乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第十二章 動き始めた……○○フラグ

好きになるのが怖かったから

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 紅茶を飲んで一息ついた私は、テーブルにソーサーを置き、その上に紅茶が入ってるティーカップを置いた。

 音を鳴らさずに置くというのは結構大変なことで、最初の頃は手がブルブルしてよくお義母さまに怒られてたっけ。

 音を鳴らすのはマナー違反らしい。

 私個人としては美味しく食べられ、飲めれば良いと思ってるんだけど貴族というのは気難しい。

「忘れている記憶、かぁ」

 それはなんだろうと考えてみても、忘れているので思い出すことはできないし、何を忘れてるのかさえも分からない状況だとこの話は一旦保留にした方が良いだろう。

 情報が足りない。

「この話は一旦終わりにしませんか。私自身、忘れてることをすぐには思い出せません」
「それもそうですね」

 チラッと窓の外を見ると日が落ちかけていた。殿下との約束の時間まではもう少しか。

「それにしても」

 クロエ様は思い出したかのように話し出した。

「アレン王太子殿下の行動には驚きを隠せませんね」
「……え??」
「ゲームのシナリオですと、ソフィア様を嫌っている殿下がやけに気にしているんですから」
「気にしているのはきっと、私が闇属性だからです。とても危険な属性を持っているから」

 だから、気にしているんだと私は考えているが、クロエ様はそうは思わないらしい。

「それならば強制的に城の牢屋に連れていくはず。なのにそれをしないで暖かく見守っている」
「……それは私も疑問なんです。一回、結婚を申し込まれた時がありました。それだって私を身近で監視する目的なんです」
「自分を犠牲にしてまであなたに結婚を申し込むような方ではありませんよ」

 その言葉がやけに重く感じた。

 確かクロエ様の前世は声優でアレン王太子殿下役だったっけ。

 でも、私は有名な声優さんにな・り・き・っ・て・い・る・だけの一般人だと思ってた。

 だけど今の言葉は本当に殿下が言っているようだった。

 敬語で女性の姿なのに、一瞬だけ殿下と重なってしまった。

 息を飲んで固まっているとクロエ様は苦笑した。

「気になる点があります。なぜ、あなたは結婚を申し込まれた時に承諾しなかったのですか? 女よけのためにソフィア様を利用しようとしていることはご存知だと思ってたのですが」

 承諾しなかったのは死亡フラグ回避のため。

 ただ、相手は王族だ。拒否した段階で即死刑だって有り得たことだ。
 断った時点で死亡フラグが立っていたのはわかってた。でもそれが出来なかった。

 その大きな矛盾を抱えてても婚約はしたくなかった。

「婚約者になればお互いに都合が良いと思うんですが、その様子だと気付いていて、承諾しなかったんですね」

 婚約者になれば殿下は女よけが出来、私は学園内でもっと自由に行動出来たはずだ。他の貴族からも殿下の婚約者として接してくれる。
 異性との交友は気を付けないといけないけど。

 今よりももっと行動を広く持てると私も最初は考えていた。

「出来なかったんです」

 私は出来なかった。私は殿下に殺されたくなかったんだもん。

 汚れさせたくなかった。

「……好きになるのが怖かったから」

 私は推しとして好き。だからこそ、恋愛感情としては見たくなかった。

 ずっと怖いと思ってたのは、恋愛感情として殿下を見ることだった。

 推しから恋に変わるのは良くあることだと思う。だからこそ、距離を置き、遠ざけたかった。

 それなのに、

「殿下は私を放ってはくれませんでした。寧ろ、余計に気にかけてくださって」

 大変なやらかしをした私に優しく接してくれたり、心配してくれたり……。

「死亡フラグ回避する理由なんて、殿下を汚したくないんです。それだけじゃない。他の攻略対象者にも汚してほしくない」

 人を殺すなんて、そんな重いことを私はさせたくない。

 一番は自分のためだ。自分が死にたくないから。ただ欲を言ってしまえば、私のように罪を背負わせたくなんてない。

 強くそう思う。私が罪を思い出してしまったから余計にそう思うだけだと思うけど。

「なんて、自分勝手な理由ですよね」

 私が震える声で言うと、少しだけ悲しそうな顔になったクロエ様はゆっくりと首を左右に振った。

「とても素敵な理由だと思いますよ」

 本当に素・敵・な・理・由・だと嬉しい。

 紅茶を注ごうとティーポットを取ろうと手を伸ばすとあることを思い出した。

「呪い……。そうです! 殿下には呪いがかけてられてるんです」

 勢いよくクロエ様を見ると、驚いた表情をしてクロエ様は口を開いた時だった。

 扉をノックする音と共にアイリスの声が聞こえてきた。

「ソフィア様。申し訳ありません、お時間です」
「わ、わかった!! 今行く」

 話に夢中で時間を忘れるといけないのでアイリスに頼んだんだった。

 時間になったら呼びに来るようにと。

 私が立ち上がるとクロエ様も立ち上がった。

「ソフィア様の護衛も兼ねて途中まで一緒に行きますよ」
「……それだとクロエ様だって危険にさらされますよ」
「あなたのために危険にさらされるなら本望です。さぁ、参りましょう」

 断っても着いてくるんだろうなって思ったから私は頷いた。


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