乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

文字の大きさ
220 / 236
第二十一章 悪魔は嗤う

探してみるしかない

しおりを挟む
 見渡せないほどの霧。

 真っ直ぐ進むと大きな樹がある。幻影樹と呼ばれているその樹はとても懐かしく、温かい気持ちにさせてくれる。

 周りには光が私を警戒しながらもふよふよと飛んでいた。

 私は、この空間を知っていた。

「良かった……無事に元気になったようで」

 人影が見えたのでその人物に話しかける。その人物は私の方に向かって歩いてくる。姿がはっきりと見えた時に「無事に元気かは分からんよ」と、シーアさんは苦笑した。

「元気ですよ。だって魔力が安定してるんだから」

 私がそう言うと、シーアさんは嬉しそうに目を細める。

 姿勢を正して、真剣な表情になる私を見るシーアさんは何かを察したような顔付きになる。

「悪魔を封印する円盤ってご存知ですか?」
「知っている。それがなんじゃ?」
「……その円盤に悪魔だと間違えられて襲われました。私の中にある闇属性が悪魔に近いんだとか。それに……悪魔ってなんなのですか?」

 単純に負の感情が好物ってだけではなさそうな気もする。

 悪魔にしか分からない何かがあるのかも知れないけど、私は知りたいと思った。クロエ様に聞いても良かったんだけど……、悩みどころよね。アイリスの件でお世話になったばっかりなのに。

 それを言うならシーアさんもそうなんだけど……。

 シーアさんに相談しようと思ったのはクロエ様はゲームでしか悪魔を知らない。けど、シーアさんはゲームでは知らされてない事を知ってそうな気がしたんだ。

 シーアさんは私の質問に悩んでから答えた。

「闇は負の塊みたいなものじゃ。気を張らないと闇に呑み込まれる程の。悪魔も負なのじゃよ。人の負の感情から生まれた。だからこそ、人の感情に触れたいと常に願っておる。それが……人の心を蝕む結果となっても」
「負の感情があるからといって、何故触れたいと願うんですか? 普通なら心を閉じてもいいと思います」

 負には色んな感情があると思う。怒りや憎しみ、寂しさや孤独感……その現実から目を逸らし自分で逃げ道を作ったり。人嫌いになったりしてもおかしくないと私は思う。

「寂しさが強いのじゃ。愛情を常に求めている赤子と同じ」
「寂しさ、ですか。私は以前に悪魔に会いました。ただ……本当の姿ではありませんでしたが」
「うむ。本来、悪魔は異界にいる存在じゃ。それが何故か現れるというのは異例じゃな」
「誰かが呼び寄せた……とか?」
「……その可能性があるのぉ」

 ふと、マテオ様の顔が浮かんだが、きっとマテオ様では無いと思うのでその考えを否定するように首を左右に振った。

 マテオ様は悪魔に魅入られた人だと思う。けど、悪魔を呼び寄せる……つまり召喚だとすれば、強い恨みの念が必要になる。

 禍々しいオーラは見えたけど、まだ弱かった。召喚した人物ならばもっとオーラに呑み込まれてもおかしくはないのよ。

 多分、マテオ様は……悪魔の放つ負の気に当てられた……だけ。

「探してみるしかない、かぁ」

 呼び寄せた人がいるのなら、探してみるしかない。そう思って呟いた何気ない一言だったけど、シーアさんは険しい表情になった。

「ワシの力を少しだけ貸す。無茶だけはするでないぞ」

 諦めたようにため息を吐かれ、シーアさんの手が伸び私の手を握る。

 ゆっくりと目を閉じる。

 次に目を開けると、辺りは明るくなっており、ベッドに横になっていた。

 もう朝になっていたんだ。私は夢から覚めた憂鬱感になりながらも上半身を起こした。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

〘完結〛ずっと引きこもってた悪役令嬢が出てきた

桜井ことり
恋愛
そもそものはじまりは、 婚約破棄から逃げてきた悪役令嬢が 部屋に閉じこもってしまう話からです。 自分と向き合った悪役令嬢は聖女(優しさの理想)として生まれ変わります。 ※爽快恋愛コメディで、本来ならそうはならない描写もあります。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

処理中です...