23 / 36
23
しおりを挟む
「う……うぅ……」
ヘンリーさんが気がついたようだ。
僕とマイカはベッドを覗き込む。
真っ白だった顔色も血の気が戻っていた。
「ヘンリーさん、聞こえますか? 落ち着いて聞いてください……何があったのかはわかりませんが、恐らく貧血で倒れたのだと思います。たまたま僕が通りかかったので勝手に家に運んでしまいましたが……」
「あ……あぁ……」
ヘンリーさんが上半身を起こした。
「まだ横になっていた方が……」
手をひらひらと振って、
「問題無い……」と呟いたあと、大きくため息をつく。
「すまんな、迷惑を掛けた」
「そんな……困った時はお互い様ですよ」
ふと、ヘンリーさんの目がマイカに向いた。
「……そうか、なるほどのぉ。そりゃあ、お前さんも心配になる」
「いや、その……」
「え? え?」
マイカは僕とヘンリーさんを交互に見た。
「はは、すまん。随分と綺麗なお嬢さんだと聞いていたもんでな。その通りだと思っただけだよ」
「ひゃ⁉ そ、それは……その、光栄です……マイカといいます、どうぞよろしくお願いします!」
少し赤くなったマイカがぺこりと頭を下げると、ヘンリーさんが優しい笑みを返した。
「あぁ、こちらこそよろしく」
僕はその光景を微笑ましく感じながら、ヘンリーさんに訊ねた。
「ちゃんとご飯は食べてますか? めんどくさがって食べてないんじゃないです?」
「あ……う、うん……まぁ、そうだな、最近、少し食欲が落ちたかもしれんが……」
「いつもと違うものを飲んだり食べたりしましたか?」
「……いつも通り、買い物に行こうとしていただけだ。急に目の前が真っ白になってな……気付くと、お前さんの声が聞こえた」
「なるほど、ちょっと失礼します」
僕は念のため、ヘンリーさんの体をもう一度診てみることにした。
「どこか痛いところとか、変な感じがするとかありませんか?」
ヘンリーさんは肩を回したりした後、
「うむ……特に異常はないようだ」と答えた。
となると、やはり貧血かな……。
「……そうだ、ちょうど良い物があります」
僕は背嚢の中から、先ほど雑貨店で買った鹿の置物を取り出した。
「シチリ、それは……」
マイカとヘンリーさんは不思議そうに鹿の置物を見つめている。
「しばらくの間、お湯を沸かすときにこれを一緒に入れてください。鉄分が補給できますから」
「疑うわけじゃないが……腹を壊したりしないのか?」
「大丈夫です、昔から貧血に良いとされている方法ですから。あ、もちろん、食事はきちんと食べないと駄目ですよ?」
「そうか……わかった、やってみよう」
「ありがとうございます」
僕は鹿の置物をテーブルに置いた。
「そういえばヘンリーさん、町外れの渡し船ってわかりますか?」
「ん? あぁ、何度か使ったことがあるが」
「その渡し船を営んでいるご夫婦が、ヘンリーさんを介抱してくださってたんです」
「そうか……礼を言わねばな」
照れくさそうに顎を撫でながら、ヘンリーさんがベッドから降りた。
「シチリ、お前さんには世話になったな……。どれ、折角のデートを台無しにしたお詫びと言ってはなんだが……店にある本で良ければ好きな物を持って帰るといい」
「えっ⁉」
マイカが驚いた声をあげた。
僕とヘンリーさんの視線を受けたマイカは口を手で押さえ、
「あ、そ、その……嬉しくてつい……すみません」と、恥ずかしそうに上目遣いになった。
「ほぉ、マイカさんは本が好きかね?」
「……はい、とても」
「今はどんな本を読んでいるんだい?」
「えっと、今は……『ブリキの少年』という本を読んでいます」
ブリキの少年か……。
僕も小さい頃、母の本棚から借りて読んだ。
神様の加護で命を宿したブリキの人形が、人との交流の中で成長していく話だ。
「うむ、あれは良い本だね。そうか……なら、ぜひ読んで欲しい本がある。どれ、ちょっと探してくるから……」
店の方へ行こうとするヘンリーさんに、
「じゃあ、お茶を淹れて待ってます」と僕は答えた。
「そうしてくれると助かるよ」
にっこりと笑って、ヘンリーさんは店の方へ向かった。
ふと、マイカを見ると、棚の写真立てに見入っている。
「ローレンスさんっていうんだ。ヘンリーさんの奥さんだよ」
「綺麗な方ですね……」
「うん、ヘンリーさんってば、今でも――」
マイカの目からぽろっと涙がこぼれ落ちた。
「マイカ⁉」
「あ、ご、ごめんなさい!」
慌てて目元を拭う。
「どうしたの? 何かあった?」
マイカはふるふると顔を横に振り、
「ヘンリーさんは……どんな気持ちでローレンスさんを見送ったのでしょうか」と呟くように言った。
「え……」
「すみません、ちょっと感傷的になってしまいました。あ、お茶、私が淹れますね」
マイカはいつもの笑顔に戻った。
僕は気の利いた返事もできず、
「あ、うん、ありがとう……」と、答えた後、写真立てのローレンスさんの笑顔を見つめた。
ヘンリーさんが気がついたようだ。
僕とマイカはベッドを覗き込む。
真っ白だった顔色も血の気が戻っていた。
「ヘンリーさん、聞こえますか? 落ち着いて聞いてください……何があったのかはわかりませんが、恐らく貧血で倒れたのだと思います。たまたま僕が通りかかったので勝手に家に運んでしまいましたが……」
「あ……あぁ……」
ヘンリーさんが上半身を起こした。
「まだ横になっていた方が……」
手をひらひらと振って、
「問題無い……」と呟いたあと、大きくため息をつく。
「すまんな、迷惑を掛けた」
「そんな……困った時はお互い様ですよ」
ふと、ヘンリーさんの目がマイカに向いた。
「……そうか、なるほどのぉ。そりゃあ、お前さんも心配になる」
「いや、その……」
「え? え?」
マイカは僕とヘンリーさんを交互に見た。
「はは、すまん。随分と綺麗なお嬢さんだと聞いていたもんでな。その通りだと思っただけだよ」
「ひゃ⁉ そ、それは……その、光栄です……マイカといいます、どうぞよろしくお願いします!」
少し赤くなったマイカがぺこりと頭を下げると、ヘンリーさんが優しい笑みを返した。
「あぁ、こちらこそよろしく」
僕はその光景を微笑ましく感じながら、ヘンリーさんに訊ねた。
「ちゃんとご飯は食べてますか? めんどくさがって食べてないんじゃないです?」
「あ……う、うん……まぁ、そうだな、最近、少し食欲が落ちたかもしれんが……」
「いつもと違うものを飲んだり食べたりしましたか?」
「……いつも通り、買い物に行こうとしていただけだ。急に目の前が真っ白になってな……気付くと、お前さんの声が聞こえた」
「なるほど、ちょっと失礼します」
僕は念のため、ヘンリーさんの体をもう一度診てみることにした。
「どこか痛いところとか、変な感じがするとかありませんか?」
ヘンリーさんは肩を回したりした後、
「うむ……特に異常はないようだ」と答えた。
となると、やはり貧血かな……。
「……そうだ、ちょうど良い物があります」
僕は背嚢の中から、先ほど雑貨店で買った鹿の置物を取り出した。
「シチリ、それは……」
マイカとヘンリーさんは不思議そうに鹿の置物を見つめている。
「しばらくの間、お湯を沸かすときにこれを一緒に入れてください。鉄分が補給できますから」
「疑うわけじゃないが……腹を壊したりしないのか?」
「大丈夫です、昔から貧血に良いとされている方法ですから。あ、もちろん、食事はきちんと食べないと駄目ですよ?」
「そうか……わかった、やってみよう」
「ありがとうございます」
僕は鹿の置物をテーブルに置いた。
「そういえばヘンリーさん、町外れの渡し船ってわかりますか?」
「ん? あぁ、何度か使ったことがあるが」
「その渡し船を営んでいるご夫婦が、ヘンリーさんを介抱してくださってたんです」
「そうか……礼を言わねばな」
照れくさそうに顎を撫でながら、ヘンリーさんがベッドから降りた。
「シチリ、お前さんには世話になったな……。どれ、折角のデートを台無しにしたお詫びと言ってはなんだが……店にある本で良ければ好きな物を持って帰るといい」
「えっ⁉」
マイカが驚いた声をあげた。
僕とヘンリーさんの視線を受けたマイカは口を手で押さえ、
「あ、そ、その……嬉しくてつい……すみません」と、恥ずかしそうに上目遣いになった。
「ほぉ、マイカさんは本が好きかね?」
「……はい、とても」
「今はどんな本を読んでいるんだい?」
「えっと、今は……『ブリキの少年』という本を読んでいます」
ブリキの少年か……。
僕も小さい頃、母の本棚から借りて読んだ。
神様の加護で命を宿したブリキの人形が、人との交流の中で成長していく話だ。
「うむ、あれは良い本だね。そうか……なら、ぜひ読んで欲しい本がある。どれ、ちょっと探してくるから……」
店の方へ行こうとするヘンリーさんに、
「じゃあ、お茶を淹れて待ってます」と僕は答えた。
「そうしてくれると助かるよ」
にっこりと笑って、ヘンリーさんは店の方へ向かった。
ふと、マイカを見ると、棚の写真立てに見入っている。
「ローレンスさんっていうんだ。ヘンリーさんの奥さんだよ」
「綺麗な方ですね……」
「うん、ヘンリーさんってば、今でも――」
マイカの目からぽろっと涙がこぼれ落ちた。
「マイカ⁉」
「あ、ご、ごめんなさい!」
慌てて目元を拭う。
「どうしたの? 何かあった?」
マイカはふるふると顔を横に振り、
「ヘンリーさんは……どんな気持ちでローレンスさんを見送ったのでしょうか」と呟くように言った。
「え……」
「すみません、ちょっと感傷的になってしまいました。あ、お茶、私が淹れますね」
マイカはいつもの笑顔に戻った。
僕は気の利いた返事もできず、
「あ、うん、ありがとう……」と、答えた後、写真立てのローレンスさんの笑顔を見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~
猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」
王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。
王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。
しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。
迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。
かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。
故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり──
“冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。
皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。
冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」
一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。
追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、
ようやく正当に愛され、報われる物語。
※「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる