転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第221話 騎士団の戦力

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ブワッと「怒り」の気配がすぐ近くから湧き上がってきた。

「兄上?」

チラリと隣の兄上を見上げると口をぎゅっと引き結んで
眉間に皺を寄せている。

「ムカつくなぁ……。あのおっさん……」

ボソリと兄上が呟いた。

「おっさんって……。辺境伯様のこと?」

小声で聞き返すと、グシャって僕の頭を捏ねた。

「ムカつくだろう?……何とかならないかな……」

イライラしているらしくて兄上が纏っている魔力が不規則な動きをしている。
殿下は明日の朝にも出発することを予想していたのに、辺境伯様が反対しているんだと、明日は出発にならないのかな。

「まぁ!王宮騎士団の体制に『不安要素』があったとしても、南部最強と呼ばれているナスタチウム辺境伯家の騎士団がいれば、何の心配もないのではありませんか?」

突然、明るい声が響いてきた。母様の声だ。

「う…うむ……」

「更にオーキッド伯爵家とテッセン伯爵家の騎士様達もいらっしゃるのですから
移動中の戦力としては十分過ぎると思いますわ」
「しかしだなぁ……」

渋っているような反応の辺境伯様。

「まぁ!」

何かに気がついて驚いたような母様の声。

「もしかして……。辺境伯家の騎士団にも『不安要素』がございましたの?
察することが出来ず、申し訳ございませんわ!」
「いや……、当家の騎士団に『不安要素』などない!」
「それでは、安心でございますわね!」

畳み掛けるように言う母様。明るい声なんだけど怒っている気配もする。

「ハハハ!ナスタチウム閣下。戦力を問われてしまえば、自信がないなどとは言えますまい。
何しろ閣下ご本人がおられるのですから」

別の人の声した。男の人の声だ。

「オーキッド卿、しかしだな……」
「捕らえた者達の尋問の続きは辺境伯領で行うのはどうですかね。
 殿下の安全が最重要というのであれば、少なくとも建物の設備は辺境伯領の方が安全でしょう。……失礼」
「いえ……。ここは狭いですからね」

オーキッド卿って、リネリア嬢のお父上かな。合宿の場を辺境伯領に変えようって言ってくれているようだ。
「失礼」って言ったら、父上が返事をする声が聞こえた。
「辺境伯領の方が安全」って言っちゃったからかな。

どうやら辺境伯領に移動する流れになったみたいだ。
移動の段取りみたいな話を始めたなと思ったら、急に話し声が聞こえなくなった。
何か防音効果があるような魔道具でも起動したのかな。

父上と母様の「怒り」の気配もおさまって来たみたいだったので、僕と兄上はその場を立ち去ることにした。

「殿下達、明日出発になるのかな……」
「あの流れだと、そうなんじゃないか」
「魔道具の実演、出来るかな」
「うーん……、大丈夫だとは思うけど、一応使い方の説明は書き出しておくよ」

本館を出て離れに向かいながらチラリと訓練場の方を見る。
月明かりで照らされた通路を猫さんが軽い足取りで横切っていくのが見えた。
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