転生令嬢は婚約者を聖女に奪われた結果、ヤンデレに捕まりました

高瀬ゆみ

文字の大きさ
6 / 28

転生令嬢、義弟に魔王討伐を依頼する 2

しおりを挟む

「何故冗談だと思うんです?」

ルシフェル様の問い掛けに、私は遠い目をする。
もし冗談でなかったら幽閉一直線だ。
自分から不幸な未来を掴みに行くはずがない。

「もし私が婚約破棄されたら、貴方はどうなるの? 父は私に家にいて欲しいと思っているようだし、そうしたら侯爵位を継げなくなってしまうのよ? 良いことなど何もないわ」

「ああ、そういうことですか」

私の言葉にルシフェル様は納得したように頷く。

「大丈夫ですよ。私が爵位を継承しなくても、いくらでも遣り用がありますから。何の問題もありません」

「それって……」

マンガで見た、ミキちゃんとルシフェル様の会話シーンを思い出す。

――それって、『義姉が表舞台に出ることのないよう、既に手を打ってる』のくだりと同じじゃない!?

そう思い至った途端、背中に冷たいものが走る。
幽閉か、はたまた辺境地での療養か。
嫌な可能性を思い出して、私はブルッと震えた。

「? どうしましたか?」

突然黙り込んだ私を不思議に思ったのか、ルシフェル様が声を掛ける。
悪い想像を振り払うように頭を振った。

「なんでもないの。あ、あのね。少なくとも私は、エドワード様との婚約解消なんて望んでないわ! だから、そんなことは言わないで。ね?」

私がそう言うと、ルシフェル様の機嫌が悪くなっていくのを感じた。
張り詰めた空気にゴクリと唾をのむ。

私の可愛い義弟は、普段は優しくて穏やかで知的で寛大な人なのに、時々酷く感情の起伏が激しい時がある。
マンガで見た彼と比べてはいけないと思いつつ、つい考えてしまう。
滅多なことでは感情を露わにしないマンガのルシフェル様と違って、目の前の義弟は自然な笑顔をよく見せてくれる。
それはいいのだけれど、同時によく分からないタイミングで苛立ちをぶつけられることも多かった。
そんな時のルシフェル様は、下手なことを言ったら抹消されてしまうのではないかと思う程ピリピリしていて、少し……いや、かなり怖い。

姉弟仲は良いと思うのに、機嫌を損ねることを恐れて今までずっと魔王のことは話せずにいた。
『魔王の核』を壊せるかどうかで、私の人生は変わってくる。
いつも以上に慎重になってしまうのも仕方ないことだった。

それなのに――

「……そういえば、何かお願いがあるとおっしゃっていましたね」

ルシフェル様から話を振られて、顔が強張る。
機嫌が悪そうな今の彼にお願いするのは気が引けた。

そんな私の葛藤に気付かず、彼はさらに言葉を続ける。

「おっしゃっていただければ、どんなことでもして差し上げますよ。ただ、その時には私からもお願いがあります」

「お、お願い……?」

「ええ。義姉さんのお願いを叶える代わりに、私の願いも叶えていただきたいのです」

言いながら、ルシフェル様が距離を詰めてくる。
なんだか言い様のない圧を感じて、無意識のうちに後ずさってしまう。
トン……と、廊下の壁に背をついた私は、真意が分からず彼を見上げる。
ルシフェル様は壁に腕をついて寄りかかると、私を見下ろした。

(……あ、これ、壁ドン……)

いや、この距離は肘ドンかもしれない。
そんな現実逃避をするくらいの余裕は私にまだあった。

目を白黒させる私を感情の読めない顔で見下ろしながら、ルシフェル様は手を伸ばした。
顔にかかった茶色の長い髪を払って、王宮の庭園にいたせいでうっすらと汗をかいた私の首元に触れる。
彼の親指が私の喉仏をなぞるように触れてきて、あと少しで悲鳴を上げるところだった。

私は、人に首を掴まれると、これほど強い恐怖心を抱くことを初めて知った。
固まる私に、ルシフェル様が優しく尋ねる。

「いいですね?」

良い筈がない。
私の頼みを聞いてもらって魔王復活を阻止したところで、私が幸せな人生を送らなければ意味がない。
ルシフェル様からどんな要求されるかハラハラしながら暮らすのは、幸せとは言えない気がする。

――でも……

自分の首を人質に取られて、承諾する以外の選択肢は、私にはない。
ルシフェル様からの圧に負けて、無言で頷いた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天才魔術師から逃げた令嬢は婚約破棄された後捕まりました

oro
恋愛
「ねぇ、アデラ。僕は君が欲しいんだ。」 目の前にいる艶やかな黒髪の美少年は、にっこりと微笑んで私の手の甲にキスを落とした。 「私が殿下と婚約破棄をして、お前が私を捕まえることが出来たらな。」 軽い冗談が通じない少年に、どこまでも執拗に追い回されるお話。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

ラヴィニアは逃げられない

恋愛
大好きな婚約者メル=シルバースの心には別の女性がいる。 大好きな彼の恋心が叶うようにと、敢えて悪女の振りをして酷い言葉を浴びせて一方的に別れを突き付けた侯爵令嬢ラヴィニア=キングレイ。 父親からは疎まれ、後妻と異母妹から嫌われていたラヴィニアが家に戻っても居場所がない。どうせ婚約破棄になるのだからと前以て準備をしていた荷物を持ち、家を抜け出して誰でも受け入れると有名な修道院を目指すも……。 ラヴィニアを待っていたのは昏くわらうメルだった。 ※ムーンライトノベルズにも公開しています。

ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。

しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。 そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。 王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。 断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。 閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で…… ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

獅子の最愛〜獣人団長の執着〜

水無月瑠璃
恋愛
獅子の獣人ライアンは領地の森で魔物に襲われそうになっている女を助ける。助けた女は気を失ってしまい、邸へと連れて帰ることに。 目を覚ました彼女…リリは人化した獣人の男を前にすると様子がおかしくなるも顔が獅子のライアンは平気なようで抱きついて来る。 女嫌いなライアンだが何故かリリには抱きつかれても平気。 素性を明かさないリリを保護することにしたライアン。 謎の多いリリと初めての感情に戸惑うライアン、2人の行く末は… ヒーローはずっとライオンの姿で人化はしません。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

処理中です...