陰で魔王と畏怖されている英雄とお見合いしています

鳴哉

文字の大きさ
7 / 8

7

しおりを挟む


「え?」


 私の発した問いかけに返されたのは、イオネル殿下の呆気に取られた顔だった。
 想像していた質問ではなかったのだろう。それにしても、その表情には純粋な疑問符しか浮かんでおらず、嫌悪感だとかめんどくささとかは感じられず、少なくともホッとする。

「王族との縁談をいただけるような身分ではないことも、私自身や我が家に特に魅力もないことも承知しています。それでも、一度きりではなく、お見合いを続けてくださっているのは、イオ様が今後こういったお席を他の方と設ける練習のため、ということですか?」

 そもそもあまり多く話す方ではない殿下に、選択肢を示して端的にお答えいただけるよう、言葉を継ぐ。

「……それとも、私との結婚の可能性が少しはあると、自惚れても、よいのですか……?」

 口にしてみたら思っていた以上に恥ずかしい内容に、情け無い声になってしまい、赤面する。殿下の顔を見ているのも難しくなって机に目を落とした。食べかけのデザートが所在なげで、自分自身に重なる。


 短くはない沈黙に、イオネル殿下が答えたくないのだろうと分かる。
 そんなこと、本人を前にしてハッキリ言うのは心苦しいよね。


「すみません、詮無いことを申し上げました」
 私は顔を上げて、何とか笑顔を作って謝罪した。


 だけど、衝撃的な言葉を聞くことになる。


「お見合い?」
 心底不思議そうな顔をして、イオネル殿下は言った。


「私は、ダグラス殿に孫娘の食道楽に付き合ってやってくれ、と言われていたのだが」




 ……お じ い さ ま~~~っっ!!!
 嵌められた!
 まさか、お見合いだと思っていたのは、私だけだったなんてっ!!

 自分の顔が赤くなっているのか青くなっているのかわからない。恥ずかし過ぎて、今すぐ逃げ帰り、その勢いのまま祖父を殴り倒したい!


 もちろんそんなことはできる訳もなく、私は顔から火を吹きそうな羞恥に耐え、何とか改めて謝罪を試みようとして……息を止めた。


 向かいの席に座るイオネル殿下の顔も、見たことないくらい、それこそ火を吹きそうなくらい真っ赤だった。それを隠そうとしているのか、大きな手で口元を押さえているけれど、それでもそれはハッキリと見えてしまった。


「そうか、お見合いのつもりで会ってくれていたのか」

 そう言った殿下は微笑んでいた。
 初めて見るその優しい笑顔の想像もできなかった破壊力に、思考の術を奪われる。


「それは光栄だ。私も貴女がこの店の食事だけが目当てでないといいのに、と思っていた」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする

志熊みゅう
恋愛
 伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。  貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?  すれ違いから始まる逆転ラブコメ。

乙女ゲームに転生した悪役令嬢、断罪を避けるために王太子殿下から逃げ続けるも、王太子殿下はヒロインに目もくれず悪役令嬢を追いかける。結局断罪さ

みゅー
恋愛
乙女ゲーム内に転生していると気づいた悪役令嬢のジョゼフィーヌ。このままではどうやっても自分が断罪されてしまう立場だと知る。 それと同時に、それまで追いかけ続けた王太子殿下に対する気持ちが急速に冷めるのを感じ、王太子殿下を避けることにしたが、なぜか逆に王太子殿下から迫られることに。 それは王太子殿下が、自分をスケープゴートにしようとしているからなのだと思ったジョゼフィーヌは、焦って王太子殿下から逃げ出すが……

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜

アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。 そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。 とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。 主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────? 「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」 「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」 これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

処理中です...