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第三部
三十七話 モンスタークルーズは大騒ぎ 中①
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「とりあえず、ここは後で俺とグウェンドルフが調べるから、ルネさんとシスト司教は上に戻りましょうか」
この二人をこれ以上巻き込む訳にはいかないだろう。下手したら禁術を使う人間が船に乗っている。ルネ達には危険すぎる。
保護魔法がかかっているせいなのか、爆発があったにも関わらず誰も来ないし、警報も鳴らない。魔法がかかっていてもそれなりに音はしたと思うんだが、従業員は何をしているんだろう。
とにかく、船が沖にあるうちは他の乗客の安全を考慮しなければならない。まずは操舵室に向かって、いち早く港に戻ってもらおう。それから警備隊とカシス副団長を呼ぶ。
そこまで考えてからそういえば、と部屋の中を見回した。
この部屋にはいない取引の客はどうなったんだろう。契約書にサインをした人間がいるなら、船のどこかで突然倒れて死んでいる可能性がある。それも確認して、大騒ぎにならないように手を打たないと。
今後の対処を頭の中で整理していたら、不意にグウェンがもう一度部屋の中に足を踏み出した。
「どうした」
その背中に声をかけると、彼はソファとテーブルが乱雑に倒れている隙間から、一枚の紙を拾い上げた。俺たちの隣のスペースで商談していた客が座っていた辺りだ。
その緻密な文字が書かれた書面を見て、俺は目を細める。
「契約書か。燃えずに残ったものがあったんだな」
戻ってきた彼からその紙を受け取り、よくよく目を凝らす。
さっきは動揺していて頭に上手く入ってこなかったが、改めて見返すとちゃんと文面が読み取れた。
「やっぱり、禁術が発動してる」
明らかな異変はサインした客の名前が赤黒く光っていることだった。それから契約書の文中から、飛び飛びで単語や記号が赤黒く変色しているのがわかる。飛んでいる言葉を繋いでいくと、契約書の中に隠された文が浮かび上がった。以前見たような独特な文字や記号ではなく、使われている言葉が帝国の言語だからか、内容は俺にも読み取れた。要約すると、大元となる禁術の行使について自らの命を以て同意することが誓約されている。やはり、これにサインしたら禁術の供物にされるということなんだろう。
「元となる術がある、っていうのが気になるな」
これだけの人数の命を供物にして一体どんな術が展開されているのか、想像すると嫌な予感がする。
「とにかく先に上の階に戻ろう。操舵室を見つけて船長達に船を戻すように言わないと。伯爵が亡くなったことはどう説明すればいいのか、今はまだ迷うけど……」
騎士団長のグウェンが命令すれば、伯爵の指示がなくても船を港に引き返させることはできるだろう。伯爵の死亡を知らせたらきっと大騒ぎになるから、港に戻って警備隊を呼んでから明かした方がいいかもしれない。
俺の言葉にルネもシスト司教も同意して、四人で部屋の中から出た。扉がぶち抜かれた部屋をそのままにして離れていいものか躊躇ったら、司教が結界を張ってくれた。術を解くまでは外からも中からも行き来はできないと聞いて、安心して二階に向かう。
通路は相変わらずしんと静まり返っていて、二階の方から微かに人のざわめきが聞こえるだけだった。
◆
操舵室は、二階にあった。
バーの反対側にある船頭の部分に位置し、さっきまでいた一階のスイートルームの真上にあたる。それを知ったら誰も下の騒ぎには気づかなかったのかと疑問を覚えた。防災魔法がかかっていたとしても、揺れや音は少しはあったはずだけど。
結果として、俺のその疑問はすぐに氷解し、なおかつ船は港まで引き返すことができなかった。
ここへ来て更なる問題が発生したからだ。
嫌な予感が的中したというべきか、これまでの経験上ここから新たな事件が起こることは想像に難くないというべきか。
髪の色を戻してもらってからグウェンと二人で操舵室に入ったら、部屋の中は騒然としていた。
乗員たちの慌てふためく様子を見てグウェンは警戒したが、俺は半ば悟った気持ちで今度はなんだよ、と思った。
騎士団の団服を着ているグウェンを先頭にして操舵室に入ったのに、誰も俺たちが来たことを気に止めない。仕方がないので船長らしき男性を捕まえて話を聞くと、離れたところを航海している船から、こちらに向かってとある魔物が海の中を移動しているのを見たと緊急通信があったらしい。
「魔物?」
「カリュブディスだそうです。一体どうすればいいのか……まさか、そんな恐ろしい魔物を私は今まで見たことがありません」
カリュブディス。
海に棲むといわれている魔物だ。俺も実物は見たことがない。渦潮を起こして船を引き込み、巨大な口で丸呑みにするタコのような魔物といわれている。
地上に比べて海にいる魔物はかなり少ないし、海獣と違ってほとんど姿を現さない。しかし一度姿を現すと特級の魔物並みに凶暴で凶悪といわれているから、本当だとしたら結構厄介な事態だ。
「カリュブディスがこちらに向かっているというのは確かですか」
「はい。おそらく。この船よりも西側を遊覧している大型客船からの通信です。そちらには目もくれず、こちらに向かって猛烈なスピードで進んでいるらしく。今港から五十キロほど離れていますが、引き返そうにも魔物がいる方向には船を戻せません」
「騎士団への救援要請は?」
「実は通信石で先ほどから連絡を取ろうとしているのですが、何故か上手くいかず。サリエル伯爵を探そうにも、伯爵の通信石にも何度呼びかけても音沙汰がないのです」
しどろもどろに説明する船長は、一階の様子はまだ見に行っていないらしい。どうしたものかと思ったが、俺はグウェンと目を合わせて神官服の内ポケットから金色の懐中時計を取り出した。
「緊急の最中に申し訳ないのですが、実は、一階の部屋で魔石の暴走事故が起きまして。サリエル伯爵は巻き込まれてこちらには来られません。私はエリス公爵家のレイナルドといいます。すぐに公爵家の騎士団に救援要請をしますから、皆さんはそれまでこちらにいる近衛騎士団長の指示に従ってください。彼がたまたま乗り合わせていて幸運でした」
俺がエリス公爵家の家紋が掘られた時計を見せると、船長と乗員は目を丸くした。次いでグウェンの顔を見上げた船員達は、そこでようやく彼が近衛騎士団の団服を着ていることを認識した。まるで救いの神に巡り合ったというような顔になって、皆グウェンに注目する。
俺はひとまず時計に仕込んでいた手紙蝶に状況を説明して録音し、窓から離した。ウィルなら俺のメッセージに気づいて、兄さんか父さんに緊急事態を伝えてくれるだろう。
「カリュブディスが来るまで、どのくらい時間がある」
「反対方向に逃げておりますが、もしかしたら二十分ほどで追いつかれるかもしれません」
「他に魔物が接近しているという情報は」
「ありません。今のところですが」
グウェンの質問に船長が淀みなく答える。
俺はさっきから頭の中に引っかかっていることがあり、グウェンに目配せした。今の彼に伝わるか微妙だったが、言いたいことがあると伝わったのか、グウェンは俺の目を見て頷いた。
「あの、他の乗客の皆様にはどうお伝えすれば」
「余計な混乱を与えるだろう。言わなくていい。魔物が現れたとしても接近される前に私が対処する」
「はい! わかりました!!」
頼もしすぎる騎士団長の発言に、船長が平伏する勢いで頷いていた。
船長達には引き続き船を走らせるよう指示してから、一度船内を見回ると言って二人で操舵室から出た。通路に戻ったら、もうホールに戻っていいと言ってあったのにルネとシスト司教は俺達を待っていた。
「なんだか中が騒がしかったから、何かあったのかと思って」
「どうかされたんですか」
ちょっと迷ったが、二人には今更かと思い、状況を説明した。海の魔物がこの船に向かっていると聞いてルネはさっと青ざめた。
「どうするの。避難ボートを出す?」
「いや、それはまだ早計かな。多分魔物は船を追ってくると思うけど、万が一避難艇に矛先が向いたらまずい」
そう答えて、俺は先ほどから感じていた懸念を口に出すことにした。
「最悪近くまで来たら、俺とグウェンドルフで討伐に行ってくる。それよりも気になるのは、カリュブディスが何故こっちに向かってくるのかってことで。多分だけど、この船のどこかに召喚陣があるんじゃないかと思うんだ」
毎回毎回同じパターンではあるが、滅多に姿を現さない海の魔物がわざわざ近くの客船を放ってこっちに向かってくるということは、そうとしか考えられない。
さっき死んだ男たちの何人分の命が使われているのかわからないが、伯爵を含め売人たちが死んだことで術が発動していると見ていいんじゃないだろうか。
「召喚陣?」
ルネと、グウェンも今は詳細はわからないだろうから訝しげな目を向けてくる。シスト司教はさすがに教会の総本山の出身だからか、ピンと来たという顔をしていた。
「魔物を呼び寄せる魔界の禁術の一つなんだ。おそらくこの船の中に、魔法陣が描かれた羊皮紙がある。今はさっき見た契約書みたいに、術が発動して赤黒く光ってるはずだ。それを探して解術しないと、下手したらカリュブディス以外にも魔物が現れるかもしれない」
「この船のどこかに……?」
ルネが眉間に皺を寄せた。
そうだよな。俺もどうするか、とさっきから頭を悩ませている。この広い船の中から、どうやって召喚陣が描かれた羊皮紙を探すのか。それもあと二十分足らずでカリュブディスが船に来るっていうのに。
「術者が持っているということはないか」
グウェンがもっともな疑問を口に出した。
俺は少し考えてから首を縦に振る。
「確かに、その可能性もある。乗客に紛れて黒幕が船の中にいるんだとしたら、召喚陣もそいつが持ってるかもしれない。でも……」
これまでのことを頭の中で思い返した俺は、腕を組みながら推論した。
「今夜の出来事を考えたら、多分どこかに隠してあるんじゃないかと思うんだ。俺たちが探せるような場所にある。じゃないと、なんでこんな大掛かりなことをやろうとしたのか、理由がわからないだろう」
わざわざ船で魔石の売人に会わせたり、魔物をけしかけるのが何故なのかわからない。俺たちを殺したいだけなら、もっと上手いやり方があるはずだ。なんとなく、黒幕は俺たちがどう出るかを観察しているような気がする。
それに、召喚陣を自分の手元に持っているのもリスクがあるだろう。どこかに捨てるにしても人目が多いし、万が一ボディチェックされたらバレる。
「探すだけ探してみよう。といっても、この広い船の中でどうやってってことになるけど……」
しかもたくさんいる乗客の目に触れずに。
この二人をこれ以上巻き込む訳にはいかないだろう。下手したら禁術を使う人間が船に乗っている。ルネ達には危険すぎる。
保護魔法がかかっているせいなのか、爆発があったにも関わらず誰も来ないし、警報も鳴らない。魔法がかかっていてもそれなりに音はしたと思うんだが、従業員は何をしているんだろう。
とにかく、船が沖にあるうちは他の乗客の安全を考慮しなければならない。まずは操舵室に向かって、いち早く港に戻ってもらおう。それから警備隊とカシス副団長を呼ぶ。
そこまで考えてからそういえば、と部屋の中を見回した。
この部屋にはいない取引の客はどうなったんだろう。契約書にサインをした人間がいるなら、船のどこかで突然倒れて死んでいる可能性がある。それも確認して、大騒ぎにならないように手を打たないと。
今後の対処を頭の中で整理していたら、不意にグウェンがもう一度部屋の中に足を踏み出した。
「どうした」
その背中に声をかけると、彼はソファとテーブルが乱雑に倒れている隙間から、一枚の紙を拾い上げた。俺たちの隣のスペースで商談していた客が座っていた辺りだ。
その緻密な文字が書かれた書面を見て、俺は目を細める。
「契約書か。燃えずに残ったものがあったんだな」
戻ってきた彼からその紙を受け取り、よくよく目を凝らす。
さっきは動揺していて頭に上手く入ってこなかったが、改めて見返すとちゃんと文面が読み取れた。
「やっぱり、禁術が発動してる」
明らかな異変はサインした客の名前が赤黒く光っていることだった。それから契約書の文中から、飛び飛びで単語や記号が赤黒く変色しているのがわかる。飛んでいる言葉を繋いでいくと、契約書の中に隠された文が浮かび上がった。以前見たような独特な文字や記号ではなく、使われている言葉が帝国の言語だからか、内容は俺にも読み取れた。要約すると、大元となる禁術の行使について自らの命を以て同意することが誓約されている。やはり、これにサインしたら禁術の供物にされるということなんだろう。
「元となる術がある、っていうのが気になるな」
これだけの人数の命を供物にして一体どんな術が展開されているのか、想像すると嫌な予感がする。
「とにかく先に上の階に戻ろう。操舵室を見つけて船長達に船を戻すように言わないと。伯爵が亡くなったことはどう説明すればいいのか、今はまだ迷うけど……」
騎士団長のグウェンが命令すれば、伯爵の指示がなくても船を港に引き返させることはできるだろう。伯爵の死亡を知らせたらきっと大騒ぎになるから、港に戻って警備隊を呼んでから明かした方がいいかもしれない。
俺の言葉にルネもシスト司教も同意して、四人で部屋の中から出た。扉がぶち抜かれた部屋をそのままにして離れていいものか躊躇ったら、司教が結界を張ってくれた。術を解くまでは外からも中からも行き来はできないと聞いて、安心して二階に向かう。
通路は相変わらずしんと静まり返っていて、二階の方から微かに人のざわめきが聞こえるだけだった。
◆
操舵室は、二階にあった。
バーの反対側にある船頭の部分に位置し、さっきまでいた一階のスイートルームの真上にあたる。それを知ったら誰も下の騒ぎには気づかなかったのかと疑問を覚えた。防災魔法がかかっていたとしても、揺れや音は少しはあったはずだけど。
結果として、俺のその疑問はすぐに氷解し、なおかつ船は港まで引き返すことができなかった。
ここへ来て更なる問題が発生したからだ。
嫌な予感が的中したというべきか、これまでの経験上ここから新たな事件が起こることは想像に難くないというべきか。
髪の色を戻してもらってからグウェンと二人で操舵室に入ったら、部屋の中は騒然としていた。
乗員たちの慌てふためく様子を見てグウェンは警戒したが、俺は半ば悟った気持ちで今度はなんだよ、と思った。
騎士団の団服を着ているグウェンを先頭にして操舵室に入ったのに、誰も俺たちが来たことを気に止めない。仕方がないので船長らしき男性を捕まえて話を聞くと、離れたところを航海している船から、こちらに向かってとある魔物が海の中を移動しているのを見たと緊急通信があったらしい。
「魔物?」
「カリュブディスだそうです。一体どうすればいいのか……まさか、そんな恐ろしい魔物を私は今まで見たことがありません」
カリュブディス。
海に棲むといわれている魔物だ。俺も実物は見たことがない。渦潮を起こして船を引き込み、巨大な口で丸呑みにするタコのような魔物といわれている。
地上に比べて海にいる魔物はかなり少ないし、海獣と違ってほとんど姿を現さない。しかし一度姿を現すと特級の魔物並みに凶暴で凶悪といわれているから、本当だとしたら結構厄介な事態だ。
「カリュブディスがこちらに向かっているというのは確かですか」
「はい。おそらく。この船よりも西側を遊覧している大型客船からの通信です。そちらには目もくれず、こちらに向かって猛烈なスピードで進んでいるらしく。今港から五十キロほど離れていますが、引き返そうにも魔物がいる方向には船を戻せません」
「騎士団への救援要請は?」
「実は通信石で先ほどから連絡を取ろうとしているのですが、何故か上手くいかず。サリエル伯爵を探そうにも、伯爵の通信石にも何度呼びかけても音沙汰がないのです」
しどろもどろに説明する船長は、一階の様子はまだ見に行っていないらしい。どうしたものかと思ったが、俺はグウェンと目を合わせて神官服の内ポケットから金色の懐中時計を取り出した。
「緊急の最中に申し訳ないのですが、実は、一階の部屋で魔石の暴走事故が起きまして。サリエル伯爵は巻き込まれてこちらには来られません。私はエリス公爵家のレイナルドといいます。すぐに公爵家の騎士団に救援要請をしますから、皆さんはそれまでこちらにいる近衛騎士団長の指示に従ってください。彼がたまたま乗り合わせていて幸運でした」
俺がエリス公爵家の家紋が掘られた時計を見せると、船長と乗員は目を丸くした。次いでグウェンの顔を見上げた船員達は、そこでようやく彼が近衛騎士団の団服を着ていることを認識した。まるで救いの神に巡り合ったというような顔になって、皆グウェンに注目する。
俺はひとまず時計に仕込んでいた手紙蝶に状況を説明して録音し、窓から離した。ウィルなら俺のメッセージに気づいて、兄さんか父さんに緊急事態を伝えてくれるだろう。
「カリュブディスが来るまで、どのくらい時間がある」
「反対方向に逃げておりますが、もしかしたら二十分ほどで追いつかれるかもしれません」
「他に魔物が接近しているという情報は」
「ありません。今のところですが」
グウェンの質問に船長が淀みなく答える。
俺はさっきから頭の中に引っかかっていることがあり、グウェンに目配せした。今の彼に伝わるか微妙だったが、言いたいことがあると伝わったのか、グウェンは俺の目を見て頷いた。
「あの、他の乗客の皆様にはどうお伝えすれば」
「余計な混乱を与えるだろう。言わなくていい。魔物が現れたとしても接近される前に私が対処する」
「はい! わかりました!!」
頼もしすぎる騎士団長の発言に、船長が平伏する勢いで頷いていた。
船長達には引き続き船を走らせるよう指示してから、一度船内を見回ると言って二人で操舵室から出た。通路に戻ったら、もうホールに戻っていいと言ってあったのにルネとシスト司教は俺達を待っていた。
「なんだか中が騒がしかったから、何かあったのかと思って」
「どうかされたんですか」
ちょっと迷ったが、二人には今更かと思い、状況を説明した。海の魔物がこの船に向かっていると聞いてルネはさっと青ざめた。
「どうするの。避難ボートを出す?」
「いや、それはまだ早計かな。多分魔物は船を追ってくると思うけど、万が一避難艇に矛先が向いたらまずい」
そう答えて、俺は先ほどから感じていた懸念を口に出すことにした。
「最悪近くまで来たら、俺とグウェンドルフで討伐に行ってくる。それよりも気になるのは、カリュブディスが何故こっちに向かってくるのかってことで。多分だけど、この船のどこかに召喚陣があるんじゃないかと思うんだ」
毎回毎回同じパターンではあるが、滅多に姿を現さない海の魔物がわざわざ近くの客船を放ってこっちに向かってくるということは、そうとしか考えられない。
さっき死んだ男たちの何人分の命が使われているのかわからないが、伯爵を含め売人たちが死んだことで術が発動していると見ていいんじゃないだろうか。
「召喚陣?」
ルネと、グウェンも今は詳細はわからないだろうから訝しげな目を向けてくる。シスト司教はさすがに教会の総本山の出身だからか、ピンと来たという顔をしていた。
「魔物を呼び寄せる魔界の禁術の一つなんだ。おそらくこの船の中に、魔法陣が描かれた羊皮紙がある。今はさっき見た契約書みたいに、術が発動して赤黒く光ってるはずだ。それを探して解術しないと、下手したらカリュブディス以外にも魔物が現れるかもしれない」
「この船のどこかに……?」
ルネが眉間に皺を寄せた。
そうだよな。俺もどうするか、とさっきから頭を悩ませている。この広い船の中から、どうやって召喚陣が描かれた羊皮紙を探すのか。それもあと二十分足らずでカリュブディスが船に来るっていうのに。
「術者が持っているということはないか」
グウェンがもっともな疑問を口に出した。
俺は少し考えてから首を縦に振る。
「確かに、その可能性もある。乗客に紛れて黒幕が船の中にいるんだとしたら、召喚陣もそいつが持ってるかもしれない。でも……」
これまでのことを頭の中で思い返した俺は、腕を組みながら推論した。
「今夜の出来事を考えたら、多分どこかに隠してあるんじゃないかと思うんだ。俺たちが探せるような場所にある。じゃないと、なんでこんな大掛かりなことをやろうとしたのか、理由がわからないだろう」
わざわざ船で魔石の売人に会わせたり、魔物をけしかけるのが何故なのかわからない。俺たちを殺したいだけなら、もっと上手いやり方があるはずだ。なんとなく、黒幕は俺たちがどう出るかを観察しているような気がする。
それに、召喚陣を自分の手元に持っているのもリスクがあるだろう。どこかに捨てるにしても人目が多いし、万が一ボディチェックされたらバレる。
「探すだけ探してみよう。といっても、この広い船の中でどうやってってことになるけど……」
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