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第十章 混沌の呼び声
第177話 鋼の都と双冠の英雄
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エルフェンリートの森を後にしてから、一週間が過ぎた。
俺たちの目の前に見覚えのある巨大な山脈と、そこに穿たれた壮大な石造りの城塞都市が再び姿を現した。ドワーフ王国の首都グラムベルクだ。
「……変わらないな、ここは」
俺は天を突くほどの高さを持つ城門を見上げながら、懐かしさにも似た感慨を込めてつぶやいた。その隣で、初めてこの地を訪れたレオナルドが息を呑んでいる。
「これが……ドワーフの都か。門一つ取っても、エルフェンリートのそれとは思想が全く異なる。驚くべき堅牢さだ」
「わーい! また来れた! ねぇ、工房のグレンダさん、元気にしてるかな?」
ルナが嬉しそうにはしゃぐ。彼女にとっても、この活気ある都は心躍る場所なのだろう。
門衛に身分を明かすと、ドワーフ兵の厳めしい顔が一瞬で驚きと歓迎のそれに変わった。
「おお! カイン殿! よくぞお戻りに!」
街の中は相変わらずリズミカルな槌の音と溶鉱炉の熱気、そして石炭の匂いに満ちていた。だが、以前訪れた時のような緊張感はない。獣魔族との戦いを共に乗り越えたこの街の空気はどこか俺たちを歓迎してくれているようだった。
俺たちはまず、冒険者ギルド『鉄壁の輪』へと向かった。
ギルドの重い扉を開けると、マスター代理のドラン・ブレイザーが報告を受けて待ち構えていたかのように、自ら俺たちを迎え入れた。
「カイン殿! よくぞ戻られた! あの戦以来ですな。して、今日はどのようなご用向きで?」
ドランの豪快な声がギルドホールに響く。俺は一礼すると、単刀直入に切り出した。
「『混沌』について、調べてほしい」
「……混沌、とは?」
「ああ。原因不明の魔力の淀みや精霊の不活性化、そして、人々の感情の異常な増幅。俺たちはその現象をそう呼んでいる。この国で似たような不可解な現象が起きていないか、ギルドの力で調査してもらいたい」
俺の真剣な表情にドランは腕を組み、鋭い目でうなずいた。
「……奇妙な話だが、貴殿が言うからには、ただ事ではあるまい。承知した。前回の恩義もある。ギルドの全情報網を使い、調査を約束しよう」
その時だった。ギルドの扉が勢いよく開かれ、王宮の紋章をつけた使者が駆け込んできた。
「カイン様でいらっしゃいますか! 鍛冶王バルグラス様より伝言です!」
使者は俺たちの前で恭しく膝をつくと、王の言葉を告げた。
「『我が友、双冠の英雄の帰還を歓迎する。滞在の間、不自由があっては国の恥。よって、一行には住居を用意させた』とのことです」
王の迅速な対応に、ドランは「さすがは王」と満足げに笑った。
「カイン殿、我らの調査には数日を要するだろう。それまで、王のご厚意に甘えるといい」
俺たちは使者に案内され、ギルドからほど近い、職人たちが暮らす一画にある、立派な石造りの家へと通された。以前滞在した家よりも広く、手入れの行き届いた、まさに賓客をもてなすための住居だった。
「すごいねー! 前より豪華になってる!」
ルナがふかふかのベッドに飛び込み、楽しそうに跳ねる。
俺は窓の外に広がる壮大な地下都市の夜景を眺めていた。オレンジ色の炉の光が巨大な石柱や建物の影を浮かび上がらせている。
この街は俺を英雄として、そして友として迎えてくれた。その事実に胸の奥が温かくなるのを感じた。
調査の依頼は済んだ。だが、答えが見つかる保証はない。
混沌の正体とは一体何なのか。俺はまだ見ぬ敵の気配に心をざわつかせていた。
俺たちの目の前に見覚えのある巨大な山脈と、そこに穿たれた壮大な石造りの城塞都市が再び姿を現した。ドワーフ王国の首都グラムベルクだ。
「……変わらないな、ここは」
俺は天を突くほどの高さを持つ城門を見上げながら、懐かしさにも似た感慨を込めてつぶやいた。その隣で、初めてこの地を訪れたレオナルドが息を呑んでいる。
「これが……ドワーフの都か。門一つ取っても、エルフェンリートのそれとは思想が全く異なる。驚くべき堅牢さだ」
「わーい! また来れた! ねぇ、工房のグレンダさん、元気にしてるかな?」
ルナが嬉しそうにはしゃぐ。彼女にとっても、この活気ある都は心躍る場所なのだろう。
門衛に身分を明かすと、ドワーフ兵の厳めしい顔が一瞬で驚きと歓迎のそれに変わった。
「おお! カイン殿! よくぞお戻りに!」
街の中は相変わらずリズミカルな槌の音と溶鉱炉の熱気、そして石炭の匂いに満ちていた。だが、以前訪れた時のような緊張感はない。獣魔族との戦いを共に乗り越えたこの街の空気はどこか俺たちを歓迎してくれているようだった。
俺たちはまず、冒険者ギルド『鉄壁の輪』へと向かった。
ギルドの重い扉を開けると、マスター代理のドラン・ブレイザーが報告を受けて待ち構えていたかのように、自ら俺たちを迎え入れた。
「カイン殿! よくぞ戻られた! あの戦以来ですな。して、今日はどのようなご用向きで?」
ドランの豪快な声がギルドホールに響く。俺は一礼すると、単刀直入に切り出した。
「『混沌』について、調べてほしい」
「……混沌、とは?」
「ああ。原因不明の魔力の淀みや精霊の不活性化、そして、人々の感情の異常な増幅。俺たちはその現象をそう呼んでいる。この国で似たような不可解な現象が起きていないか、ギルドの力で調査してもらいたい」
俺の真剣な表情にドランは腕を組み、鋭い目でうなずいた。
「……奇妙な話だが、貴殿が言うからには、ただ事ではあるまい。承知した。前回の恩義もある。ギルドの全情報網を使い、調査を約束しよう」
その時だった。ギルドの扉が勢いよく開かれ、王宮の紋章をつけた使者が駆け込んできた。
「カイン様でいらっしゃいますか! 鍛冶王バルグラス様より伝言です!」
使者は俺たちの前で恭しく膝をつくと、王の言葉を告げた。
「『我が友、双冠の英雄の帰還を歓迎する。滞在の間、不自由があっては国の恥。よって、一行には住居を用意させた』とのことです」
王の迅速な対応に、ドランは「さすがは王」と満足げに笑った。
「カイン殿、我らの調査には数日を要するだろう。それまで、王のご厚意に甘えるといい」
俺たちは使者に案内され、ギルドからほど近い、職人たちが暮らす一画にある、立派な石造りの家へと通された。以前滞在した家よりも広く、手入れの行き届いた、まさに賓客をもてなすための住居だった。
「すごいねー! 前より豪華になってる!」
ルナがふかふかのベッドに飛び込み、楽しそうに跳ねる。
俺は窓の外に広がる壮大な地下都市の夜景を眺めていた。オレンジ色の炉の光が巨大な石柱や建物の影を浮かび上がらせている。
この街は俺を英雄として、そして友として迎えてくれた。その事実に胸の奥が温かくなるのを感じた。
調査の依頼は済んだ。だが、答えが見つかる保証はない。
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