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第1章
第172話 正解がわからない
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微妙な空気が流れた。ハロルド君は小さく息を吐くと、指先で眼鏡をクイっと上げた。
「……僕にはまだ狙ったところにキチンと当てられるほどの腕はありませんよ。魔法の訓練を始めたばかりですし」
「そうかなぁ……」
ネイサン殿下はクニュっと唇を少し歪めて、何か思いついたように目を大きくして兄上の方に振り向いた。
「ねえ、見ててどう思った?ハロルドは狙った時は当ててたと思わない?」
いきなり兄上に話が振られる。ピリッと緊張した気配が兄上から伝わってくる。
「……お話を伺っていると魔力を訓練の最後まで保たすように、一度にどのくらいの魔力を込めるのかを
意識なさっていたのではと思いますが、側から見ていただけではどのように魔力を込めようとされていたのかは分かりませんでした」
ちょっと緊張したゆっくりとした口調で兄上が絞り出すように言う。
まあ、魔力配分をどうしようとしていたのかなんて、本人しかわからないよね。狙ったところに当たったかどうかも分からない。的の中心を狙ったのに端っこに当たったのか、最初から端っこを狙ってたのかも不明だし。
ふむふむと頷いていると、急に探るような目線が僕を追いかけてきた。
「君は?どう思う?」
「え?」
ネイサン殿下がニコリとして悪戯っぽい表情を浮かべて僕を見ている。
何で僕にまで訊くんだろう。
ネイサン殿下の様子からすると、困っていて答えが知りたいって感じじゃなさそうなんだけどなぁ。
ネイサン殿下は、ハロルド君がわざと的を外していたって証言をさせたいのかな。証言させてどうする気なんだろう。
モヤモヤした気配が僕に集まってくる。探るような気配とちょっと「害意」に近いような気配。
気配の元は、位置からすると周囲にいる騎士達からだ。
僕が何を言うか様子を伺っているのかな。
「害意」っぽい気配は余計なことを言うなっていう圧なんだろうか?
困るよ。
良くわからない問題を出された気分。どんな答えが正解?
視界の端に映っているハロルド君はちょっと心配そうな顔をしている。
僕が何を言うか気にしている?
僕は、端っこの方で遠巻きに見ていただけだよ。
兄上が半歩前に出て、僕を庇うように立った。
「弟は、良くわかっていないと思います」
兄上は僕を庇おうとしてくれているっぽい!
さすが兄上!
うん、僕はどう言えば良いのか良くわかってないんだよ。そうか、分からないんだから、分からないって言っちゃえば良いって思いついた。
僕は兄上の顔を見上げてから頷いた。
「はい。あの端っこで見てただけなので、良くわかりませんでした。……もっと近くで見ていた人の方がわかると思います」
僕に向けられていたモヤモヤしていた気配が揺らぐ。圧が霧散していく。
「ああ、そんなに離れて見ていたのか。そうだね。確かに近くで見ていたものに聞いた方が良いね」
ネイサン殿下は納得した様子で頷いた。少し緊張したような空気が周囲に広がった。
周囲の騎士達の表情が微妙だ。
圧のある気配があった辺りにいた騎士が、今は目を彷徨わせている。
騎士服からするとハロルド君の家の騎士か。
ハロルド君にとって嫌なことを言わないようにって思ってたのかな。今は自分が訊かれたら何て答えようって考えているのかもしれない。
殿下はケロッとした表情をして、身体を解すように軽く肩を回した。
本気で僕や兄上の意見を聞きたかったわけじゃなくて、気まぐれに会話をしただけだったのかな。
「……僕にはまだ狙ったところにキチンと当てられるほどの腕はありませんよ。魔法の訓練を始めたばかりですし」
「そうかなぁ……」
ネイサン殿下はクニュっと唇を少し歪めて、何か思いついたように目を大きくして兄上の方に振り向いた。
「ねえ、見ててどう思った?ハロルドは狙った時は当ててたと思わない?」
いきなり兄上に話が振られる。ピリッと緊張した気配が兄上から伝わってくる。
「……お話を伺っていると魔力を訓練の最後まで保たすように、一度にどのくらいの魔力を込めるのかを
意識なさっていたのではと思いますが、側から見ていただけではどのように魔力を込めようとされていたのかは分かりませんでした」
ちょっと緊張したゆっくりとした口調で兄上が絞り出すように言う。
まあ、魔力配分をどうしようとしていたのかなんて、本人しかわからないよね。狙ったところに当たったかどうかも分からない。的の中心を狙ったのに端っこに当たったのか、最初から端っこを狙ってたのかも不明だし。
ふむふむと頷いていると、急に探るような目線が僕を追いかけてきた。
「君は?どう思う?」
「え?」
ネイサン殿下がニコリとして悪戯っぽい表情を浮かべて僕を見ている。
何で僕にまで訊くんだろう。
ネイサン殿下の様子からすると、困っていて答えが知りたいって感じじゃなさそうなんだけどなぁ。
ネイサン殿下は、ハロルド君がわざと的を外していたって証言をさせたいのかな。証言させてどうする気なんだろう。
モヤモヤした気配が僕に集まってくる。探るような気配とちょっと「害意」に近いような気配。
気配の元は、位置からすると周囲にいる騎士達からだ。
僕が何を言うか様子を伺っているのかな。
「害意」っぽい気配は余計なことを言うなっていう圧なんだろうか?
困るよ。
良くわからない問題を出された気分。どんな答えが正解?
視界の端に映っているハロルド君はちょっと心配そうな顔をしている。
僕が何を言うか気にしている?
僕は、端っこの方で遠巻きに見ていただけだよ。
兄上が半歩前に出て、僕を庇うように立った。
「弟は、良くわかっていないと思います」
兄上は僕を庇おうとしてくれているっぽい!
さすが兄上!
うん、僕はどう言えば良いのか良くわかってないんだよ。そうか、分からないんだから、分からないって言っちゃえば良いって思いついた。
僕は兄上の顔を見上げてから頷いた。
「はい。あの端っこで見てただけなので、良くわかりませんでした。……もっと近くで見ていた人の方がわかると思います」
僕に向けられていたモヤモヤしていた気配が揺らぐ。圧が霧散していく。
「ああ、そんなに離れて見ていたのか。そうだね。確かに近くで見ていたものに聞いた方が良いね」
ネイサン殿下は納得した様子で頷いた。少し緊張したような空気が周囲に広がった。
周囲の騎士達の表情が微妙だ。
圧のある気配があった辺りにいた騎士が、今は目を彷徨わせている。
騎士服からするとハロルド君の家の騎士か。
ハロルド君にとって嫌なことを言わないようにって思ってたのかな。今は自分が訊かれたら何て答えようって考えているのかもしれない。
殿下はケロッとした表情をして、身体を解すように軽く肩を回した。
本気で僕や兄上の意見を聞きたかったわけじゃなくて、気まぐれに会話をしただけだったのかな。
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