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転生令嬢、義弟に魔王討伐を依頼する 2
しおりを挟む「何故冗談だと思うんです?」
ルシフェル様の問い掛けに、私は遠い目をする。
もし冗談でなかったら幽閉一直線だ。
自分から不幸な未来を掴みに行くはずがない。
「もし私が婚約破棄されたら、貴方はどうなるの? 父は私に家にいて欲しいと思っているようだし、そうしたら侯爵位を継げなくなってしまうのよ? 良いことなど何もないわ」
「ああ、そういうことですか」
私の言葉にルシフェル様は納得したように頷く。
「大丈夫ですよ。私が爵位を継承しなくても、いくらでも遣り用がありますから。何の問題もありません」
「それって……」
マンガで見た、ミキちゃんとルシフェル様の会話シーンを思い出す。
――それって、『義姉が表舞台に出ることのないよう、既に手を打ってる』のくだりと同じじゃない!?
そう思い至った途端、背中に冷たいものが走る。
幽閉か、はたまた辺境地での療養か。
嫌な可能性を思い出して、私はブルッと震えた。
「? どうしましたか?」
突然黙り込んだ私を不思議に思ったのか、ルシフェル様が声を掛ける。
悪い想像を振り払うように頭を振った。
「なんでもないの。あ、あのね。少なくとも私は、エドワード様との婚約解消なんて望んでないわ! だから、そんなことは言わないで。ね?」
私がそう言うと、ルシフェル様の機嫌が悪くなっていくのを感じた。
張り詰めた空気にゴクリと唾をのむ。
私の可愛い義弟は、普段は優しくて穏やかで知的で寛大な人なのに、時々酷く感情の起伏が激しい時がある。
マンガで見た彼と比べてはいけないと思いつつ、つい考えてしまう。
滅多なことでは感情を露わにしないマンガのルシフェル様と違って、目の前の義弟は自然な笑顔をよく見せてくれる。
それはいいのだけれど、同時によく分からないタイミングで苛立ちをぶつけられることも多かった。
そんな時のルシフェル様は、下手なことを言ったら抹消されてしまうのではないかと思う程ピリピリしていて、少し……いや、かなり怖い。
姉弟仲は良いと思うのに、機嫌を損ねることを恐れて今までずっと魔王のことは話せずにいた。
『魔王の核』を壊せるかどうかで、私の人生は変わってくる。
いつも以上に慎重になってしまうのも仕方ないことだった。
それなのに――
「……そういえば、何かお願いがあるとおっしゃっていましたね」
ルシフェル様から話を振られて、顔が強張る。
機嫌が悪そうな今の彼にお願いするのは気が引けた。
そんな私の葛藤に気付かず、彼はさらに言葉を続ける。
「おっしゃっていただければ、どんなことでもして差し上げますよ。ただ、その時には私からもお願いがあります」
「お、お願い……?」
「ええ。義姉さんのお願いを叶える代わりに、私の願いも叶えていただきたいのです」
言いながら、ルシフェル様が距離を詰めてくる。
なんだか言い様のない圧を感じて、無意識のうちに後ずさってしまう。
トン……と、廊下の壁に背をついた私は、真意が分からず彼を見上げる。
ルシフェル様は壁に腕をついて寄りかかると、私を見下ろした。
(……あ、これ、壁ドン……)
いや、この距離は肘ドンかもしれない。
そんな現実逃避をするくらいの余裕は私にまだあった。
目を白黒させる私を感情の読めない顔で見下ろしながら、ルシフェル様は手を伸ばした。
顔にかかった茶色の長い髪を払って、王宮の庭園にいたせいでうっすらと汗をかいた私の首元に触れる。
彼の親指が私の喉仏をなぞるように触れてきて、あと少しで悲鳴を上げるところだった。
私は、人に首を掴まれると、これほど強い恐怖心を抱くことを初めて知った。
固まる私に、ルシフェル様が優しく尋ねる。
「いいですね?」
良い筈がない。
私の頼みを聞いてもらって魔王復活を阻止したところで、私が幸せな人生を送らなければ意味がない。
ルシフェル様からどんな要求されるかハラハラしながら暮らすのは、幸せとは言えない気がする。
――でも……
自分の首を人質に取られて、承諾する以外の選択肢は、私にはない。
ルシフェル様からの圧に負けて、無言で頷いた。
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