この世界と引き換えに愛を乞う

seto

文字の大きさ
28 / 82

28

しおりを挟む
「俺の名前はサイラス。サイラス=アークライトだ。」
「ぁ‥、僕はカロク。その、よろしくお願いします、アークライト卿。」

カロクがそう返すと、サイラスは顔を顰めた。

「サイラスでいい。家名で呼ばれるのは好きじゃない。」
「ぇと‥じゃあサイラス、様‥?」

カロクがそう返すと、サイラスは満足そうに片方の口角を上げた。

「それで、あの‥」
「ん?」

カロクはちらりと血に染まった手袋を盗み見る。出血量はそこまで多くはないものの、真っ白な手袋に鮮やかな鮮血はよく目立つ。その様子にカロクは思わず眉尻を下げた。それに気づいたサイラスは、薄く笑ってひらりと手を振った。

「あぁ、これか。そこまで気に病む必要はない。かすり傷だ。」
「でも‥」
「くどい。」

そう返されて、カロクは頭を垂れた。そんなことより、とサイラスは続ける。

「お前、魔王の器について知っていたな?」

その言葉に、カロクは小さく息を飲んだ。
魔王の器という存在は、王族と一部の上級の貴族のみが知る存在だ。大変大きな力を持つため、悪用されぬよう国家間でもその存在が秘匿されているのだ。
そもそも魔王の器については、分かっていることの方がすくない。魔力量が多く、魔族を従える者。その瞳に特徴がある者。殊更、虐げられた者に発言するという事。

カロクは知らなかったが、王宮には、魔王の器と思しき少年を保護した記録もあった。だがその少年は、結局最後まで魔王へ至るどころか、魔族1匹従える事はなかったという。ただ単にたまたまその瞳に同じ特徴を持つだけの者だったのか、魔王へと堕ちなかったというだけで実は器だったのか、今なお分かってはいないという。

カロクは悩んだ。
魔王の器については確かに知っている。だが、それは前世の知識によるもの。サイラスが信じようが信じまいがどちらでもいいのだが、変に勘ぐられて監視を強められてはたまらない。
だが、そんなカロクの思考を読んだかのようにサイラスの瞳がスっと細くなる。

「言いたくなきゃ言わなくてもいい。だが、嘘はつくな。嘘をつけばそれだけお前が不利になると思え。」

そんなサイラスの言葉に、観念したようにカロクはおずおずと口を開いた。

「‥‥僕には、前世の記憶があるんです。」
「前世?」

コクリと頷いてから、カロクは続ける。

「でも魔王だったわけじゃありません。ただ知識として、教えてもらっただけで。」
「どこまで知っている?」
「魔族に愛されたものを魔王の器と呼ぶこと。その特徴が、その目に現れること。器は、魔王になれるということ。」

キュッとカロクは服の裾を握って、上目遣いにサイラスを見上げる。

「僕が、その器だということ。」

そう告げると、サイラスは目尻を眇めた。

「魔王になるつもりか?」

その言葉にカロクは首を振る。

「ならなんで魔族を育てている?」

カロクは神妙な面持ちで一度目を伏せ、その後決意したように真っ直ぐにサイラスを見つめた。

「‥‥殺されないように。」

するとサイラスの眉間に、キュッとシワが寄った。どちらを?と言う問いは、音にならずに消えた。
もし見つけたのがサイラスではなければ、とっくに戦端は開かれていただろう。そしてカロクも、奪われるくらいならば戦う事を選ぶ。サイラスが見たその瞳は、覚悟を決めた者の目だった。

「‥信じるんですか?」

カロクが問う。

「前世持ちは、ごく稀に現れるからな。」
「そう、ですか‥」

その言葉に、カロクはキュッと指先を握った。カロクは、サイラスが信じてくれた事に、驚くほど安堵していた。やはり不安だったのだろう。じわりと瞼が熱くなった気がして、カロクは咄嗟に目を伏せた。
すると、再びポンとカロクの頭にサイラスの手が乗った。

「‥‥っ」

ビクリとカロクの肩が揺れる。
せっかく堪えた涙がじわりと溢れてこぼれた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...