転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

第1章

第132話 宴の飲み物

厨房に戻るとジャックが平謝りしてきた。

「申し訳ありませんでした！坊ちゃん達に解体をしていただいてしまって……」
「ジャックは何も悪くないよ」
「そうだよ。夕食の準備で忙しかったんだし」

角兎以外の調理はほぼ終わった状態になっていたようだ。大きなお鍋からは湯気が出ていて良い匂いが漂っている。
兄上が「収納」から角兎を出して作業台の上に並べた。

「解体してみたけど、やっぱりボロボロだったよ。使えそう？」
「旦那様と奥様に報告をしておきました。状態のあまり良くない各兎を持ち込まれて調理を頼まれたことと、坊ちゃん達に解体をお願いしてしまったことを……。使用できる部位があるかもわからないと旦那様からお客様にお話いただいたようなのですが一口ずつでも構わないとお願いされたようでして……」
「うん。結局、料理することになったんだね」

ジャックは困った様子で作業台の上の解体済みの角兎に目を向けた。
せっかく解体したんだから、料理してくれた方が良いのかな。

「何でも初討伐の記念の晩餐として王都へのお土産話にしたいのだとか」
「初討伐は、スライムなのにね」
「……『初めて角兎を狩った』お祝いをなさりたいのでしょう……」
「お祝いだと、パーティみたいにするの？」
「盛大なものではなく、滞在中の騎士の方達にも角兎とお酒を振る舞って、デザートなどを豪華にとのことでした」
「え？追加リクエストされてるじゃん」
「まあ、肉を多めに切り分けるだけですから」

屋敷に滞在している王宮騎士の人達とかの食事は元々用意しているから、
角兎のソテーが夕食メニューに一品増えるくらいは大したことないとジャックは言うけど本当に大丈夫なのかな。

僕達と話しながら、作業台の角兎を一つずつひっくり返してみたりしてチェックしている。
ここで話をしていてもジャックの作業を止めてしまいそうだ。

「もし、何か手伝えることが有ったら言ってね」
「はい。お気遣いありがとうございます！」

邪魔にならないように厨房を出ると、マーサが廊下の向こうから台車を押してくるのが見えた。台車の上に乗っている木箱から瓶がいくつか見える。

「マーサ、それはお酒？」
「はい。本日のお夕食にお客様にお出しするお酒です」

瓶にタグが付いている。普段は樽に入ったワインを瓶に移し変えたりしているけど、タグがついているワインは何年も保管をしていたやつだ。父上が何か特別な時に飲んでいるようなお酒だと思う。

「お祝い用なんだね」
「はい」
「殿下達も飲むの？」
「いえ。お酒はお召し上がりにはならないです」
「じゃあ、辺境伯様用なの？」
「はい、辺境伯様とオーキッド伯爵様にお召し上がっていただく為にご用意しています」
「お酒を飲まない人用はどうするの？」
「果実水をご用意していますが……。お酒を召し上がらない方のお食事中のお飲み物は種類がないものですから……」

母様はお酒は成人してからじゃないと飲んじゃダメって僕達に言っている。法律で禁止はされていないけど若いうちから飲むと、身長とか魔力とかの成長に影響するからなんだって。
だけど冒険者登録ができる十二歳位からお酒を飲む人もいるって聞いたことがある。
貴族は魔力を重視するから成人までお酒を飲まない人が多いそうだ。殿下やハロルド君もお酒は飲まないらしい。
殿下達のお祝いのはずのに、お酒を飲む人にしか特別な飲み物がないのもちょっと微妙な気がしてしまう。