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サイラス=アークライト。
北の砦と称されるアークライト公爵家の長子で、第一騎士団に所属している。剣の腕は帝国随一で、若くして剣聖の称号を与えられていた。公爵家の家督には興味がなく、すでに次男がその跡を継ぐ事で話が纏まっているという。
そして、何を隠そう乙女ゲームの登場人物の1人でもある。
ゲームの舞台は基本的には王立学園だ。攻略対象のキャラ達とも、そこで出会う。彼はそんな攻略対象の一人の叔父にあたる人物なのだ。
そして彼は、魔王討伐の一端を担うキャラクターでもある。騎士団の副長を務めている彼が、魔王と化したカロクまでの道のりを切り開いてくれるのだ。そして最後のとどめを、攻略対象と主人公とで討つ。言わば敵だ。もちろんカロクは魔王へと堕ちるつもりはないけれど。
そんな彼が、なぜこんなところにいるのだろうか?
「お前、それが何か分かっているのか?」
サイラスが問う。
いや、問いかけているだけで、これは既に確信している口調だ。カロクは返答の代わりにサイラスを睨みつけた。
「魔族は、どんなに小さな物でも見つけ次第国へ報告、討伐が原則だ。その年じゃぁまだ習わないか?」
法律の授業で、確かそのような事を言っていた気がする。だが魔族と共にあるカロクにとって、そんな法律はどうでもいい。討伐出来ない程に育ててしまえば、国も容認するだろうと、高を括っていたのだ。
そのため、まさかこの国最強の騎士に見つかるとは、思ってもいなかった。
「‥‥だから?」
カロクが言う。
「殺すの?」
ニヤリと無理やり笑みを拡げれば、サイラスが軽くため息を吐いた。
恐らく、この強がりも見抜かれている。
「とりあえず聞け。今ここで戦闘にでもなれば、困るのはお前だぞ?」
「‥‥。」
カロクは返す言葉が見つからずに黙り込む。サイラスは、それを了承と捉えると言葉を続けた。
「ひとまず、その物騒な連中をなんとかしろ。頭を撫でたくらいで噛みつきやがって。」
「ぁ‥‥」
見れば、サイラスの白い手袋が赤く染まっていた。頭を撫でられた際に、魔族の誰かが噛み付いたのだろう。カロクは思わず、眉を下げた。
「ごめん、なさい‥‥」
その様子に、サイラスは片眉を上げた。
「‥‥みんな。大丈夫だから。帰ってもいいよ。」
カロクがそう言うと、魔族達はソワソワと落ち着きなくカロクを見上げた。
「大丈夫。殺されやしないよ。」
まだね、と心の中で続ける。
いくらサイラスとはいえ、侯爵の子供を何の報告もなしに殺すことはしないだろう。それにもし殺すつもりならば、既に魔族の誰かが殺されている。
カロクがニコリと微笑むと、戸惑いながらも魔族達はその姿を眩ませた。
「‥‥!!」
その瞬間、サイラスはカロクの顎を掴むと、強引に自らの顔へ引き寄せた。唇が触れそうな距離で視線が絡む。マジマジと瞳を覗かれ、カロクは落ち着きなく視線を泳がせた。
「‥‥魔王の器か。」
ポツリとサイラスが零す。その手が緩んだ所で、カロクは慌ててサイラスと距離を取った。顔に熱が溜まる気がして、カロクは顔を逸らせて片腕で覆う。
「‥‥僕を殺す?」
カロクが問う。
視線だけをサイラスへと流せば、観察するようなサイラスの視線とかち合った。
「国には報告しなければならないだろうな。」
その言葉に、カロクはキュッと目尻を眇めた。国に知られれば、悪くて処刑。良くて飼い殺しか。カロクはフッと嘲笑した。
別に多くを欲しがったわけじゃない。せめて殺されず、恨まれず。ただ平穏にひっそりと生きて行ければそれで良かったのに。
「‥‥なんて表情しやがる。」
そんなカロクの様子に、サイラスは表情を苦くしながらため息を漏らした。そして血の付いていない方の手で、ポンッとカロクの頭に触れる。
「他に知っているやつは?」
サイラスの問いに、カロクは首を振る。
するとサイラスはグリグリと乱暴にカロクの頭を撫でた。
「国への報告は保留にしといてやる。あの程度の魔族ならば、まだ俺で対処可能だからな。
だが、その代わりに俺がお前を監視しよう。譲歩できるのはここまでだ。」
続く言葉に、カロクはその長いまつ毛をはためかせた。
「殺さないの‥?」
「そんなに死にたいのか?」
カロクは慌てて首を降った。
するとサイラスがクッと喉の奥で笑った。
「安心しろ。お前を含め、しばらくは手を出さないでおいてやる。って、おい‥!?」
その言葉を聞いた瞬間、カロクは安堵から足の力が抜けてへたりこんでしまった。
「良かった‥」
心の声が、そのまま口からこぼれ落ちた。
北の砦と称されるアークライト公爵家の長子で、第一騎士団に所属している。剣の腕は帝国随一で、若くして剣聖の称号を与えられていた。公爵家の家督には興味がなく、すでに次男がその跡を継ぐ事で話が纏まっているという。
そして、何を隠そう乙女ゲームの登場人物の1人でもある。
ゲームの舞台は基本的には王立学園だ。攻略対象のキャラ達とも、そこで出会う。彼はそんな攻略対象の一人の叔父にあたる人物なのだ。
そして彼は、魔王討伐の一端を担うキャラクターでもある。騎士団の副長を務めている彼が、魔王と化したカロクまでの道のりを切り開いてくれるのだ。そして最後のとどめを、攻略対象と主人公とで討つ。言わば敵だ。もちろんカロクは魔王へと堕ちるつもりはないけれど。
そんな彼が、なぜこんなところにいるのだろうか?
「お前、それが何か分かっているのか?」
サイラスが問う。
いや、問いかけているだけで、これは既に確信している口調だ。カロクは返答の代わりにサイラスを睨みつけた。
「魔族は、どんなに小さな物でも見つけ次第国へ報告、討伐が原則だ。その年じゃぁまだ習わないか?」
法律の授業で、確かそのような事を言っていた気がする。だが魔族と共にあるカロクにとって、そんな法律はどうでもいい。討伐出来ない程に育ててしまえば、国も容認するだろうと、高を括っていたのだ。
そのため、まさかこの国最強の騎士に見つかるとは、思ってもいなかった。
「‥‥だから?」
カロクが言う。
「殺すの?」
ニヤリと無理やり笑みを拡げれば、サイラスが軽くため息を吐いた。
恐らく、この強がりも見抜かれている。
「とりあえず聞け。今ここで戦闘にでもなれば、困るのはお前だぞ?」
「‥‥。」
カロクは返す言葉が見つからずに黙り込む。サイラスは、それを了承と捉えると言葉を続けた。
「ひとまず、その物騒な連中をなんとかしろ。頭を撫でたくらいで噛みつきやがって。」
「ぁ‥‥」
見れば、サイラスの白い手袋が赤く染まっていた。頭を撫でられた際に、魔族の誰かが噛み付いたのだろう。カロクは思わず、眉を下げた。
「ごめん、なさい‥‥」
その様子に、サイラスは片眉を上げた。
「‥‥みんな。大丈夫だから。帰ってもいいよ。」
カロクがそう言うと、魔族達はソワソワと落ち着きなくカロクを見上げた。
「大丈夫。殺されやしないよ。」
まだね、と心の中で続ける。
いくらサイラスとはいえ、侯爵の子供を何の報告もなしに殺すことはしないだろう。それにもし殺すつもりならば、既に魔族の誰かが殺されている。
カロクがニコリと微笑むと、戸惑いながらも魔族達はその姿を眩ませた。
「‥‥!!」
その瞬間、サイラスはカロクの顎を掴むと、強引に自らの顔へ引き寄せた。唇が触れそうな距離で視線が絡む。マジマジと瞳を覗かれ、カロクは落ち着きなく視線を泳がせた。
「‥‥魔王の器か。」
ポツリとサイラスが零す。その手が緩んだ所で、カロクは慌ててサイラスと距離を取った。顔に熱が溜まる気がして、カロクは顔を逸らせて片腕で覆う。
「‥‥僕を殺す?」
カロクが問う。
視線だけをサイラスへと流せば、観察するようなサイラスの視線とかち合った。
「国には報告しなければならないだろうな。」
その言葉に、カロクはキュッと目尻を眇めた。国に知られれば、悪くて処刑。良くて飼い殺しか。カロクはフッと嘲笑した。
別に多くを欲しがったわけじゃない。せめて殺されず、恨まれず。ただ平穏にひっそりと生きて行ければそれで良かったのに。
「‥‥なんて表情しやがる。」
そんなカロクの様子に、サイラスは表情を苦くしながらため息を漏らした。そして血の付いていない方の手で、ポンッとカロクの頭に触れる。
「他に知っているやつは?」
サイラスの問いに、カロクは首を振る。
するとサイラスはグリグリと乱暴にカロクの頭を撫でた。
「国への報告は保留にしといてやる。あの程度の魔族ならば、まだ俺で対処可能だからな。
だが、その代わりに俺がお前を監視しよう。譲歩できるのはここまでだ。」
続く言葉に、カロクはその長いまつ毛をはためかせた。
「殺さないの‥?」
「そんなに死にたいのか?」
カロクは慌てて首を降った。
するとサイラスがクッと喉の奥で笑った。
「安心しろ。お前を含め、しばらくは手を出さないでおいてやる。って、おい‥!?」
その言葉を聞いた瞬間、カロクは安堵から足の力が抜けてへたりこんでしまった。
「良かった‥」
心の声が、そのまま口からこぼれ落ちた。
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