだろうか。
大きめのバスケットを両手で抱えて階段を降りるシュリエラは、照れ隠しなのか少しばかり口を尖らせていて、その表情がまた周囲の騎士たちの目を惹きつける。
「おい、お前ら。俺の婚約者だぞ。あんま見るな」
鍛錬場の隅っこや観覧席の手前に座っていた騎士たちを、アッテンボローはじろりと睨め付ける。
かと思えば、「よく来たな、リーエ」と、愛しの婚約者には蕩けるような眼差しを向けるのだ。
隣でそれを見ていたライナスは、こいつホント器用だよな、などと感心しきりだ。
「鍛錬も程々になさいませ。王太子殿下の婚姻の儀が来週に控えていますのよ。警備を任せられている貴方がたが大怪我でもなさったら如何なさるおつもりですの?」
ベイベルに絡んだ一連の事件が収束を迎え、シュリエラも晴れて侍女を辞すことになり、今は半年後に控えた結婚式に向け、ライプニヒ邸にて花嫁修行中だ。
あの事件がきっかけとなって想いを打ち明け、婚約することになったシュリエラとアッテンボローだったが、蓋を開けてみればあの時のリュークザインの判断は正しかったことが判明した。
アッテンボローが婚約者の名乗りを挙げたことで回避した縁談の中に、あの件の関係者が紛れ込んでいたのだ。
情報収集のために婚約を持ちかけようとするなんて失礼にも程がありますわ、とシュリエラは怒り心頭だった。
そう、あの時のシュリエラはちょっと怖かった。
「まあまあ、こいつも必死なんだよ、リーエ。十年越しの恋が懸かってるもんだからさ」
「ちょっ、おい、アッテン!」
「恥ずかしがらずとも既に存じておりますわ、ライナスバージさま」
真っ赤な顔でアッテンボローの口を塞ごうとしたライナスに、シュリエラの冷ややかな声が突き刺さる。
「まあ、確かに不安になるのも分からなくはありませんわ。なにせ対決するお相手は、あのルナフレイアさまでさえ勝てないという強者でいらっしゃるのでしょう? 結婚を申し込みたい相手にズタボロに負けるのは余りにみっともないですしね」
「・・・」
「おい、リーエ。少しは手加減して言ってやれよ」
「あら、本当のことですわ」
すっぱりとそう言い放つと、ライナスの頬を指さした。
そこには突きを躱し損ねた時についた傷が。
薄らと血も滲んでいる。
「わたくしのアッテンさまがいくらお強いとはいえ、ライナスバージさまほどのお方が練習如きでかすり傷を負うなど言語道断ですわ」
「え・・・?」
「は・・・?」
シュリエラは、ばっちりキメ顔だ。
「どれだけお二人が実力に抜きん出たお強い騎士さまだとしても、ここの練習では一切の怪我も傷もあってはなりません。お二人ともそんなへなちょこな腕前ではございませんでしょう? なにせお二人は、当代若手で最強の騎士なのですから」
「・・・はぁ」
「まあ・・・うん」
なんとも言い難い表情で、もじもじと頷く二人に、シュリエラは得意げにそう言うと、おもむろにバスケットに手を突っ込み、薬袋を取り出した。
「という訳でどうぞ」
心なしかシュリエラの顔が赤らんでいるような。
「・・・」
「ええと、リーエ。これは?」
「見て分かりませんの? 薬袋ですわ。中に傷薬と絆創膏とあと包帯が入っています。お使いになるとよろしくてよ」
「・・・」
「・・・」
「何ですの? お二人とも、そのお顔は! さっさとお手当てなさいませ! 大事なお身体に何かあったらどうなさるおつもり?」
脱力している二人に、シュリエラは毛を逆立てた猫のように怒り続ける。
だが、そんな態度はアッテンボローをただ煽るだけだ。
「・・・はぁ。もう、リーエ。なんなの。可愛すぎだろ・・・」
「・・・なんていうか、アッテン、お前も苦労するな。なんだよ、あの攻撃は。上げて下げてが絶妙すぎだろ」
「分かるか? 正直あと半年、俺の理性が保つかどうか自信がない・・・」
「いや、それは保たせろよ。じゃないとリュークに殺されるぞ」
「うう・・・頑張る・・・」
煩悩の嵐に苛まれた二人は、その有り余る活力を何とか堪えようと更に鍛錬に勤しみ始め、そんな訳で貴重な休暇を丸っと一日、鍛錬に費やしたのだった。
ちなみに、シュリエラもそんな二人の様子を同じく丸一日、澄まし顔で眺め続けた。
時折叱りつけては、二人にお茶を飲ませたり薬袋を押し付けたりしながら。
そういう訳で、この日の鍛錬は滅茶苦茶はかどったのである。
突きを躱し、振りかぶる。
返す剣で下から振り上げる。
体を捻って躱して、勢いをつけて打ちかかる。
あまりに激しい打ち合いに、普段であれば空き場所で素振りなり打ち合いなりなどをする他の騎士たちが、観覧用の席に座ったまま立ち上がれずにいた。
「凄ぇ熱の入りようだな、ライナス」
「ああ。ありゃ確かにアッテンしか相手出来ねぇや」
手本として見習いたくなるような鋭い剣技の応酬。
全体的にライナスバージの剣技が押しているものの、アッテンボローの華麗な技も素晴らしかった。
一時間以上にわたり打ち合った二人は、ここで漸く構えを解いた。
「やっと休憩を取る気になりましたのね?」
凛とした声の方向へと顔を向けると、観覧席の一番奥にシュリエラが立っていた。
本日非番であるアッテンボローに会いに来たのだろう。或いは最初からここで落ち合う約束でもしていたのだろうか。
大きめのバスケットを両手で抱えて階段を降りるシュリエラは、照れ隠しなのか少しばかり口を尖らせていて、その表情がまた周囲の騎士たちの目を惹きつける。
「おい、お前ら。俺の婚約者だぞ。あんま見るな」
鍛錬場の隅っこや観覧席の手前に座っていた騎士たちを、アッテンボローはじろりと睨め付ける。
かと思えば、「よく来たな、リーエ」と、愛しの婚約者には蕩けるような眼差しを向けるのだ。
隣でそれを見ていたライナスは、こいつホント器用だよな、などと感心しきりだ。
「鍛錬も程々になさいませ。王太子殿下の婚姻の儀が来週に控えていますのよ。警備を任せられている貴方がたが大怪我でもなさったら如何なさるおつもりですの?」
ベイベルに絡んだ一連の事件が収束を迎え、シュリエラも晴れて侍女を辞すことになり、今は半年後に控えた結婚式に向け、ライプニヒ邸にて花嫁修行中だ。
あの事件がきっかけとなって想いを打ち明け、婚約することになったシュリエラとアッテンボローだったが、蓋を開けてみればあの時のリュークザインの判断は正しかったことが判明した。
アッテンボローが婚約者の名乗りを挙げたことで回避した縁談の中に、あの件の関係者が紛れ込んでいたのだ。
情報収集のために婚約を持ちかけようとするなんて失礼にも程がありますわ、とシュリエラは怒り心頭だった。
そう、あの時のシュリエラはちょっと怖かった。
「まあまあ、こいつも必死なんだよ、リーエ。十年越しの恋が懸かってるもんだからさ」
「ちょっ、おい、アッテン!」
「恥ずかしがらずとも既に存じておりますわ、ライナスバージさま」
真っ赤な顔でアッテンボローの口を塞ごうとしたライナスに、シュリエラの冷ややかな声が突き刺さる。
「まあ、確かに不安になるのも分からなくはありませんわ。なにせ対決するお相手は、あのルナフレイアさまでさえ勝てないという強者でいらっしゃるのでしょう? 結婚を申し込みたい相手にズタボロに負けるのは余りにみっともないですしね」
「・・・」
「おい、リーエ。少しは手加減して言ってやれよ」
「あら、本当のことですわ」
すっぱりとそう言い放つと、ライナスの頬を指さした。
そこには突きを躱し損ねた時についた傷が。
薄らと血も滲んでいる。
「わたくしのアッテンさまがいくらお強いとはいえ、ライナスバージさまほどのお方が練習如きでかすり傷を負うなど言語道断ですわ」
「え・・・?」
「は・・・?」
シュリエラは、ばっちりキメ顔だ。
「どれだけお二人が実力に抜きん出たお強い騎士さまだとしても、ここの練習では一切の怪我も傷もあってはなりません。お二人ともそんなへなちょこな腕前ではございませんでしょう? なにせお二人は、当代若手で最強の騎士なのですから」
「・・・はぁ」
「まあ・・・うん」
なんとも言い難い表情で、もじもじと頷く二人に、シュリエラは得意げにそう言うと、おもむろにバスケットに手を突っ込み、薬袋を取り出した。
「という訳でどうぞ」
心なしかシュリエラの顔が赤らんでいるような。
「・・・」
「ええと、リーエ。これは?」
「見て分かりませんの? 薬袋ですわ。中に傷薬と絆創膏とあと包帯が入っています。お使いになるとよろしくてよ」
「・・・」
「・・・」
「何ですの? お二人とも、そのお顔は! さっさとお手当てなさいませ! 大事なお身体に何かあったらどうなさるおつもり?」
脱力している二人に、シュリエラは毛を逆立てた猫のように怒り続ける。
だが、そんな態度はアッテンボローをただ煽るだけだ。
「・・・はぁ。もう、リーエ。なんなの。可愛すぎだろ・・・」
「・・・なんていうか、アッテン、お前も苦労するな。なんだよ、あの攻撃は。上げて下げてが絶妙すぎだろ」
「分かるか? 正直あと半年、俺の理性が保つかどうか自信がない・・・」
「いや、それは保たせろよ。じゃないとリュークに殺されるぞ」
「うう・・・頑張る・・・」
煩悩の嵐に苛まれた二人は、その有り余る活力を何とか堪えようと更に鍛錬に勤しみ始め、そんな訳で貴重な休暇を丸っと一日、鍛錬に費やしたのだった。
ちなみに、シュリエラもそんな二人の様子を同じく丸一日、澄まし顔で眺め続けた。
時折叱りつけては、二人にお茶を飲ませたり薬袋を押し付けたりしながら。
そういう訳で、この日の鍛錬は滅茶苦茶はかどったのである。
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