50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

文字の大きさ
177 / 280
第十章 混沌の呼び声

第177話 鋼の都と双冠の英雄

しおりを挟む
 エルフェンリートの森を後にしてから、一週間が過ぎた。
 俺たちの目の前に見覚えのある巨大な山脈と、そこに穿うがたれた壮大な石造りの城塞都市が再び姿を現した。ドワーフ王国の首都グラムベルクだ。

「……変わらないな、ここは」

 俺は天を突くほどの高さを持つ城門を見上げながら、懐かしさにも似た感慨を込めてつぶやいた。その隣で、初めてこの地を訪れたレオナルドが息を呑んでいる。

「これが……ドワーフの都か。門一つ取っても、エルフェンリートのそれとは思想が全く異なる。驚くべき堅牢けんろうさだ」

「わーい! また来れた! ねぇ、工房のグレンダさん、元気にしてるかな?」

 ルナが嬉しそうにはしゃぐ。彼女にとっても、この活気ある都は心躍る場所なのだろう。
 門衛もんえいに身分を明かすと、ドワーフ兵のいかめしい顔が一瞬で驚きと歓迎のそれに変わった。

「おお! カイン殿! よくぞお戻りに!」

 街の中は相変わらずリズミカルな槌の音と溶鉱炉の熱気、そして石炭の匂いに満ちていた。だが、以前訪れた時のような緊張感はない。獣魔族との戦いを共に乗り越えたこの街の空気はどこか俺たちを歓迎してくれているようだった。

 俺たちはまず、冒険者ギルド『鉄壁の輪アイゼンクライズ』へと向かった。
 ギルドの重い扉を開けると、マスター代理のドラン・ブレイザーが報告を受けて待ち構えていたかのように、自ら俺たちを迎え入れた。

「カイン殿! よくぞ戻られた! あの戦以来ですな。して、今日はどのようなご用向きで?」

 ドランの豪快な声がギルドホールに響く。俺は一礼すると、単刀直入に切り出した。

「『混沌』について、調べてほしい」

「……混沌、とは?」

「ああ。原因不明の魔力のよどみや精霊の不活性化、そして、人々の感情の異常な増幅。俺たちはその現象をそう呼んでいる。この国で似たような不可解な現象が起きていないか、ギルドの力で調査してもらいたい」

 俺の真剣な表情にドランは腕を組み、鋭い目でうなずいた。

「……奇妙な話だが、貴殿が言うからには、ただ事ではあるまい。承知した。前回の恩義もある。ギルドの全情報網を使い、調査を約束しよう」

 その時だった。ギルドの扉が勢いよく開かれ、王宮の紋章をつけた使者が駆け込んできた。

「カイン様でいらっしゃいますか! 鍛冶王バルグラス様より伝言です!」

 使者は俺たちの前でうやうやしく膝をつくと、王の言葉を告げた。

「『我が友、双冠そうかんの英雄の帰還を歓迎する。滞在の間、不自由があっては国の恥。よって、一行には住居を用意させた』とのことです」

 王の迅速な対応に、ドランは「さすがは王」と満足げに笑った。

「カイン殿、我らの調査には数日を要するだろう。それまで、王のご厚意に甘えるといい」

 俺たちは使者に案内され、ギルドからほど近い、職人たちが暮らす一画にある、立派な石造りの家へと通された。以前滞在した家よりも広く、手入れの行き届いた、まさに賓客ひんかくをもてなすための住居だった。

「すごいねー! 前より豪華になってる!」

 ルナがふかふかのベッドに飛び込み、楽しそうに跳ねる。

 俺は窓の外に広がる壮大な地下都市の夜景を眺めていた。オレンジ色の炉の光が巨大な石柱や建物の影を浮かび上がらせている。
 この街は俺を英雄として、そして友として迎えてくれた。その事実に胸の奥が温かくなるのを感じた。

 調査の依頼は済んだ。だが、答えが見つかる保証はない。
 混沌の正体とは一体何なのか。俺はまだ見ぬ敵の気配に心をざわつかせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

英雄の孫は今日も最強

まーびん
ファンタジー
前世では社会人だったが、死んで異世界に転生し、貧乏貴族ターセル男爵家の3男となった主人公ロイ。 前世のギスギスした家庭と違い、家族の皆から愛され、ロイはすくすくと3歳まで育った。 中でも、毎日一緒に遊んでくれるじいじは爺馬鹿全開で、ロイもそんなじいじが大好き。 元将軍で「英雄」と呼ばれる最強のじいじの血を引いたロイは、じいじ達に見守られながら、今日も楽しく最強な日々を過ごす。

処理中です...