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オルディナの街外れに、安い酒を出す酒場があった。
客層は近場の店の店主やら、脛に傷のありそうな連中だったりと幅が広い。
店内は、入ってすぐ正面に横長のカウンターがあり、その手前に丸テーブルが不規則に置かれている。お世辞にも綺麗とはいえない状態だが、客の誰ひとりとしてそれを気にする様子は無かった。
強面の店主が、マーカスとミハイルの座るテーブルに飲み物を運んで来た。
「エールは?」
「おぉ、きたきた!」
マーカスが嬉しそうに受け取る。
店主はジロリとミハイルを睨んだ後、
「……水だ」と言って、グラスを乱暴にテーブルに置き、小さく顔を振りながら去って行った。
「乾杯でもするか?」
マーカスが冗談っぽく尋ねると、ミハイルは糸のように目を細めた。
「貴方がしたいのなら、喜んで」
「……いや、遠慮しとくよ」
「では、本題に。薬の件ですが薬師は何と?」
「ああ、来年の夏市までには用意する。だが……、取引は全て俺を通すのが条件だ」
ミハイルの眉が僅かに動いた。
「……そうですか。貴方に紹介料を払うことに問題はありません。ただ、薬師を紹介していただけると思っていましたので……」
「そうかい、お互い人生ってのは思うようにいかねぇな?」
マーカスは半笑いでエールを呷る。
だが、ミハイルは笑顔を崩すことなく、
「……わかりました。では、また来月に」と席を立った。
「ああ、来月に」
ジョッキを掲げて、マーカスはミハイルを見送る。
音も立てず店を出るミハイルの背中を見つめながら、マーカスはエールを飲み干した。
*
荷馬車を停め、ピウスを納屋に繋ぎ直して家に戻る。
「ただいまー」
珍しくマイカが顔を出さないなと思いながら家に入ると、台所からマイカの声がした。
「お帰りなさ-い! すみません、ちょっといま……手が離せなくて!」
「ん?」
何事かと台所に行くと、マイカがパタパタと慌ただしく料理をしている最中だった。
「だ、大丈夫? 何か手伝おうか?」
「あっ、じゃあ……悪いんですけどそっちの火加減を見てもらえますか?」
「うん、わかった」
僕はテーブルにワインとつまみを置き、鍋の前に立った。
「ん~、良い匂い……」
「お野菜たっぷり入ってます、へへ」
「楽しみだなぁ、そっちは?」
覗き込むと、フライパンには二枚の肉が乗せられていた。
「おっ、ステーキか、ワインと合うかも」
「わぁ、ちょうど良かったですね」
じゅうじゅうと美味しそうな音を立てながら、肉が焼けていく。
香ばしい匂いに、ぎゅるるるとお腹が鳴った。
「もうできますから、シチリは座っていてください」
「うん、ありがとう」
僕はテーブルにワイングラスとつまみを並べて、マイカが来るのを待った。
台所に立つマイカを眺めていると、何ともいえない充足感というか、満たされた気持ちになった。
はぁ……本当にかわいいなぁ……。
「お待たせしましたー」
テーブルに料理が出そろう。
僕はマイカのグラスにワインを注いだ。
グラスにルビー色のワインが注がれる様子を、マイカがじっと興味深そうに眺めている。
「綺麗な色ですねぇ……」
「あ、そういえばお酒は大丈夫?」
「どうなんでしょうか……? たぶん、初めて飲むと思いますけど……」
「じゃあ、お水も飲みながら、少しずつにしよう」
「はい、楽しみです。ふふ……」
「何に乾杯する?」
「そうですねぇ……では、シチリと出会えたことに」
「なら、僕はマイカと出会えたことに」
「それじゃあ、ふたりの出会いにしましょうか?」
「いいね」
僕とマイカはグラスを持って、
「――ふたりの出会いに」と、乾杯をした。
初めてのワインに口を付け、
「ん⁉ お、美味しいです!」とマイカが目を丸くした。
「良かった。あ、でも、ゆっくりね」
「はーい」
僕は切り分けたステーキを頬張った。
こ、これは……美味い!
柔らかくて、噛むと旨味たっぷりの肉汁が溢れてくる。
見るとマイカも美味しそうに目を細めていた。
「あ、そうだ。モーレスさんとアンナさんが……その、一緒に食事をしないかって、誘ってくれてるんだけど……どうかな?」
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シュンとなって俯く。
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「……町、ですか」
「そう、色んなお店があるよ? ほら、洋服もあるし、マイカの好きな本だってあるよ」
パッとマイカの瞳が輝いたように見えた。
「……行ってもいいんでしょうか?」
「うん、じゃあ決まりだね」
僕はマイカに向かってグラスを向け、もう一度乾杯をした。
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