断罪される未来を知る悪役令嬢ですが、冷徹なはずの婚約者に勘違いされて溺愛ルートに入りました

六角

文字の大きさ
31 / 60

第31話:偽りの愛、本物の想い

しおりを挟む
真実とは、時に、あまりにも残酷だ。
私たちの目の前で映し出された幻影は、ゼノン様が信じてきた過去と、私への想いの、そのすべてが、ロシュフォール宰相によって仕組まれた、偽りであったことを、容赦なく暴き出した。

「……そうか」

ゼノン様が、ぽつりと、呟いた。
その声は、ひどく、乾いていた。

「すべて、奴の、筋書き通りだった、というわけか…」

彼は、自嘲するように、笑った。
そのアイスブルーの瞳から、光が消え、深い、深い、絶望の色が、広がっていく。

「俺の、お前への想いも。お前が、俺の、運命の相手だという、確信も。すべてが、奴に、与えられた、偽りの記憶だったとはな…」

彼は、自分のこめかみを、強く、押さえた。

「滑稽だ。俺は、ずっと、幻を、愛していたに過ぎない」

そして、彼は、私に向かって、深く、深く、頭を下げた。

「…すまなかった、イザベラ」

「ゼノン様…?」

「俺は、偽りの愛を振りかざし、お前を、追い詰めた。お前が、あれほど、苦しんでいたというのに、それにも気づかず、自分の独占欲を、満たしていただけだった。…俺に、お前を、愛する資格など、なかったんだ」

彼の、悲痛な、告白。
それは、彼のプライドを、すべて、かなぐり捨てた、魂の叫びだった。
見ているのが、辛い。
彼の、こんなに、弱々しい姿は、初めて見た。

でも。
違う。

「…顔を、上げてくださいまし、ゼノン様」

私は、彼の前に、跪くと、彼の手に、そっと、自分の手を、重ねた。

「あなたの、想いは、偽物などでは、ありませんでしたわ」

「…何だと?」

「きっかけは、宰相の、計画だったのかもしれません。でも、あなたが、わたくしを、想ってくださった、その十年という時間は、紛れもなく、本物でした」

そうだ。
彼の想いは、決して、偽りなどではない。

「わたくしに、毎日、花を贈ってくださったことも。わたくしが、好きだと言った、劇団のチケットを、取ってくださったことも。わたくしのために、ドレスを、たくさん、用意してくださったことも」

思い出すのは、勘違いから始まった、彼の、不器用な、愛情表現。
あの頃は、恐怖しか、感じなかった。
でも、今は、わかる。

「あれはすべて、あなたが、わたくしを、喜ばせたいと、必死に、考えて、行動してくださったことでしょう? 宰相に、命令されたわけでは、ないはずです」

「……それは…」

「あなたの想いは、あなた自身のものですわ。誰かに、与えられた、偽物なんかじゃ、決して、ありません」

私の言葉に、ゼノン様の瞳が、わずかに、揺れた。

「それに」と、私は続けた。

「むしろ、わたくし、感謝しておりますのよ」
「感謝…だと?」
「ええ。これで、ようやく、はっきりいたしましたわ。私たちの、本当の敵が、誰なのか。その目的が、何なのか」

そうだ。
もう、迷う必要はない。
疑う必要も、ない。
私たちの、進むべき道は、一つだ。

「わたくしたちは、負けません。宰相の、思い通りになんて、絶対に、させてやりませんわ」

私は、彼の瞳を、まっすぐに見つめて、宣言した。

「ですから、ゼノン様。いつまでも、そんなところで、うずくまっていないで、さっさと、立ちなさいな。わたくしたちには、やらなければならないことが、山ほど、ありますのよ?」

悪役令嬢、ここに、復活だ。
いつまでも、悲劇のヒロインぶっている、婚約者を、叱咤激励するのも、私の、役目だろう。

私の、その、いつもと変わらない、高飛車な物言いが、彼の、心に、火をつけたらしい。
ゼノン様の瞳に、再び、強い光が、宿り始めた。
絶望の色が、消え、代わりに、燃えるような、怒りの炎が、灯っていく。

「…ああ。そうだな」

彼は、私の手を、強く、握り返した。

「お前の、言う通りだ。いつまでも、こんなところで、感傷に浸っている場合ではない」

彼は、ゆっくりと、立ち上がった。
その姿は、もう、いつもの、自信に満ちた、氷の貴公子、そのものだった。

「ロシュフォール宰相…あの男だけは、絶対に、許さん。俺の、そして、俺たちの、十年という時間を、弄んだ罪。そのすべてを、償わせてやる」

絶望の底から、這い上がった、二人の魂。
偽りの過去を、乗り越えて、そこには、本物の、そして、より強固な、絆が、生まれていた。

「行くぞ、イザベラ」
「はい、ゼノン様」

私たちは、手を取り合って、再び、歩き出す。
この、出口のない牢獄から、脱出し、そして、すべての元凶に、鉄槌を下すために。
私たちの、本当の戦いは、ここから、始まるのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

地味顔令嬢の私を「嘘の告白」で笑いものにするつもりですか? 結構です、なら本気で惚れさせてから逆にこっちが盛大に振ってあげます!

日々埋没。
恋愛
「お前が好きだ。この俺と付き合ってくれないか?」    学園のアイドル、マルスからの突然の告白。  憧れの人からの言葉に喜んだのも束の間、伯爵令嬢リーンベイルは偶然知ってしまう。それが退屈しのぎの「嘘の告白(ウソコク)」だったことを。 「あの地味顔令嬢が俺に釣り合うわけないだろ。ドッキリのプラカードでも用意しとくわ」  親友のミネルバと共に怒りに震える彼女は、復讐を決意する。まずは父の言いつけで隠していた「絶世の美貌」を解禁! 嘘の恋を「真実の恋(マジコク)」に変えさせ、最高のタイミングで彼を地獄へ突き落とす――。 「……今さら本気になった? 冗談はやめてください、これドッキリですよ?」

【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました

さこの
恋愛
 婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。  そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。  それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。  あくまで架空のゆる設定です。 ホットランキング入りしました。ありがとうございます!! 2021/08/29 *全三十話です。執筆済みです

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

当て馬令嬢は自由を謳歌したい〜冷酷王子への愛をゴミ箱に捨てて隣国へ脱走したら、なぜか奈落の底まで追いかけられそうです〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢エルナは、熱烈に追いかけていた第一王子シオンに冷たくあしらわれ、挙句の果てに「婚約者候補の中で、お前が一番あり得ない」と吐き捨てられた衝撃で前世の記憶を取り戻す。 そこは乙女ゲームの世界で、エルナは婚約者選別会でヒロインに嫌がらせをした末に処刑される悪役令嬢だった。 「死ぬのも王子も、もう真っ平ご免です!」 エルナは即座に婚約者候補を辞退。目立たぬよう、地味な領地でひっそり暮らす準備を始める。しかし、今までエルナを蔑んでいたはずのシオンが、なぜか彼女を執拗に追い回し始め……? 「逃げられると思うなよ。お前を俺の隣以外に置くつもりはない」 「いや、記憶にあるキャラ変が激しすぎませんか!?」

恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい
恋愛
 公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。  そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。  家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――

時間を戻した元悪女は、私を捨てた王太子と、なぜか私に夢中の騎士団長から逃げられません

腐ったバナナ
恋愛
王太子アルベルトの婚約者であったユミリアは、前世で悪女の汚名を着せられ、騎士団長ギルバートによって処刑された。 しかし、目を覚ますと、処刑直前の自分に時間が戻っていた。 ユミリアは、静かに追放されることを目標に、悪女の振る舞いをやめ、王太子から距離を置く。 しかし、なぜか冷酷非情なはずの騎士団長ギルバートが、「貴殿は私の光だ」と異常な執着を見せ、彼女を絶対的に独占し始める。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

私の欲する愛を独占している双子に嫉妬して入れ替わったら、妹への恨み辛みを一身に受けましたが、欲しかったものは手にできました

珠宮さくら
恋愛
双子の姉妹として生まれた2人は、成長するにつれてお互いにないものねだりをしていた事に気づかないまま、片方は嫉妬し、片方は殺意を持って、お互いが入れ替わることになる。 そんな2人に振り回されたと怒り狂う人が現れたり、それこそ双子のことを振り回した人たちも大勢いたが、謝罪されても伝わることのない未来が訪れるとは思いもしなかった。 それでも、頑張っていた分の願いは叶ったのだが……。

処理中です...