【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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その後のエピソード 堅物男は、妻の出産に立ち会いたい

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デサイファミスの長官執務室。


山と積まれた書類に囲まれ、長官であるリュークザインはひたすらにペンを動かしていた。


彼の秘書であり、愛する妻であるラエラはただ今、産休中である。


といっても、まだ赤子は生まれていない。


臨月を迎え、産休に入ったのがつい10日前のことなのだ。


有能な秘書が抜けた穴は大きく、ただでさえ普段から多忙を極めるデサイファミス内部は、今や殺意を感じる程に忙しかった。


ラエラ以外の秘書は要らない、と、頑なに臨時秘書の雇用を拒んだせいもあるのだろうか。

結果、書類の仕訳から始めなければならないような状況なのだが、それでもリュークザインはひたすら無心で仕事をこなした。


何故なら彼には一つの大きな野望があったから。


その日のために、その時のために、リュークは休みもろくに取らずに一心不乱に仕事をしていた。


静かな室内は、時を刻む時計の針の音しかしない。

耳を澄ませば、リュークザインが走らせるペンの音も微かに聞こえる。


リュークは昼食を取るのも忘れ、ただただ書類を片付けていった。


ベイベル国とのいざこざも決着がつき、王国内の不穏分子の炙り出しもほぼ完了。


それに至るまでのあの怒涛の日々を思えば、この程度の忙しさなど、リュークにとっては可愛いものだった。


そうして、いつの間にか書類の山が綺麗さっぱりなくなった頃のこと。


リュークはペンを置くと、肩に手を当て大きく息を吐いた。


「もうこんな時間か」


うっかり昼食を抜いてしまった、と思っていたが、どうやら夕食も取り忘れたようだ。


ラエラに知れたら怒られてしまうな。

貴方はわたくしを置いて先に死ぬおつもりですか? なんて脅されそうだ。


そんな他愛のない想像だけで、ふっと頬が緩む。


机の引き出しをガラリと開けて、そこに仕舞っておいた非常食をひとつ取り出し口の中に放り込む。


さて、今日の仕事はこれでほぼ終わり・・・


そんな事を考えていると、廊下の方から慌ただしい足音が聞こえてきた。


その足音の主は、リュークの執務室の前でぴたりと止まると、ノックもなしにいきなり飛び込んできた。


襲撃か?


咄嗟にそう怪しんだのも仕方がないと言えよう。


なにせここは機密保持と国家安全の要、デサイファミスなのだから。


だが幸いなことに、足音の主は襲撃者ではなかった。


「リューク! 良かった、まだここにいたのか!」

「・・・ベル。どうした、何があった?」


暗部長のベルフェルトが、珍しく焦った様子で駆け込んできたのを見て、何か厄介事でも起きたのかと、リュークは眉を顰めた。


「何かではないぞ! いや、何かだな。その、リューク。落ち着いて聞いてくれ。いいか、落ち着くんだぞ?」


この男は何を焦っているのか。

大抵の事は嫌味な笑顔でサラリとこなす男が、これ程までに焦っているのは初めてのような気がする。


もしや、過去のエレアーナ嬢襲撃事件に迫るほどの緊急案件か?

あの時は賢者くずれが現れて、相当な騒ぎになったが。


それとも、過去にカトリアナ妃殿下を狙った輩の残党でも暴れ出したか?

全て取り締まったと思っていたが、詰めが甘かったか。


瞬時にそんな考えを巡らせたリュークザインだったが、ベルフェルトの発した言葉は彼にとって予想外の事だった。


いや、ある意味、最も予想可能な言葉だったのだが。


「ルナからの伝言だ。夫人が・・・お前の奥方が産気づいた!」

「・・・っ!」


刹那、リュークザインは立ち上がり、電光石火の動きで荷物を鞄に詰め込むと、扉を駆け抜けて行った。


机の上には、いつの間に用意したのか有給休暇の申請書の紙が一枚、ちゃっかりと置いてある。


「全くあいつは」


疾風怒濤の走りを見せたリュークに、ベルフェルトは呆れの混じった笑みを溢す。


余りの勢いに、もう後ろ姿さえ見えない。


それもその筈、リュークザインはこの日のためにずっと頑張って来たのだ。

寝る間も惜しみ、前倒しで仕事をこなし、最低でも一か月の休暇をもぎ取るために。


「あの分じゃ、一か月どころの休みじゃ済まないかもしれないな」


そうぼやくベルフェルトの顔はとても嬉しそうだ。


リュークザインはひた走る。

ライプニヒ邸へ、愛する妻ラエラのもとへ。


産みの苦しみを味わうラエラに寄り添い、励まし、出産に立ち会って、その苦労をねぎらい、世話をして、そして。


せめて愛する妻と生まれてきた我が子とひと月だけでも共に時間を過ごすために。


そう。

この日のために、ずっと頑張ってきたのだから。


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