転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

文字の大きさ
141 / 334
第1章

第141話 宴の食レポ

しおりを挟む
「凄く美味しいよ!この角兎を僕達が倒したんだね!凄い!」
「ハーブの香りがジューシーな肉の旨みをより引き立てているようだ。町で食べた角兎のソテーもとても美味しかったけれどこれは、見た目にも凝っていて美しく、味も素晴らしい」
「ハロルド、今のメモして良い?……とっても美味しいわ。ここのシェフは優秀ね」
「美味しい……ですわ」

殿下達が口々に感想を言ってくれる。気に入ってもらえたようだ。
お祝いの言葉だけ言ったらとっとと退散するはずなのだけど、流れで僕と兄上にも角兎のハーブソテーが盛られた器が配られた。マーサが当然のように渡してきたので、元々僕達ように用意されていたようだ。

誰かの分が僕達に配られたのでなかったようなので食べても大丈夫そうだ。少し齧ると、肉汁が口の中に広がり、スッとするハーブの香りとニンニクの香ばしい香りが鼻をくすぐる。
血抜きされてなかったから、肉の臭みを消すために香草をふんだんに使ったのかなと思う。

さすがジャック。あのボロボロだった角兎をちゃんと美味しい料理に仕上げている。肉の臭みも感じない。焼き加減もバッチリだ。
形が綺麗な部位以外も、使える部分はシチューかスープにして滞在している騎士への差し入れとして出すそうだ。そっちもきっと美味しく作っているんだろうな。

ご相伴に預かったお礼も言って、そろそろ離れにお暇することにした。

兄上と僕で並んでお辞儀をした。立ち去る前にチラリと父上と母様の方を見る。
辺境伯様と話をしている父上はこちらを見ていなかった、と思ったらギロリと父上の目が動いて僕達の方に向けられた。
父上がスッと軽く片手を上げた。父上の様子を見たのか辺境伯様がこちらを振り返った。
「ご苦労だった」みたいな表情で、辺境伯様が小さく頷いた。兄上が辺境伯様に向かってもう一度お辞儀をしたので、僕も続いた。

「角兎肉も美味だけど、この光り輝く飲み物もとても美味しい。
これ、もっと飲みたいな」

背後でネイサン殿下の声がした。スッと誰かが移動する気配。侍女らしき人が
広間の壁際のドリンクや食器を置いている場所に向かっていく。

凄い、素早い、と目で追っていたら、何だかモヤっとした気配を感じた。
本館の裏手の辺りに感じた嫌な気配に近い。
森の中で木の上とかから魔獣に見られている時の感覚にもちょっと似ている。

襲い掛かる気まではないけど、場合によっては突いてやろうというような、明確な殺意ではないけど、やんわりとした「害意」のようなもの。

何処だ?

武器を手にしたくて、指が動いてしまいそうになる。でも、殿下のお祝いの席だから、弓矢はもちろん、短剣も身につけていない。
「収納」には何を入れてたっけと考えながらゆっくりと周囲を見回す。

広間には、殿下達と僕の家族の他、辺境伯様とオーキッド伯爵がいて、
他はゴーシュさんを始めとする護衛騎士。レオノールさんもいる。飲み物を取りに行った侍女の人と後はマーサだ。
広間に面した庭園にも、護衛騎士が数人配置されている。

見回していると一瞬レオノールさんと目が合った。
僕の様子が変だったと思ったのか、不思議そうに目を瞬かせた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...