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第1章
第176話 庭園の会話
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薬師のおばあちゃんの店を出ると、空は紫色に染まって夕闇が迫ってきていた。屋敷に戻ってきた頃には、すっかり日が暮れてしまって辺りは暗くなっていた。
正門に近づいていくと、一瞬、「警戒」の気配がした。門の所には複数人の騎士がいる。ゲンティアナの騎士二人の他に数人。微妙な気配を漂わせて、ジロジロコチラを見ていた。
「坊ちゃん、おかえりなさい」
聞き覚えのあるゲンティアナの騎士の声が響くと、「警戒」の気配も和らいだ。ゲンティアナの騎士は涼しげな微笑みで出迎えてくれたけど、王宮騎士は仏頂面で突っ立っている。警戒は解いても、ジロジロ見ている感じ。
事件の後だから、警戒されるのは仕方ないよね。あまり気にしないことにした。
正門は無事通過して、離れの方に向かおうとした時、本館前の庭園の方でチラチラと光が動くのが見えた。
「……何だろう……」
兄上が立ち止まって、警戒するように目を細めた。
庭園は本館の広間の前付近は、灯りで照らされているんだけど、少し奥まったところは照明の灯りが届かないから暗いんだ。暗い場所で小さい灯りがゆっくり動いていると気になる。
「巡回警備じゃない?」
ぼんやりした小さい光が見えるあたりに意識を向けてみたけど「害意」みたいな気配は感じない。ほっと小さく息を吐いた。
警備は門のところと本館の玄関前にランタンを持った人が立っている他にも、遠くでも移動をしている灯りが見える。
「立ち止まったり戻ったりしてないか?何かあったのかな」
警備して移動している人は他にもいるけど目についたのは、チラチラと細かく動いているからだ。灯りの様子も若干弱々しく見える。
「もしも怪しい人だったら、目立つからランタンとか持たないんじゃない?」
「まあ、そうだな……」
何だか気になってしまったので、水筒のカップを取り出して風魔法を発動させた。
気配を辿って、音を集める。前に一度やって慣れたのか結構スムーズに魔法を発動できた。
『もう、明日か明後日には領地に帰ることになるかもしれない。婚約のこと、もう一度考えてくれないか』
『無理なものは無理よ』
『僕はやっぱり、シェリルと婚約したいんだ。シェリルが頷いてくれないならお父上に直接お願いしようと思う』
『だから……!ハロルドも私も跡取りだから無理なのよ!』
声と話の内容からすると、どうやらシェリル嬢とハロルド君みたいだ。
兄上が耳にカップを押し当てていた手を下ろした。
気まずそうな表情を浮かべている。
「聞いちゃいけない話だった……」
「うん……」
兄上が言う通り、二人だけのプライベートな話なんだけど、脳裏で見た光景を思い出してしまう。
脳裏で見た光景が本当に起きるとしたら、シェリル嬢の弟さんが誕生する。
弟さんが生まれたらシェリル嬢が次期当主では無くなってしまう。
シェリル嬢の弟さんが生まれる頃には、ハロルド君はもう他の人と婚約してしまって……。
「戻ろう。怪しい人物とかじゃなかったみたいだし」
兄上が僕に水筒のカップを返して、離れに向かって歩き出そうとした。
僕は兄上のシャツの裾を掴んだ。
正門に近づいていくと、一瞬、「警戒」の気配がした。門の所には複数人の騎士がいる。ゲンティアナの騎士二人の他に数人。微妙な気配を漂わせて、ジロジロコチラを見ていた。
「坊ちゃん、おかえりなさい」
聞き覚えのあるゲンティアナの騎士の声が響くと、「警戒」の気配も和らいだ。ゲンティアナの騎士は涼しげな微笑みで出迎えてくれたけど、王宮騎士は仏頂面で突っ立っている。警戒は解いても、ジロジロ見ている感じ。
事件の後だから、警戒されるのは仕方ないよね。あまり気にしないことにした。
正門は無事通過して、離れの方に向かおうとした時、本館前の庭園の方でチラチラと光が動くのが見えた。
「……何だろう……」
兄上が立ち止まって、警戒するように目を細めた。
庭園は本館の広間の前付近は、灯りで照らされているんだけど、少し奥まったところは照明の灯りが届かないから暗いんだ。暗い場所で小さい灯りがゆっくり動いていると気になる。
「巡回警備じゃない?」
ぼんやりした小さい光が見えるあたりに意識を向けてみたけど「害意」みたいな気配は感じない。ほっと小さく息を吐いた。
警備は門のところと本館の玄関前にランタンを持った人が立っている他にも、遠くでも移動をしている灯りが見える。
「立ち止まったり戻ったりしてないか?何かあったのかな」
警備して移動している人は他にもいるけど目についたのは、チラチラと細かく動いているからだ。灯りの様子も若干弱々しく見える。
「もしも怪しい人だったら、目立つからランタンとか持たないんじゃない?」
「まあ、そうだな……」
何だか気になってしまったので、水筒のカップを取り出して風魔法を発動させた。
気配を辿って、音を集める。前に一度やって慣れたのか結構スムーズに魔法を発動できた。
『もう、明日か明後日には領地に帰ることになるかもしれない。婚約のこと、もう一度考えてくれないか』
『無理なものは無理よ』
『僕はやっぱり、シェリルと婚約したいんだ。シェリルが頷いてくれないならお父上に直接お願いしようと思う』
『だから……!ハロルドも私も跡取りだから無理なのよ!』
声と話の内容からすると、どうやらシェリル嬢とハロルド君みたいだ。
兄上が耳にカップを押し当てていた手を下ろした。
気まずそうな表情を浮かべている。
「聞いちゃいけない話だった……」
「うん……」
兄上が言う通り、二人だけのプライベートな話なんだけど、脳裏で見た光景を思い出してしまう。
脳裏で見た光景が本当に起きるとしたら、シェリル嬢の弟さんが誕生する。
弟さんが生まれたらシェリル嬢が次期当主では無くなってしまう。
シェリル嬢の弟さんが生まれる頃には、ハロルド君はもう他の人と婚約してしまって……。
「戻ろう。怪しい人物とかじゃなかったみたいだし」
兄上が僕に水筒のカップを返して、離れに向かって歩き出そうとした。
僕は兄上のシャツの裾を掴んだ。
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