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第1章
第74話 薬師のおばあちゃん
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兄上はニコニコしながら僕の頭をぐりぐりと撫でた後、ちょっと真剣な目をして片眉を吊り上げた。
「もし、何かヤバそうな夢を見たら、ちゃんと言えよ。何かあってから、『前に夢で見てました』って言っても遅いだろ。」
「何かって……うちの家族とか町に?」
ヤバそうな夢とか言われると怖ってしまう。
「何でもだよ。そんな不安そうな顔をするな。よし、とりあえず、薬師のばあちゃんのとこ行くぞ。」
僕が怖いような不安な気持ちでいることに気がついたのか、兄上はもう一度グイグイと僕の頭をこねてから、町の方に向かってゆっくりと歩き出した。
僕は髪が変になっていないか手で触って確認してから兄上の後を追いかけた。
まだ空が少し薄暗いくらいの早朝だけど、冒険者ギルドの近くにはまばらに人がいる。
スープ売りの屋台から肉を茹でた時のような匂いが漂ってくる。ちょっと肉の臭みがありそうな感じ。食べてみたら美味しいんだろうか。
串焼きの屋台も出ている。冒険者ギルドで依頼を受けて出てきた人が腹ごしらえにその場で食べたり、買ってどこかに出掛けて行ったりしているようだ。
冒険者ギルドの中の気配は少なめ。まだ朝早いからかな。依頼が出るのが朝が多いから、ギルドは朝は人が多いって聞いたことがあるけど、早すぎるか遅かったか、その日の依頼が出るピーク時間ではないようだ。
中を伺うように冒険者ギルドの前を通り過ぎた後、ギルドの建物の横の路地に入って、ギルドの裏手に出た。
ギルド裏にある薬師のおばあちゃんの店の前には「閉店」の看板が出ているけど、構わずに薬師の店の横の通路を通って、裏口の扉をノックした。
「おばあちゃん、おはようございます。」
僕がトントンとノックして声をかけると、中で誰かが動く気配がした。少し待つとゆっくりと裏口の扉が少し開いた。白髪の不機嫌そうな女性が顔を覗かせる。
「……まだ開店前だよ。」
「おはようございます!チーズパン持ってきた。焼きたてだよ!」
「そうかい。」
兄上と二人で元気よく挨拶をしてチーズパンが入った包みを差し出すと薬師のおばあちゃんの口の端が少し持ち上がった。ドアを大きく開けて僕達を招き入れてくれる。
僕が差し出したまだホカホカと温かいチーズパン入りの包みを受け取ると、薬師のおばあちゃんは小さい木のテーブルを指し示す。
「座んな。ちょうど、湯を沸かしたところだ。茶を淹れてやろう。」
「わーい。ありがとうございます!」
「ありがとうございます。」
お礼を言うと、「ふん」と薬師のおばあちゃんが顔を背けた。
薬師のおばあちゃんは、別にチーズ入りのパンを差し入れしなくても、僕達を迎え入れてはくれたと思う。
でも、大抵、最初はちょっと不機嫌みたいな態度をとるんだ。
湯気がたっぷりと出ている湯をポットに注ぎ入れた後、戸棚に手を伸ばしてカップを二つ手に取る。ポットの蓋の上に手を置いて数秒。まるでおまじないか何かしているみたいな仕草だ。少ししてからポットの蓋を開けるともわっと湯気が上りたった。蓋を閉めて、ポットの茶を新しく出したカップに注ぎ入れた。
湯気が立ち上るカップを僕と兄上の前に置いてくれて、ゆっくりとした動作で椅子に腰を下ろした薬師のおばあちゃんはじっと僕達を見た。
「……で、何の用だい?」
「すみません。こんな朝早くに。」
「まったくだね。それなりに重要な用事なんだろうねぇ。」
「はい!実は見ていただきたいものがあって……。」
兄上は早朝に来訪したことを謝ってから、リュックの中から光水の入った一本の瓶を取り出してテーブルの上に置いた。
「これは……。」
薬師のおばあちゃんは瓶を手にとってから目を見開いた。おばあちゃんの瞳が淡く光った。じっと瓶を凝視している。手を近づけたり、遠ざけたりしている。老眼かな。
「……解毒剤だね。それも特殊な…『呪いの毒』を解毒できるものだ。それと一時的な毒耐性も。……これをどうしんだい?」
どうやら鑑定をしていたらしい。
ギロリと探るように薬師のおばあちゃんが僕達を見た。光水の効果は僕が思ったのと一致しているみたいだ。鋭い圧がチラチラと僕達に向ける。。
「父が遠征に行って変わった果物を取ってきたんです。その果実を魔石水に入れたら、これが出来たんです。こっちが果実水を加える前の魔石水です。」
兄上が落ち着いた口調で説明してくれる。そして毒耐性の魔石入りの泉の水の瓶をリュックから出してトンっとテーブルの上に置いた。
「もし、何かヤバそうな夢を見たら、ちゃんと言えよ。何かあってから、『前に夢で見てました』って言っても遅いだろ。」
「何かって……うちの家族とか町に?」
ヤバそうな夢とか言われると怖ってしまう。
「何でもだよ。そんな不安そうな顔をするな。よし、とりあえず、薬師のばあちゃんのとこ行くぞ。」
僕が怖いような不安な気持ちでいることに気がついたのか、兄上はもう一度グイグイと僕の頭をこねてから、町の方に向かってゆっくりと歩き出した。
僕は髪が変になっていないか手で触って確認してから兄上の後を追いかけた。
まだ空が少し薄暗いくらいの早朝だけど、冒険者ギルドの近くにはまばらに人がいる。
スープ売りの屋台から肉を茹でた時のような匂いが漂ってくる。ちょっと肉の臭みがありそうな感じ。食べてみたら美味しいんだろうか。
串焼きの屋台も出ている。冒険者ギルドで依頼を受けて出てきた人が腹ごしらえにその場で食べたり、買ってどこかに出掛けて行ったりしているようだ。
冒険者ギルドの中の気配は少なめ。まだ朝早いからかな。依頼が出るのが朝が多いから、ギルドは朝は人が多いって聞いたことがあるけど、早すぎるか遅かったか、その日の依頼が出るピーク時間ではないようだ。
中を伺うように冒険者ギルドの前を通り過ぎた後、ギルドの建物の横の路地に入って、ギルドの裏手に出た。
ギルド裏にある薬師のおばあちゃんの店の前には「閉店」の看板が出ているけど、構わずに薬師の店の横の通路を通って、裏口の扉をノックした。
「おばあちゃん、おはようございます。」
僕がトントンとノックして声をかけると、中で誰かが動く気配がした。少し待つとゆっくりと裏口の扉が少し開いた。白髪の不機嫌そうな女性が顔を覗かせる。
「……まだ開店前だよ。」
「おはようございます!チーズパン持ってきた。焼きたてだよ!」
「そうかい。」
兄上と二人で元気よく挨拶をしてチーズパンが入った包みを差し出すと薬師のおばあちゃんの口の端が少し持ち上がった。ドアを大きく開けて僕達を招き入れてくれる。
僕が差し出したまだホカホカと温かいチーズパン入りの包みを受け取ると、薬師のおばあちゃんは小さい木のテーブルを指し示す。
「座んな。ちょうど、湯を沸かしたところだ。茶を淹れてやろう。」
「わーい。ありがとうございます!」
「ありがとうございます。」
お礼を言うと、「ふん」と薬師のおばあちゃんが顔を背けた。
薬師のおばあちゃんは、別にチーズ入りのパンを差し入れしなくても、僕達を迎え入れてはくれたと思う。
でも、大抵、最初はちょっと不機嫌みたいな態度をとるんだ。
湯気がたっぷりと出ている湯をポットに注ぎ入れた後、戸棚に手を伸ばしてカップを二つ手に取る。ポットの蓋の上に手を置いて数秒。まるでおまじないか何かしているみたいな仕草だ。少ししてからポットの蓋を開けるともわっと湯気が上りたった。蓋を閉めて、ポットの茶を新しく出したカップに注ぎ入れた。
湯気が立ち上るカップを僕と兄上の前に置いてくれて、ゆっくりとした動作で椅子に腰を下ろした薬師のおばあちゃんはじっと僕達を見た。
「……で、何の用だい?」
「すみません。こんな朝早くに。」
「まったくだね。それなりに重要な用事なんだろうねぇ。」
「はい!実は見ていただきたいものがあって……。」
兄上は早朝に来訪したことを謝ってから、リュックの中から光水の入った一本の瓶を取り出してテーブルの上に置いた。
「これは……。」
薬師のおばあちゃんは瓶を手にとってから目を見開いた。おばあちゃんの瞳が淡く光った。じっと瓶を凝視している。手を近づけたり、遠ざけたりしている。老眼かな。
「……解毒剤だね。それも特殊な…『呪いの毒』を解毒できるものだ。それと一時的な毒耐性も。……これをどうしんだい?」
どうやら鑑定をしていたらしい。
ギロリと探るように薬師のおばあちゃんが僕達を見た。光水の効果は僕が思ったのと一致しているみたいだ。鋭い圧がチラチラと僕達に向ける。。
「父が遠征に行って変わった果物を取ってきたんです。その果実を魔石水に入れたら、これが出来たんです。こっちが果実水を加える前の魔石水です。」
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