無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定

文字の大きさ
11 / 21

伯爵家からのお迎え。

しおりを挟む
 明けて翌日。
 ヒューブはギルマスに言われたとおりに午後からは宿から一歩ま外に出ていなかった。
 ミラティランド伯爵から名誉騎士爵に叙爵されるからだ。

「面倒だな、面倒だな、面倒だなぁ」

 もう数えるのが馬鹿らしくなるくらいに「面倒だ」と呟いている。
 正直言って、名誉爵だろうが何だろうが貴族に取り立てられるのは本当に面倒臭い事ばかりで、貴族同士のお茶会なんてしている暇は今のヒューブには欠片もないからだ。

「ったく。伯爵様も余計な事をしてくれるよなぁ…いっその事断っちまうかな」

 そうは思うが、できるものならそうしたい。叙爵を辞退してただの冒険者として生きていきたい。
 自由で楽しい人生を過ごしたい。
 な。

「どうなってんのかな。アソコは」

 思いを馳せていたら、ドアがノックされた。

「ヒューブお兄ちゃん。お迎えが来たよ」
「そっか。分かったよ。ありがとね」

 看板娘のノエルちゃん、通称ノンちゃんが伯爵様からの迎えが来たと教えてくれた。
 ノンちゃんは猫獣人族の女の子だ。
 ヒューブより三つ下の十歳で、いつもお家のお手伝いをしている元気で可愛い女の子なのだが…何だか今日は朝から元気がないっぽい。
 どうしたのかなと心配していたのだが、

「ヒューブお兄ちゃん。お貴族様になるの?」
「うん。一応ね」
「もうバイバイなの?」
「ん?何でバイバイなの?」
「だって、お貴族様になったら大きな御屋敷に住んで、たくさんの使用人を雇って暮らすんでしょ?だから、もうここには来ないんでしょ?」

 あ~、成る程。
 元気がないのはソレが原因だったか。
 確かに貴族になるとノンちゃんの言うような暮らしをするものだが、ヒューブの場合は少し違う。
 叙爵されるとは言うものの、名誉爵位なので領地や屋敷は下賜されないし、多分幾らかのご褒美金を貰うだけだろう。
 だけどまだ子供のノンちゃんにはその辺の事が分かっていないようで、
 
 「貴族=御屋敷住まいの大金持ち」

 というイメージなのだろう。

「あのね、ノンちゃん。お兄ちゃんは確かに貴族にはなるけど、御屋敷も使用人も無いんだよ?」
「え?だって、お貴族様なんでしょ?」
「そうだよ。確かに貴族だよ。でもね、お兄ちゃんは肩書き…格好だけのお貴族様なんだよ」
「格好だけ…それじゃ、帰ってくる?」
「勿論さ。だから、荷物だってまとめてないでしょ?」
「そういえば…」
「それとも、ノンちゃんはお兄ちゃんに出ていけって言うの?」
「え!?そ、そんな事言ってないよ。帰ってき、ちょ、お兄ちゃん、泣かないで泣かないでーーー!」
「イヤイヤ、イヤイヤ。ノンちゃんがイジメる、ノンちゃんがイジメるーーーー!わーーん、ノンちゃんのイジメっ子ーーー!!」

 ヒューブが泣きだすとノンちゃんは慌てに慌てて、大慌てする。

「わ、わーー。大変、大変!お兄ちゃん、ノンちゃんごめんなさいする、ごめんなさいする」
「ヤーーーーッ!」
「良い子良い子したげるから」
「ヤーーーー ッ!」
「ギューーってしたげるから」
「ヤーーーーッ!」
「ほっぺにチューーしたげるから」
「全部してくれなきゃヤーーーッ!」
「うん。全部したげるから泣かないで」
「分かった。なら、泣くのやめる~」

 中々泣き止まないヒューブだったが、それは全部、お芝居だった。

「あ、あーーーーッ!お兄ちゃん、嘘泣きーーーーーッ!!」
「んにゃはははははーーー。涙を武器にするのは女の子だけじゃないんだよ~」
「む~、インチキ、インチキ!」

 ノンちゃんはほっぺを膨らませるが、約束は約束だ。

「お兄ちゃんのエッチ!」

 ヒューブの頭を撫でて、ギューーッと抱きしめて、ほっぺにチューーをするノンちゃんの顔は真っ赤になっていた。
 ヒューブはクスクスと笑いながら、

「それじゃあ、行ってきます」
「はい。いってらっしゃい」

 まるで若夫婦のような遣り取りに、宿にいた人達は温かい眼差しで見ていた。
 伯爵家の馬車にのったヒューブは、使者の執事さんに一通りの礼儀作法を教えてもらったので、失礼のないようにしなければと頭の中で何度も何度もイメトレした。
 気になっていたヴェランザ男爵の事を聞いたら、執事さんことレイムさんは苦虫を噛んだみたいな顔で色々と教えてくれた。
 その色々は…本っ当にクソくだらない事ばっかりだった。
 思わず、

「決闘になったら、ブッ殺しても良いんですよね?」

 と聞いてしまったくらいだ。
 執事のレイムさんは明言を避けはしたが、否定もしなかった。
 口にはできないが、本音はってくれと思っているのだろう。口の端が少しだけ緩んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

黒巻雷鳴
ファンタジー
天上界と地上界、そして魔界を大崩壊から救うため、勇者マルス一行は長き冒険の末に異次元空間エレロイダへと続く《禁忌の扉》をひらいた。 だがここにきて、運命の歯車がふたたび動きだす。 大邪神ダ=ズールとの最終決戦を間近にして新しく仲間になった暗黒騎士ヴァインの加入により、黒魔導師の少女ロアがパーティーから外されてしまったのだ。 闇の力が蔓延るラストダンジョンで、たったひとりぼっち──絶望と悲しみのなか、果たしてロアは、最凶クラスの魔物たちの巣窟から無傷で生還できるのだろうか? ※無断転載禁止

異世界で目が覚めたら目の前で俺が死んでました。この世界でオリジナルの俺はとっくに死んでたみたいです

青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。 混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。 もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。 「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」 思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。 その時、見知らぬ声が響く。 「私のことがわかるか? 13人の桜間トオル?」 これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語

社畜だった俺、最弱のダンジョンマスターに転生したので、冒険者を癒やす喫茶店ダンジョンを経営します

☆ほしい
ファンタジー
過労死した俺が目を覚ますと、そこは異世界のダンジョンコアの前だった。 どうやら俺は、ダンジョンマスターとして転生したらしい。 だが、与えられた俺のダンジョンは最低ランクのF級。魔力を生み出す力は弱く、生み出せる魔物もスライムやゴブリンといった最弱クラスばかり。これでは、冒険者を呼び込んで魔力を得るなんて夢のまた夢だ。 絶望する俺だったが、ダンジョンの創造機能を使えば、内装を自由にデザインできることに気づく。 「……そうだ、喫茶店を開こう」 前世で叶えられなかった夢。俺は戦闘を放棄し、ダンジョンの入り口に木造の喫茶店『やすらぎの隠れ家』を作り上げた。メニューは、前世の知識を活かしたコーヒーと手作りケーキだけ。 ところが、そのコーヒーには異常なまでの疲労回復効果が、ケーキには一時的な能力向上効果が付与されていることが判明。噂を聞きつけた訳ありの冒険者たちが、俺のダンジョンに癒やしを求めて集い始めるのだった。

凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲
ファンタジー
「普通がいちばん」と教え込まれてきた佐藤啓二は、日本の平均寿命である81歳で平凡な一生を終えた。 死因は癌だった。 癌による全死亡者を占める割合は24.6パーセントと第一位である。 そんな彼にも唯一「普通では無いこと」が起きた。 死後の世界へ導かれ、女神の御前にやってくると突然異世界への転生を言い渡される。 それも生前の魂、記憶や未来の可能性すらも次の世界へと引き継ぐと言うのだ。 啓二は前世でもそれなりにアニメや漫画を嗜んでいたが、こんな展開には覚えがない。 挙げ句の果てには「質問は一切受け付けない」と言われる始末で、あれよあれよという間に異世界へと転生を果たしたのだった。 インヒター王国の外、漁業が盛んな街オームで平凡な家庭に産まれ落ちた啓二は『バルト・クラスト』という新しい名を受けた。 そうして、しばらく経った頃に自身の平凡すぎるステータスとおかしなスキルがある事に気がつく――。 これはある平凡すぎる男が異世界へ転生し、その普通で非凡な力で人生を謳歌する物語である。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

事故に遭いました~俺って全身不随?でも異世界では元気ハツラツ?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 会社員の俺が交通事故に遭いました。二か月後、病院で目覚めた時、ほぼ全身不随。瞼と瞳が動かせるものの、手足も首も動かない。でも、病院で寝ると異世界の別人の身体で憑依し、五体満足で生活している。また、異世界で寝ると現代世界に目が覚めるが体の自由は利かない。  睡眠の度に異世界と現代世界を行ったり来たり、果たして、現代社会の俺は、元の身体に戻れる方法があるのだろうか?  そんな男の二重生活の冒険譚です。  毎週水曜日午後8時に投稿予定です。

処理中です...