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その後のエピソード シュリエラは素直になれない 前編
しおりを挟むシュリエラとアッテンボローが結婚して一年半後のこと。
4か月前に近衛騎士隊第一班長に任命され、アッテンボローは同期の中で一番の出世頭となった。
そのアッテンが、仕事の準備を終えて、いつものお出かけの挨拶をしようと愛妻シュリエラの腰にそっと手を回した時に事件は起きた。
「行ってくるよ、リーエ」
そう言って、アッテンボローはシュリエラと優しく唇を重ね合う。
だが。
その瞬間まで、いつもの澄まし顔だったシュリエラが、何故かカッと目を見開いてアッテンボローをもの凄い勢いで押しのけられたのだ。
「・・・っ!」
非力なシュリエラが、騎士として身体を鍛え上げたアッテンボローを渾身の力で押したとて、何が起こる筈もない。
普通なら。
なのに今朝は、長身のアッテンボローが二、三歩よろけるくらいの勢いで押しのけたのだ。
「・・・リーエ・・・ッ?」
驚いて目をまん丸に見開いたアッテンボローだったが、彼のショックはそれだけには留まらなかった。
シュリエラは、いかにも気持ち悪そうに口を両手で押さえたのだ。
何が起きたのか、現状が理解できないアッテンボローは、ただ呆然とその場に佇む。
シュリエラは両手で口元を押さえたまま、涙目で邸奥へと走り去る。
「あ・・・っ、リ、リーエ・・・ッ?」
慌てて後を追いかけたアッテンボローだったが、動転する余り、いつもの冷静さはすっかり失っていた。
どうして。
シュリエラは基本、アッテンボローにツンツンしているが、それは心底からの拒絶ではない。
「嫌よ」と言っても頬は真っ赤になってるし、「嫌い」と口にしても眼は可愛らしく潤んでいる。
「馬鹿ね」と言われたって、その口調には愛情がこもっているし、「止めて」と言ったって、手はアッテンボローの服の裾を握って離さないのだ。
下げて上げてが絶妙で、そこがたまらなく可愛くて。
だからこんな行為はあり得ない。
拒否だけをぶつけてくるなんて。
「リーエッ! 一体どうしたんだ? 何があったっ?」
青褪めた顔でバダバタと愛する妻の後を追いかけるアッテンボローを静かに見つめるのはエントランスの扉を開けて待っていた執事。
そして見送りのために出て来ていた侍女や使用人たち。
彼らは皆、シュリエラが何故いきなり吐き気を催したのか、その理由をうすうす
察していた。
だからそこにいる皆の視線は温かい。
口元には笑みすら浮かんでいる。
なんとめでたい。
お祝いをしなくては。
思わずそんな言葉が口を突いて出そうになって、慌てて口を抑える。
迂闊な事は口に出来ない。
お世継ぎの事で、我が主人にぬか喜びをさせてはいけない。
「・・・医者の手配を」
「かしこまりました」
シュリエラが急に吐き気を催した原因。
未だそれを知らぬは当のシュリエラとアッテンボローばかりだった。
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