乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第十二章 動き始めた……○○フラグ

デジャヴに感じる

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「なんだか緊張してしまいますね」

 アイリスが入れてくれた紅茶を一口飲んだクロエ様がハニカムように笑った。

 私の寮部屋に案内し、ソファに座りながら紅茶を飲んでいる。

 異性を部屋に案内するのは如何なものかと戸惑ったが誰にも見られず聞かれず、怪しまれない場所が他になかった。

 今は女同士なのだから見られはしても怪しまれたりしないだろうが、話の途中で誰かが割って入られたくはなかった。

 そのぐらい私にとってはとても重要なことだった。

 私の寮部屋に入ったクロエ様は何故かソワソワしていて落ち着かない。

 その仕草がどうしてもデジャブに感じて他人事には思えなかった。

 私は一呼吸おいてから、

「そんな……大丈夫ですよ」

 落ち着かせようと口に出した言葉だったのにクロエ様にとっては緊迫状態にさせていた。

 その証拠に、クロエ様の肩が跳ね、手に持っていた紅茶が入ったティーカップとソーサー(カップの下に置かれる受け皿のこと)を床に落としていた。

 どこかで見た光景……。私の場合はティーカップだけだったけどね。

「申し訳ありません」
「い、いいえ。気にしないでください。こちらこそすみません。安心させようとしたのに返って緊張させてしまいましたね」

 クロエ様は割れたカップとソーサーを片付けようとしたが、アイリスが止めた。

 怪我をすると危ないから、と。

 クロエ様は申し訳なさそうにしていたが、アイリスの言う事を素直に聞いていた。

 気遣いを無下にできないと思ったのだろう。

 .....良い人だなぁ。クロエ様は。

 しかも男性にも女性にも姿を変えられて、魔力が高い。
 私からしたら羨ましい。

 割れたカップとソーサーを片付け終わったアイリスは新しいソーサーとカップを用意して紅茶を注ぐ。

 音がしないように小指を薬指の下に戻し、小指をクッションにして静かにクロエ様の前のテーブルに置いた。

 アイリスがずっと居ると話せないので下がるように言うと、アイリスは頭を下げて出ていった。

「クロエ様。早速本題に入りますが……過去を思い出しました」

 私の言葉にクロエ様は顔を強ばらせたがすぐに元の表情に戻る。

「そうですか。思い出したということは闇属性も解放されたということになりますよね。見ていると暴走してませんが」
「はい、修行の成果かもしれません。油断をすると体調を悪くしちゃいますが」
「よく頑張りましたね。話してくれてありがとうございます。隠しキャラの存在を話さないといけません。聞いてくれますか?」

 私はゆっくりと頷いた。

 隠しキャラって…...、過去を思い出す前にクロエ様が言っていたような。

 隠し攻略キャラでとても厄介なのだと。気を失う前にそんなことを言われた気がする。

「その隠しキャラこそがソフィア様が召喚する悪魔なのです」

 言ってる意味が理解出来なかった。

「待ってください。確かあの時、クロエ様は図書館であった男性を隠しキャラだって…...私は召喚してません!」
「はい、まだ召喚はしてません。召喚は契約のようなものですから、そこに主人がいるかいないかなんです。主人がいない悪魔は契約者を探しています。ソフィア様を契約者に選んだのでしょう」
「.....あの方は私の父親に似てました」
「悪魔は人の弱みにつけ込むのがうまいのです。姿を変えることもできますから、とても厄介なんです」

 だから、厄介なんだ。

 隠しキャラの存在は知らなかった。全てのルートをクリアしてなかったから知らなくて当然なんだろうけど。

「あの悪魔は、どうして過去を思い出させてくれたのでしょう」
「恐らくはソフィア様の中で封印されている闇属性が狙いでしょう。ゲームのシナリオでもそうでしたので、混乱して落ち込んでいるソフィア様に自分の都合のいいように解釈させるように囁き、召喚させようとしているのかも」
「都合のいいように…...ですか。そこまでする理由ってなんなのでしょう?」
「ソフィア様を喰らうためです。召喚は生贄なんです。生贄を喰った悪魔は災厄をもたらす。だから召喚は大罪で召喚者を悪魔が喰らう前に殺さなくてはならないんです。それは王族にしか知らないんですよ。どの書物にも載っていない話です」

 生贄.....?

 私は理解できないでいるとクロエ様が話を続けた。

「昔の人は悪魔を神様と信じていたんです。その気持ちを悪魔が利用して生きた動物を捧げれば繁栄を約束しようと、口での出任せを信じた人達は馬や兎、猫などを捧げてきたが悪魔は満足出来ずに人を捧げるように言ったんです」

 ーーそれが生贄のはじまり。

「召喚されれば召喚者は主人となりますから、喰われるとは思わないでしょう。その気持ちを悪魔は利用したんです。もちろん、繁栄なんて訪れません。ですが、当時の人々は信じていたんです。いつか繁栄が訪れると」

 極限状態な人ほど冷静な判断が出来ないと聞く。
 当時の人々はそれほどまでに追い込まれていたんだ。

「.....私は悪魔に魅入られた存在なのですね」

 悪魔が登場するのはそこそこストーリーが進んでからのはず。
 こんなにも早くの登場するとは思わなかったし、まさか悪魔との契約にそんな設定があるだなんて思ってなかった。

「フラグからはなかなか逃れられませんね」

 私がため息混じりに呟いた言葉をクロエ様は否定した。

「そんなことを言ってはいけません。言葉にしてしまえば、良くも悪くも本当になってしまいますよ」

 クロエ様の言っていることは正しいと思う。その通りだもん。

 少し悲しそうに微笑み頷くとクロエ様は苦笑した。

 それはクロエ様の優しさだ。これ以上悪い方向にいかないように心配してくれた発言だと思う。

「あの、クロエ様。私は」

 言いかけたのをグッと堪えた。

 今、ものすごく弱音を吐こうとした。ずっと心の奥に閉じ込めていた弱音を。

 言って、少しでも楽になりたいと思ってしまった。

「? どうしました?」
「あっ、いいえ。なんでも……ありません」

 ダメ。弱音を吐いて、聞いてもらうなんて……。

 そんなことをしてしまったら、これからずっと甘えてしまう。クロエ様の優しさに。

 シーンっと静まり返った室内があまりにも気まずかったので話題を変えようとしたが、気になることを思い出したので聞いてみた。

「先程、悪魔は弱みを握ると言いましたよね。それならなぜ、父親に姿を変えたのでしょう。母親でも良かったはずです」
「それは分かりません。ただ、悪魔は記憶を読み取ることが出来ます。それこそ、忘れている記憶さえも。もしかしたら何かあるのかもしれませんね」



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