転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第140話 祝辞を述べる

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ちょっとバツが悪そうな顔をしながらゴブレットの中の飲み物を口にする兄上の顔をじっと見つめた。

「兄上、さっきちょっと怒ってた?」
「さっき?……それより、食事が始まる前に、お祝いを言いに行くぞ」

僕の質問に答えずに兄上は僕を広間の中央の方に促した。

ネイサン殿下達にお祝いを言う為の列ができていたけど、参加している人が限られているからあっという間に順番が来る。

「『初討伐』おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
「ありがとう。……正確にはスライムの時が『初討伐』だけど、目を瞑ってくれ」

兄上がお祝いの言葉を述べたので僕も続いた。真似したみたいになっちゃった。
ネイサン殿下はちょっと気まずげに口の端を上げ、隣のハロルド君の方をチラリと目線を動かした。

「スライムも『初討伐』ですが、角兎は『討伐して食べる魔獣の初討伐』ですよ」
「そうだな」

ハロルド君がフォローをすると、殿下がニコリとして頷いた。

「初めて魔獣を討伐して、祝いの宴を開き、倒した魔獣の肉を食する。
素敵な土産話になるよ。なあ、ハロルド」

ネイサン殿下がハロルド君に同意を求めると、ハロルド君が頷いた。少しズレたメガネを指先で直してから口を開いた。

「学園の面接試験で、『初討伐』について質問されることがあるそうなんだ。
面接試験は、社交の場の対応力が重視されるからね。興味を持たれる話題が多いほど良いと言われているんだ。
この飲み物だけでも十分語れそうだよ」

ハロルド君が微笑んでゴブレットを軽く掲げて果実炭酸光水を飲んだ。
「小さな泡みたいなものが絶え間なく浮き上がってきていて、飲むと口の中でチリチリと弾けるようだ」
「まあ、ハロルド、その表現、メモしておきたいわ」

シェリル嬢が使用人を呼び寄せて書き留めるように伝えている。
リネリア嬢はゴブレットを掲げてみたり、ゴブレットに顔を近付けて覗き込んだりしていた。
ゴブレットに耳を近づけて、パッと目を見開いて顔を上げた。

「この飲み物、よく聞いてみるとパチパチ音がします!」
「え?わぁ」
「へぇ」
「ふむ」

ネイサン殿下達も興味深げにゴブレットに耳を近づけてみている。炭酸の音だと思うけど、炭酸は飲み慣れていないのかな。

お祝いの言葉を伝える順番は僕達が最後だった。護衛騎士の人達がお祝いを言いに集まってきたりはしないらしい。
まあ、護衛中だからね。

マーサが、足つきの小さい綺麗な器に載せられたおつまみみたいなものを運んできた。

「ああ、これはもしかして……」
「角兎のハーブソテーでございます」
「町で食べた角兎のソテーと見た目が違うね」
「はい。特別なレシピでお作りしいたしました」

運ばれてきたのは角兎を使った料理だった。ハーブがまぶされていて、一口サイズで串が刺さっている。

お盆の上に乗せられた料理にネイサン殿下が手を伸ばしかけた時、「お毒見を」と言って騎士が代わりに器を受け取った、
二本の串刺し肉のうちの一本は毒見で消えていった。

元々の量が少ないから半分毒見で食べられちゃうのかと、ちょっと気の毒に思ったけどネイサン殿下はあまり気にしていない様子だ。
毒見が終わった器を受け取って、串刺しの角兎のハーブソテーを口に含んで
ちょっと驚いたように目を見開いた後、花が咲くような笑顔を見せた。
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