怪物どもが蠢く島

湖城マコト

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第34話 二十四時間

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「くそっ、まさか海岸にもこれだけの数がいるなんて」

 先行していた胴丸と玲於奈は、想像を超える量のゾンビの待ち伏せに苦戦を強いられていた。地図上では把握出来なかったが、北の岸壁には簡易的な船着き場(恐らくは実験の関係者が乗り付けるための物だろう)が整備されており、そこには一隻の白いクルーザが着岸していた。

 クルーザーを見つけて心が躍ったのも束の間。どこから湧いて出たのか、北の海岸は三十を超えるゾンビに取り囲まれており、最後の難関として立ち塞がっている。

 護身用に鞘を持たせた玲於奈を背に庇いつつ、胴丸が刀を振るって攻撃をしかけるが、連戦で切れ味が鈍り、これまでのように一撃必殺とはいかない。それでも力づくで五体を切り伏せたが、六体目の首を刎ねた瞬間。

「ここが限界か!」

 数多のゾンビを切り結んできた胴丸の刀が、とうとう限界を迎えてへし折れた。折れた刀身が回転して宙を舞う。その隙を見逃さず、三体のゾンビが胴丸目掛けて襲い掛かる。

「まだだ! まだ終われない!」

 玲於奈から鞘を受け取り、強烈に薙ぐことで一体を吹き飛ばし、折れた刀身を力任せにゾンビの右目に押し込むことで二体目も撃破。しかし、三体目への対処が間に合わず、ゾンビの歯が胴丸の首元へと迫る。

「間に合わない」

 攻撃後の隙が大きく、回避行動が間に合わない。万事休すかと胴丸は歯を食いしばる。
 ゾンビが胴丸に噛みつこうとした瞬間、ゾンビの頭部が鈍い衝突音と共に吹き飛び、大の字で仰向けに倒れ込んだ。ゾンビの頭を砕いた物の正体は直ぐに知れた。ゾンビの亡骸の直ぐ傍には、返り血に染まったネイルハンマーが落下している。北欧神話の神トールの武器、ミョルニルの如く、遠方から投擲されたのだろう。

「黎一さん!」

 玲於奈がその名を叫んだ瞬間、岩場に展開していた二体のゾンビの首が一瞬で飛んだ。即座に今度は、少し離れた位置にいたゾンビの両腕が切り落とされ、黎一は回し蹴りでその首をへし折った。

「間に合ってよかった」

 マチェーテを大きく振るって血を払った黎一が、二人の方へと振り向く。
 黎一の健在ぶりを見て、二人は安堵と同時に心強さを覚えた。黎一が来てくれた以上、もう負ける気がしない。

「胴丸さん。まだやれますよね?」
「もちろんだ。君のおかげでしぶとく生き延びた。感謝する」

 胴丸は黎一と肩を並べ、拾って来たネイルハンマーを感謝の言葉と共に黎一へと手渡す。

「そのマチェーテは、もしや兜の?」
「はい。託されたんだと思います」
「そうか。そうかもしれないな」

 深く追求することはせず、胴丸は肯定的に頷いた。現実主義者の胴丸ではあるが、それでも兜のマチェーテを今、黎一が握っていることには、運命めいたものを感じていた。

「武器を貸しましょうか?」
「鞘があれば十分だ。ネイルハンマーもマチェーテも、君にこそ相応しい」

 それぞれの得物を構え、二人の男は残るゾンビを排除すべく。正真正銘の最後の戦いへと身を投じた――。

 ※※※

『正午となりました。只今を持ちまして本ゲームは終了となります。生存者の皆様。二十四時間の極限サバイバル、大変お疲れ様でした。このゲームを生き抜いた豪傑たちに心からの祝福をお送り致します』

「終わったんですね」
「終わったみたいだな」
「まったく。酷い一日だったよ」

 ゲーム開始から二十四時間が経過。黎一、玲於奈、胴丸の三人は、ゲーム終了のアナウンスをクルーザの上で迎えていた。胴丸は操舵室に待機。玲於奈は膝を折って甲板に腰を下ろし、黎一に至っては疲労感から大の字で倒れ込んでいる。

『操舵室の鍵穴に、研究施設で入手したキーを差し込んでください。そうすればクルーザーのエンジンが起動します。起動後は自動操縦にて皆様を本土までお送りいたします。このようなゲームに皆様を巻き込んだ我々の言葉を完全に信用することは難しいかと存じますが、皆様の帰還に関して、我々は一切の妨害をしないことをお約束いたします。食料品等もクルーザー内に用意しております。本土へ戻るまでの間は天候にも恵まれているようですので、快適な船旅をお楽しみ下さいませ』

 鮫のキャラクターの指示に従い胴丸がキーを差し込むと、クルーザーのエンジンが起動し自動操縦によって島から離岸した。この世の地獄のようなあの島とも、ようやくお別れ出来る。

「本当に無事に日本まで帰してくれるでしょうか?」
「なるようにしかならないさ。どのみちこれ以上は体力が持たない」

 玲於奈の懸念はもっともだが、このクルーザ以外に日本に帰る手段は存在しない。運営側が生存者にまで追い打ちをかけるほど無情ではないことを祈り、後は流れに身を任せる他ない。

「大丈夫。いざとなれば自動操縦を切って私が操縦するよ」
「胴丸さん。クルーザーの操作が出来るんですか?」
「まあ、人並みにはね」
「並みの人間は普通、船舶の操縦なんて出来ませんって」

 どこまでハイスペックなのだと、黎一からも思わず笑みが零れる。ゾンビから襲撃されることのない状況だからこそ、自然と笑えたような気がする。笑えることの尊さを、極限状態が教えてくれたような気がする。

「兜さんにもこの場にいてほしかった」
「そうですね」

 形見のマチェーテを握りしめ、亡き兜へと想いを馳せる。
 共に行動した時間こそ半日と短かったが、黎一は彼と共に戦った記憶を生涯、決して忘れることはないだろう。

「玲於奈、日本に戻ったらまず何をしたい?」
「まずはゆっくりシャワーを浴びたいですね。すっかり鼻が麻痺してますけど、今の私たちは腐臭に塗れて酷いことになっていると思います」
「違いないな」

 上体を起こし、潮風を肌に感じながら黎一は大きく伸びをした。

「黎一さんこそ、戻ったらどうされるんですか?」
「殺し屋の仕事に戻るだけだ。まずは鞍橋を仕留めた報告からだな」
「殺し屋ですか……」

 黎一の殺し屋としての一面を思い出し、玲於奈はふと昨晩の会話を思い出していた。それは黎一も同じだ。

「昨晩も言ったが、もしもの場合は俺を頼れ。俺はいつでもお前からの依頼を受けるよ」
「考えておきます」

 玲於奈の返答は昨晩と変わらなかったが、黎一は別にそれでも構わないと思った。生きてさえいれば考える時間は十分にある。決断するのは黎一ではなく玲於奈なのだから。
 
「日本に戻ったら何をするかか」

 二人のやり取りを操舵室越しに眺めていた胴丸は、研究施設で散った季里と鍬形のことを思い出していた。日本に戻ったらまずは季里に託された役目を果たさなければいけない。裏社会の人間である自分の柄ではないと自嘲しながらも、たまには正義感で動いてみるのも悪くはないだろう。

「綿上くん、百重くん。船旅はまだ始まったばかりだ。とりあえず腹ごしらえでもしないか?」
「賛成です」

 収納スペースに置かれていた食料品を手に、胴丸も甲板へと姿を現す。豪華な食事とまではいかないが、飲み物や携帯食料の種類は豊富で、選り好みするぐらいの贅沢は出来る。

「本当に安心出来るのは無事に本土に帰還してからになるが、何はともあれ、私達はあの悪夢のような島からの脱出に成功した。そのことを祝おうじゃないか」

 胴丸が乾杯の音頭を取り、全員がペットボトルを手に取る。黎一は炭酸飲料、玲於奈はオレンジジュース、胴丸はミネラルウォーターをそれぞれ選んだ。

「乾杯!」
「乾杯」
「乾杯です」

 それぞれのペットボトルを打ち合わせ、ゾンビだらけの島を脱出できた喜びを、三人は分かち合った。
 
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