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「俺の名前はサイラス。サイラス=アークライトだ。」
「ぁ‥、僕はカロク。その、よろしくお願いします、アークライト卿。」
カロクがそう返すと、サイラスは顔を顰めた。
「サイラスでいい。家名で呼ばれるのは好きじゃない。」
「ぇと‥じゃあサイラス、様‥?」
カロクがそう返すと、サイラスは満足そうに片方の口角を上げた。
「それで、あの‥」
「ん?」
カロクはちらりと血に染まった手袋を盗み見る。出血量はそこまで多くはないものの、真っ白な手袋に鮮やかな鮮血はよく目立つ。その様子にカロクは思わず眉尻を下げた。それに気づいたサイラスは、薄く笑ってひらりと手を振った。
「あぁ、これか。そこまで気に病む必要はない。かすり傷だ。」
「でも‥」
「くどい。」
そう返されて、カロクは頭を垂れた。そんなことより、とサイラスは続ける。
「お前、魔王の器について知っていたな?」
その言葉に、カロクは小さく息を飲んだ。
魔王の器という存在は、王族と一部の上級の貴族のみが知る存在だ。大変大きな力を持つため、悪用されぬよう国家間でもその存在が秘匿されているのだ。
そもそも魔王の器については、分かっていることの方がすくない。魔力量が多く、魔族を従える者。その瞳に特徴がある者。殊更、虐げられた者に発言するという事。
カロクは知らなかったが、王宮には、魔王の器と思しき少年を保護した記録もあった。だがその少年は、結局最後まで魔王へ至るどころか、魔族1匹従える事はなかったという。ただ単にたまたまその瞳に同じ特徴を持つだけの者だったのか、魔王へと堕ちなかったというだけで実は器だったのか、今なお分かってはいないという。
カロクは悩んだ。
魔王の器については確かに知っている。だが、それは前世の知識によるもの。サイラスが信じようが信じまいがどちらでもいいのだが、変に勘ぐられて監視を強められてはたまらない。
だが、そんなカロクの思考を読んだかのようにサイラスの瞳がスっと細くなる。
「言いたくなきゃ言わなくてもいい。だが、嘘はつくな。嘘をつけばそれだけお前が不利になると思え。」
そんなサイラスの言葉に、観念したようにカロクはおずおずと口を開いた。
「‥‥僕には、前世の記憶があるんです。」
「前世?」
コクリと頷いてから、カロクは続ける。
「でも魔王だったわけじゃありません。ただ知識として、教えてもらっただけで。」
「どこまで知っている?」
「魔族に愛されたものを魔王の器と呼ぶこと。その特徴が、その目に現れること。器は、魔王になれるということ。」
キュッとカロクは服の裾を握って、上目遣いにサイラスを見上げる。
「僕が、その器だということ。」
そう告げると、サイラスは目尻を眇めた。
「魔王になるつもりか?」
その言葉にカロクは首を振る。
「ならなんで魔族を育てている?」
カロクは神妙な面持ちで一度目を伏せ、その後決意したように真っ直ぐにサイラスを見つめた。
「‥‥殺されないように。」
するとサイラスの眉間に、キュッとシワが寄った。どちらを?と言う問いは、音にならずに消えた。
もし見つけたのがサイラスではなければ、とっくに戦端は開かれていただろう。そしてカロクも、奪われるくらいならば戦う事を選ぶ。サイラスが見たその瞳は、覚悟を決めた者の目だった。
「‥信じるんですか?」
カロクが問う。
「前世持ちは、ごく稀に現れるからな。」
「そう、ですか‥」
その言葉に、カロクはキュッと指先を握った。カロクは、サイラスが信じてくれた事に、驚くほど安堵していた。やはり不安だったのだろう。じわりと瞼が熱くなった気がして、カロクは咄嗟に目を伏せた。
すると、再びポンとカロクの頭にサイラスの手が乗った。
「‥‥っ」
ビクリとカロクの肩が揺れる。
せっかく堪えた涙がじわりと溢れてこぼれた。
「ぁ‥、僕はカロク。その、よろしくお願いします、アークライト卿。」
カロクがそう返すと、サイラスは顔を顰めた。
「サイラスでいい。家名で呼ばれるのは好きじゃない。」
「ぇと‥じゃあサイラス、様‥?」
カロクがそう返すと、サイラスは満足そうに片方の口角を上げた。
「それで、あの‥」
「ん?」
カロクはちらりと血に染まった手袋を盗み見る。出血量はそこまで多くはないものの、真っ白な手袋に鮮やかな鮮血はよく目立つ。その様子にカロクは思わず眉尻を下げた。それに気づいたサイラスは、薄く笑ってひらりと手を振った。
「あぁ、これか。そこまで気に病む必要はない。かすり傷だ。」
「でも‥」
「くどい。」
そう返されて、カロクは頭を垂れた。そんなことより、とサイラスは続ける。
「お前、魔王の器について知っていたな?」
その言葉に、カロクは小さく息を飲んだ。
魔王の器という存在は、王族と一部の上級の貴族のみが知る存在だ。大変大きな力を持つため、悪用されぬよう国家間でもその存在が秘匿されているのだ。
そもそも魔王の器については、分かっていることの方がすくない。魔力量が多く、魔族を従える者。その瞳に特徴がある者。殊更、虐げられた者に発言するという事。
カロクは知らなかったが、王宮には、魔王の器と思しき少年を保護した記録もあった。だがその少年は、結局最後まで魔王へ至るどころか、魔族1匹従える事はなかったという。ただ単にたまたまその瞳に同じ特徴を持つだけの者だったのか、魔王へと堕ちなかったというだけで実は器だったのか、今なお分かってはいないという。
カロクは悩んだ。
魔王の器については確かに知っている。だが、それは前世の知識によるもの。サイラスが信じようが信じまいがどちらでもいいのだが、変に勘ぐられて監視を強められてはたまらない。
だが、そんなカロクの思考を読んだかのようにサイラスの瞳がスっと細くなる。
「言いたくなきゃ言わなくてもいい。だが、嘘はつくな。嘘をつけばそれだけお前が不利になると思え。」
そんなサイラスの言葉に、観念したようにカロクはおずおずと口を開いた。
「‥‥僕には、前世の記憶があるんです。」
「前世?」
コクリと頷いてから、カロクは続ける。
「でも魔王だったわけじゃありません。ただ知識として、教えてもらっただけで。」
「どこまで知っている?」
「魔族に愛されたものを魔王の器と呼ぶこと。その特徴が、その目に現れること。器は、魔王になれるということ。」
キュッとカロクは服の裾を握って、上目遣いにサイラスを見上げる。
「僕が、その器だということ。」
そう告げると、サイラスは目尻を眇めた。
「魔王になるつもりか?」
その言葉にカロクは首を振る。
「ならなんで魔族を育てている?」
カロクは神妙な面持ちで一度目を伏せ、その後決意したように真っ直ぐにサイラスを見つめた。
「‥‥殺されないように。」
するとサイラスの眉間に、キュッとシワが寄った。どちらを?と言う問いは、音にならずに消えた。
もし見つけたのがサイラスではなければ、とっくに戦端は開かれていただろう。そしてカロクも、奪われるくらいならば戦う事を選ぶ。サイラスが見たその瞳は、覚悟を決めた者の目だった。
「‥信じるんですか?」
カロクが問う。
「前世持ちは、ごく稀に現れるからな。」
「そう、ですか‥」
その言葉に、カロクはキュッと指先を握った。カロクは、サイラスが信じてくれた事に、驚くほど安堵していた。やはり不安だったのだろう。じわりと瞼が熱くなった気がして、カロクは咄嗟に目を伏せた。
すると、再びポンとカロクの頭にサイラスの手が乗った。
「‥‥っ」
ビクリとカロクの肩が揺れる。
せっかく堪えた涙がじわりと溢れてこぼれた。
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