50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第十章 混沌の呼び声

第178話 鍛冶師との再会、二対の牙

 ドワーフの都、グラムベルクに滞在してから数日が過ぎた。
 ギルドからの調査報告はまだなく、俺たちは王から提供された石造りの家で、静かな、しかしどこか張り詰めた日々を過ごしていた。

「……ただ待っているだけ、というのは性に合わないな」

 暖炉の火を見つめながら俺がつぶやくと、かたわらで黙々と剣の手入れをしていたレオナルドが、ふと顔を上げた。

「俺も同感だ。いざという時に、このままではお前の足手まといになりかねん」

 彼の視線は己が使い込んできた二振りの剣へと落ちる。エクリプスや獣魔族との戦いを経て、その刃には無数の傷が刻まれていた。

「よし、決めた」

 俺は立ち上がった。

「レオナルド、お前の武器を新調しに行こう。この街には最高の鍛冶師がいるからな」

 俺の言葉にレオナルドは少し驚いたように目を見開いたが、やがて静かにうなずいた。

 俺たち一行は見覚えのある路地裏へと向かった。鉄と油の匂いが漂う、あの工房だ。
 扉を開けると、カン、カン、と響く槌の音と共に炉の熱気が俺たちを迎えた。
 工房の主、グレンダ・ブレイズロックは相変わらずの真剣な表情で赤熱した鉄塊と向き合っていた。

「……なんだ、また来たのか。今度は何を頼むんだい?」

 俺たちの姿に気づいたグレンダは手を止めて悪態をつくように言ったが、その口元には歓迎の色が浮かんでいた。

「あんたの腕を見込んで、また頼みに来たんだ。こいつに最高の武器を作ってやってほしい」

 俺はレオナルドを前に押し出した。グレンダは彼の立ち姿、筋肉の付き方、そして二振りの剣を構えるその姿勢を、まるで値踏みするようにじっと見つめる。

「……なるほど。二刀使いか。バランスと速さが命だな。面白い、やってやろうじゃないか」

 依頼が決まると、グレンダはすぐにヴァルグリム鉱の塊を炉にくべた。

「カイン、また手伝ってもらうよ。前回と同じだ」

「ああ、任せろ」

 俺は再び、赤熱する鉱石と向き合った。そして、自らの内に意識を向ける。
 エルドレアの死と引き換えに宿った、あの冷たい闇の力。そして、沈黙を続けるカイラン。
 だが不思議と今は、あの力が暴走する気配はなかった。闇の力は俺の奥底で、ただ静かに息を潜めている。
 そのおかげで俺は純粋に自分自身の魔力と向き合うことができた。

「ウンディーヴァよ、清き流れを刃となし、このはがねを磨き上げよ」

 俺の詠唱に応え、水流がヴァルグリム鉱の表面を滑らかに削っていく。以前よりも魔力の制御は格段に安定していた。
 レオナルドは工房の隅で、ただ黙って俺たちの作業を見つめている。自らの新たな「牙」が生まれる瞬間をその目に焼き付けるように。

 ***

 数時間後。
 グレンダの手によって、二振りの完璧な短剣が完成した。
 カインたちのものと同じ、ヴァルグリム鉱から鍛え上げられた、互いに寸分違わぬ姿を持つ双子の刃。その刀身は月光を思わせる静かな輝きを放っていた。

「ほらよ。お前さんの牙だ。無駄にすんじゃないよ」

 グレンダが差し出した短剣をレオナルドはうやうやしく受け取った。
 彼は二振りの短剣を手に取ると、その場で軽く振るってみる。風を切る音が鋭く、そして静かに工房に響いた。その動きには一切のよどみがなかった。まるで、永い間連れ添った自身の体の一部であるかのように、その手にしっくりと馴染んでいる。

「……素晴らしい」

 レオナルドが感嘆の息と共に短くつぶやいた。彼の表情はいつも通り硬質だったが、その瞳の奥には新たな力を手に入れた戦士としての静かな喜びが燃えていた。
 彼は俺の方を向き、一度だけ力強くうなずいた。

「……恩に着る、カイン」

 その短い言葉だけで彼の感謝の想いは十分に伝わってきた。

「気にするな。これで、お前も言い訳はできないぞ。パーティーの前衛は任せたからな」

「……ああ。任せてくれ」

 こうして、俺たちのパーティの最後のピースが完璧に埋まった。
 レオナルドという揺るぎない『牙』を得て、俺たちは来るべき混沌との戦いに、より万全の態勢で臨むことができる。
 工房を出ると、グラムベルクの空は静かな夕暮れに染まっていた。
 あとはギルドからの報せを待つだけだ。
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