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第35話 怪物どもが蠢く島
こうして、ゾンビが蠢く島での命懸けのサバイバルは終了した。
生還者三名。犠牲者十三名。島内の生存者一名。
ゲーム参加者のゾンビ総撃破数は実に五百七十七体にのぼる。
生存者の数は主催者側の予想を超えるものではあったが、生物兵器としてのゾンビの性能に関する反省点も多く見つかり、研究者にとっても貴重なデータを取得出来た有意義な実験であった。そういう意味では実験は成功だったと言えるだろう。
「皆、あの苦難を乗り切った勇敢なる生還者たちに盛大な拍手を」
モニター越しに、島を脱出した三人の様子を観察していた面繋が、満足気に両手を鳴らし、その場にいた部下たちにも同調を求めた。研究者の総角や、鮫のキャラクターを演じていた鳩尾はいまいち乗り切れない様子だが、上司である面繋の指示なので渋々応じる。ゾンビを使った人体実験という狂気の道に足を踏み入れながらも、二人はまだ狂人ではない。生存者に賛辞を贈る資格が自分たちにあるのかと、多少なりとも良心の呵責を感じていた。
「しかし、私の予想が外れるとは。てっきり一文字季里も生き残るものだと考えていたのだが」
この実験における彼女の戦績を鑑みるに、あのような場面で脱落したのは正直意外だった。むしろ脱落するならば、常に最前線に立っていた綿上黎一か胴丸甲士郎のどちらかだと予想していた。
「主任、そのことなんですが」
総角が神妙な面持ちで、モニターを無人カメラで撮影した研究施設の地下の映像へとを切り替えた。
「総角くん。この映像は」
「先ほど、研究施設の地下を無人機のカメラで捉えたものです。中央に映っているのが一文字季里の遺体なのですが」
流石の面繋もこの時ばかりは驚愕に目を丸くした。カメラに映っていたのは、無残な姿となった季里の遺体と、その前で膝から崩れ落ちる、全身ボロボロでゾンビになりかけた鍬形了嗣の背中であった。
※※※
全身血塗れの鍬形は、おぼつかない足取りと薄れゆく意識の中で、執念だけで季里の元まで到着していた。どうせ人としての最後を迎えるのなら、相棒として共に戦った彼女の側で朽ちたい。それだけが最後の願いだった。階段を下る頃にはそれまで執拗に鍬形に襲いかかってきたゾンビたちが、突然見向きもしなくなった。強靱な精神力で意識を保っているだけで、肉体的にはすでにゾンビの仲間入りを果たしているのだ。それ故にゾンビたちは同族と見なした鍬形を襲わない。
「一文字……どうして……こんな……」
季里の亡骸を前に、鍬形の感情には怒りと困惑が混じり合っていた。ゾンビの群れに襲われた季里は見るも無残な姿となっていた。それだけならここまで動揺はしなかっただろう。ゾンビの群れに季里が襲われたと聞いて、惨い最後であることは覚悟していた。
だが、鍬形が目の当たりにした季里の姿は聞いていた話と違う。惨たらしい姿となりながらも、辛うじて人の形を留めていた仰向けの季里の背中には、深々と狩猟用ナイフが突き立てられていたのだ。ゾンビは武器を扱えないし、出血の跡などから、生存に受けた深手であることは疑いようがない。季里はゾンビに襲われて死んだのは間違いないが、それはあくまでも結果だ。季里はナイフで深手を負わされた状況で、ゾンビの群れの中に取り残されたに違いない。最後まで季里と行動を共にし、狩猟用ナイフを扱っていた人間といえば。
「……百重玲於奈……あの女か……あの女が……」
激情に鍬形が吠える。相棒の仇とも知らずに生還の手助けをしてしまったというのか。ゾンビではなく人間の悪意によって、季里の正義は閉ざされたというのか。この世の不条理に対する怒りが抑えきれないが、この体はもう涙一つ流すことが出来ない。
「許さない! 許さな――」
玲於奈に対する激しい怒りが爆発した瞬間、鍬形の意識が消失し、途端に静かになった。程なくして、ゾンビの呻き声が一体分増えた。
島内の生存者無し。
※※※
「どうやら一文字季里はゾンビに噛み殺されるよりも前に、ナイフで背中を刺されていたようです」
「混戦状態で気がつかなかったよ。自身の生存の危機でもあったろうに、大胆な判断をしたものだ。いや、それとも何も知らずに綿上黎一が自分を助けに来てくれるという絶対的な信頼か。いずれにせよ面白い」
思わぬ事実に、面繋は不敵な笑みを浮かべた。
やはり今回の実験のために集められた者達は例外なく怪物だった。その中でも一見可憐に見えた百重玲於奈は、一際凶暴な怪物だったらしい。
生還者三名。犠牲者十三名。島内の生存者一名。
ゲーム参加者のゾンビ総撃破数は実に五百七十七体にのぼる。
生存者の数は主催者側の予想を超えるものではあったが、生物兵器としてのゾンビの性能に関する反省点も多く見つかり、研究者にとっても貴重なデータを取得出来た有意義な実験であった。そういう意味では実験は成功だったと言えるだろう。
「皆、あの苦難を乗り切った勇敢なる生還者たちに盛大な拍手を」
モニター越しに、島を脱出した三人の様子を観察していた面繋が、満足気に両手を鳴らし、その場にいた部下たちにも同調を求めた。研究者の総角や、鮫のキャラクターを演じていた鳩尾はいまいち乗り切れない様子だが、上司である面繋の指示なので渋々応じる。ゾンビを使った人体実験という狂気の道に足を踏み入れながらも、二人はまだ狂人ではない。生存者に賛辞を贈る資格が自分たちにあるのかと、多少なりとも良心の呵責を感じていた。
「しかし、私の予想が外れるとは。てっきり一文字季里も生き残るものだと考えていたのだが」
この実験における彼女の戦績を鑑みるに、あのような場面で脱落したのは正直意外だった。むしろ脱落するならば、常に最前線に立っていた綿上黎一か胴丸甲士郎のどちらかだと予想していた。
「主任、そのことなんですが」
総角が神妙な面持ちで、モニターを無人カメラで撮影した研究施設の地下の映像へとを切り替えた。
「総角くん。この映像は」
「先ほど、研究施設の地下を無人機のカメラで捉えたものです。中央に映っているのが一文字季里の遺体なのですが」
流石の面繋もこの時ばかりは驚愕に目を丸くした。カメラに映っていたのは、無残な姿となった季里の遺体と、その前で膝から崩れ落ちる、全身ボロボロでゾンビになりかけた鍬形了嗣の背中であった。
※※※
全身血塗れの鍬形は、おぼつかない足取りと薄れゆく意識の中で、執念だけで季里の元まで到着していた。どうせ人としての最後を迎えるのなら、相棒として共に戦った彼女の側で朽ちたい。それだけが最後の願いだった。階段を下る頃にはそれまで執拗に鍬形に襲いかかってきたゾンビたちが、突然見向きもしなくなった。強靱な精神力で意識を保っているだけで、肉体的にはすでにゾンビの仲間入りを果たしているのだ。それ故にゾンビたちは同族と見なした鍬形を襲わない。
「一文字……どうして……こんな……」
季里の亡骸を前に、鍬形の感情には怒りと困惑が混じり合っていた。ゾンビの群れに襲われた季里は見るも無残な姿となっていた。それだけならここまで動揺はしなかっただろう。ゾンビの群れに季里が襲われたと聞いて、惨い最後であることは覚悟していた。
だが、鍬形が目の当たりにした季里の姿は聞いていた話と違う。惨たらしい姿となりながらも、辛うじて人の形を留めていた仰向けの季里の背中には、深々と狩猟用ナイフが突き立てられていたのだ。ゾンビは武器を扱えないし、出血の跡などから、生存に受けた深手であることは疑いようがない。季里はゾンビに襲われて死んだのは間違いないが、それはあくまでも結果だ。季里はナイフで深手を負わされた状況で、ゾンビの群れの中に取り残されたに違いない。最後まで季里と行動を共にし、狩猟用ナイフを扱っていた人間といえば。
「……百重玲於奈……あの女か……あの女が……」
激情に鍬形が吠える。相棒の仇とも知らずに生還の手助けをしてしまったというのか。ゾンビではなく人間の悪意によって、季里の正義は閉ざされたというのか。この世の不条理に対する怒りが抑えきれないが、この体はもう涙一つ流すことが出来ない。
「許さない! 許さな――」
玲於奈に対する激しい怒りが爆発した瞬間、鍬形の意識が消失し、途端に静かになった。程なくして、ゾンビの呻き声が一体分増えた。
島内の生存者無し。
※※※
「どうやら一文字季里はゾンビに噛み殺されるよりも前に、ナイフで背中を刺されていたようです」
「混戦状態で気がつかなかったよ。自身の生存の危機でもあったろうに、大胆な判断をしたものだ。いや、それとも何も知らずに綿上黎一が自分を助けに来てくれるという絶対的な信頼か。いずれにせよ面白い」
思わぬ事実に、面繋は不敵な笑みを浮かべた。
やはり今回の実験のために集められた者達は例外なく怪物だった。その中でも一見可憐に見えた百重玲於奈は、一際凶暴な怪物だったらしい。
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