【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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その後のエピソード シュリエラは素直になれない 後編

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シュリエラの妊娠が分かり、今日も今日とて浮かれ気味で城勤から帰ってきたのは愛妻家のアッテンボロー。


そして、真っ直ぐに向かうのは妻の休む寝室。

ここ2か月ほど、シュリエラは酷い悪阻で横になっている事が多かったのだ。


「リーエ、大丈夫か?」


ベッドで横になる妻の顔を心配そうに覗きこむ。


だが、今日のアッテンボローの表情には、心配と気遣いの他に、少しの不安も混じっている。


それは、出迎えた執事から、シュリエラが午後に倒れたと報告を受けたからだ。


「なんだってまた、厨房なんかに行ったんだ」


昼食後の片付けも終わり、まだ夕食の用意が始まらない時間帯だったと聞いている。


だが、ここ暫く悪阻の症状がひどくて寝たきりだったシュリエラがそこに行った意味が、アッテンボローは分からないのだ。

もとよりシュリエラは料理好きな訳ではない。菓子ならたまに作っていたが。


自然、口調もいつもより少しキツくなっていた。


「無茶をしたらお腹の子にも障る。ようやく悪阻が治まってきたところじゃないか」


少し咎めるような口調で言うと、シュリエラはふい、と視線を逸らす。


「わたくしの勝手でしょう」
「・・・リーエ」
「それに本当に倒れた訳ではありませんわ。少し目眩がしただけ。その後はここで大人しく休んでましたもの」


シュリエラのツンとした物言いには慣れていたが、今日ばかりはアッテンボローも少しかちんときてしまう。


だってお腹には子どもがいるのだ。

何かあってからでは遅いのに。


・・・これは少しキツく言って聞かせないといけないかもな。


そう思って、更に一歩、ベッドに近づいた時だった。


コンコン


ノックの音がして、「失礼します」と侍女が扉を開けた。


今は二人きりにしてもらおうと、振り返ったアッテンボローは、侍女の手元に目をとめた。

トレーの上に、グラスが一つ。

それは普段、アッテンボローが邸内でデュールを楽しむ時に使っているものだ。


だが、グラスの隣にはデュールの瓶は添えられていないし、見たところ、既にグラスの中には何かが入っている。


不思議そうな顔で侍女を見ているアッテンボローの前に「どうぞ」とそのグラスがすっと差し出される。

アッテンボローが意味もわからずそれを受け取ると。


「旦那さま。こちら、奥さまからでございます」


そんな事を侍女が言ってきた。


「・・・え?」


呆けた声で問い返したアッテンボローは、渡されたグラスをしげしげと見つめる。


「これは?」


「デュールを使ったゼリーだそうです。甘さは控え目、デュールの豊かな香りが楽しめる大人のスイーツだとか」


そんな侍女からの説明を聞きながら。


「・・・だとか?」


他人事みたいな説明をしているが、これは誰が作ったんだ?


そう思って聞き返したのだが。


「ええ。そうらしいです。それで合ってますよね? 奥さま」
「・・・え?」


不思議に思ってシュリエラを見れば、すっぽりと頭までブランケットを被って隠れている。


・・・あ。
まさか厨房に行ってたのって。


思わず渡されたグラスを見つめる。

そこにさっと侍女から差し出されたのは長めの細いスプーンで。


「どうぞ。お召し上がりください。奥さまの手作りです」
「・・・」


・・・手作り。リーエの手作り。

アッテンボローの頬が、ふにゃりと緩む。


「もう! テルマったらどうして言っちゃうのよ? 黙って渡すように言っておいたでしょう?」
「黙って渡したら、奥さまのお気持ちが伝わりませんので」
「・・・べ、別にそういうのは伝わらなくて良いの!」
「まあ、それは失礼しました」


ちなみに、このテルマという侍女はシュリエラが嫁ぐ時に一緒にライプニヒ家からガルマルク家へとやって来た女性だ。


小さい時から身の回りの世話を担当していたらしく、非常にシュリエラとの距離が近い。


そのテルマは、呆けている私にそっと耳打ちしてきた。


「最近は横になっている事が多く、旦那さまに何もして差し上げられないからと、そう仰って」
「・・・」
「たいそう張り切っておられましたよ。まあ、張り切りすぎて目眩を起こしてしまいましたが」


テルマが何か囁いているのを見て、シュリエラが焦ったように声を上げる。


「もう! テルマ、余計なことは言わないで! 下がりなさい!」
「はい、かしこまりました。それでは」


そう言って、そそくさと出て行った侍女を恨めしそうに見つめるシュリエラの顔は真っ赤で。


「・・・」


アッテンボローは、スプーンでデュールゼリーをすくい、一口含む。


「・・・美味い」


どちらかと言うと辛党で、甘いものは得意じゃないが、これは美味い。


「・・・それは良うございました」


そう答えたシュリエラは、ぷいっと顔を背けてしまったけど、きっと。

ああ、きっと。


嬉しそうに笑ってるに違いない。

俺には見えないように。


「リーエ、愛してるよ」
「・・・わたくしもです」
「これ、美味いし、嬉しかった。でも、もう無理はするなよ?」
「・・・分かってます」


アッテンボローはグラスを脇に置くと、身を乗り出してシュリエラの額に口づけを落とした。


「ああ、でも」


シュリエラの頬ににそっと手を伸ばす。


「身体の調子が戻ったら、また作ってくれよな?」


そう優しく囁いた。


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