【完結】京都若旦那の恋愛事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

藍生蕗

文字の大きさ
26 / 49

25. 見る目なかった

しおりを挟む
 痛い。
 倒れた時に圧迫された胸が痛み、浅い呼吸を繰り返す。
 先程目の前に現れた男が史織の襟首を掴み、力任せに放ったらしい。ふらつく頭を持ち上げれば藤本と、その後から見知らぬ男が複数出てくるのが見えてぞっとした。

「もしかして聞いちゃった?」
 いつものように優しい笑みを浮かべる藤本に、泣きそうになってしまう。
「あ~、ほら。藤本、駄目だろ~泣かせたら」
「泣いてる女の方が好きなくせに……ねえ、千田さんも大変だったんだろ? 俺たちも一週間も研修で息が詰まって辛くてさ。一緒に息抜きしようよ、って話なんだよ」
 
 ──本当に、ずっとこんな人だったんだろうか。
 自分はどれだけ見る目が無いんだろう……

「嫌、最低、嫌い……警察に言うわ」
「警察なんて、困るのは千田さんでしょ? 何を証拠に出すつもりなの? 裁判で全部証言しなきゃいけないんだよ、出来るのかな?
 気持ちよかった~、てちゃんと本当の事も言わなきゃいけないんだよ、言える?」

 にやにやと笑う藤本に──目の前の嫌悪を耐えるように顔を顰める。何とか逃げられないかと、じりじりと後ろに下がる。
 三芳辺りが都合良く用事でも言いつけに探しに来てくれないかと思うが、勤務明けに仕事を言い渡された事は無いし、緊急の業務連絡を受けた事は無い。

「あなたたち、初犯じゃないでしょう……」
 思わず口にしたそれは、時間稼ぎというには拙い。けれど妙に腑に落ちた。
 史織を囲む男は全部で四人。そうでなければ旅先で、これだけの頭数がいるのに、誰も諌めず、当然のように纏まるだろうか。史織に目を付けなければ、他の旅館従業員か、社内の女性に危害を加えるつもりだったのかもしれない。

「そんな事、千田さんには関係ないでしょう? あ、でもこれからは会いたいから、東京まで遊びに来て欲しいな」

 そう言って伸びてきた藤本の手を反射的に叩き落とす。
「触らないで!」
「痛、酷いなあ……」

 そう言って笑ってみせるその人の顔が、以前好きだった人と重なってはぶれていく。自分の見る目の無さに悔しくなるが、それどころではない。
 史織はうつ伏せのまま、必死に携帯をまさぐり、連絡先アプリを起動させようとしていた。

(早く、助けを……京都で助けに、来れる人……)
「もういいから連れこんじゃおうぜ~、藤本」
 仕方がないと笑う藤本に嫌悪の視線を向けながら、史織はスマホを身体で隠しながら操作し続ける。
 
「あん?」
 けれど焦りが出たせいか、身動いだタイミングで男の一人が史織の動きに勘づいた。
 史織は勢いのみままスマホを手に取り、アドレスの一つをタップした。

「こいつ!」
 けれどコール音が鳴ると同時に男に取り上げられ直ぐに切られる。
 そのまま遠く放られるスマホを見送り史織はぎゅっと奥歯を噛みしめた。
「残念だったな~」

 ◇

「……あら」

 ブーブーと、機械音が響く。
 乃々夏は失礼します、と断りを入れスマホの画面を確認した。

 ──史織ちゃん

 そう映し出された画面を伏せ、当主に笑みを返す。

「誰だったか?」
「──いえ、何でもありませんわ」
「……そうか」

 そう呟き火鉢をつつく当主の手元を見ながら、乃々夏はふっと笑った。

 ◇

 ──ダサい、悪者の台詞そのままである。
 そんな思いを噛み締めていると、両脇からガシリと腕を掴まれ動きを牽制された。
「さあさ、もう行こう。いい加減冷えてきちゃったから、あったまろうぜ~」
(気持ち悪い……でも、時間稼ぎをしないと……)

「放して!」
 その言葉に史織は首を左右に振り抵抗する。

「そんな固くならなくても、優しくしてあげるからさ~」
 断固としてお断りである。
 ぎっと相手を睨みつけ、思いつく限りの悪態を吐き出そうと口を開く。
「ふざけんな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

セイレーンの家

まへばらよし
恋愛
 病気のせいで結婚を諦めていた桐島柊子は、叔母の紹介で建築士の松井卓朗とお見合いをすることになった。卓朗は柊子の憧れの人物であり、柊子は彼に会えると喜ぶも、緊張でお見合いは微妙な雰囲気で終えてしまう。一方で卓朗もまた柊子に惹かれていく。ぎこちなくも順調に交際を重ね、二人は見合いから半年後に結婚をする。しかし、お互いに抱えていた傷と葛藤のせいで、結婚生活は微妙にすれ違っていく。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

処理中です...