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私、アンナマリー・ヒルデロッタは、ヒルデロッタ伯爵家の一人娘だ。
家柄も良く、容姿も(自分で言うのもあれだけれど)まあそれなりだと思うのだけれど、適齢期を過ぎても、まだ婚約者が決まらない。
これはもう、呪いの類だと思っている。
そう、溺愛という名の。
一番最初に婚約の話があったのは、私が10歳の頃。相手は8歳年上で、遠い親戚の子爵家の方だった。
少し歳は離れているけれど、とても優しく微笑みかけられ、心がとても温かくなったのを覚えている。
だけど、この婚約は成されなかった。
ちょうどこの頃に、我が家に不幸な出来事があって、この話はなかったことになってしまったのだ。
次に婚約の打診があったのは、家の中が落ち着いて、私が貴族の子女などが通う学院に通い出した一年目。
学院に通う前は、まだ早い、と全て父が門前払いしていたらしいのだけれど、学院に通う年齢にもなって、その断り文句は通用しない。
相手は、同じ学年の隣のクラスの伯爵家の御令息サトラー様。私は一人娘なので、ヒルデロッタ家に婿入りしてもらうことになるため、家を継ぐ予定のない三男の彼は条件的に良いご縁だと言えた。
話したことはなかったのだけれど、彼の方は私のことを見かけて、気にかけてくれていたそうだ。
まあ、父曰く、「マリーの容姿だけに惹かれるとは、浅慮が過ぎる」とのことだったのだけれど、私としては、見た目だけとしても好ましく思ってもらえたのは嬉しいし、婚約者として付き合っていく中で、お互いを知っていけたらいいのだと思っていた。
ただ、この婚約も成立しなかった。
私の見目は好みだったそうなのだけれど、性格は思っていたのと違ったらしい。
「どうして君は私をたてようとしてくれないのだ」
ことあるごとにそう言われた。
サトラー様は、男性に全てを委ね、何事をするにも彼の意見だけを尊重し、一歩後ろをついて行く、奥ゆかしい淑女であることを、私に求めていたらしい。
どうしたらよいのか途方に暮れて、父に相談したら、
「そんな男はマリーに相応しくない!」
と、縁談はなかったことになった。
まあ、婿入り予定なのだから、父が気に入らなければ、うまくはいかなかっただろう。
早めに父との相性が分かって良かった、と思うことにした。
その次、婚約のお申し出をいただいたのは、その翌年。一学年上の先輩で、侯爵家の次男のツェルク様。生徒会の役員をされている方で、学院の行事の係をした時にお知り合いになった。
とても優秀な成績を修めている方で、我が伯爵家に婿入りいただければ、とても有難いお話だった。なので、私も気合いを入れないといけないなと思ったのだけれど、父はあまりいい顔をしなかった。
すぐにお断りしないといけないような理由は見当たらない。訳を尋ねると、
「あそこの家は跡取り息子がなあ」
と渋る返事が返ってきた。
ツェルク様ではなく彼の兄のことだ。
侯爵家の跡を継ぐ予定の長兄とは、この婚約そして婚姻が成立すれば、親戚になる。それが気に入らないのだろうか。
やむを得ず返事を保留していたら、学院で噂を聞くことになった。
ツェルク様の兄が勘当されたらしい。
しばらくして、侯爵家から婚約の話はなかったことにして欲しい、と申し出があった。次男のツェルク様が侯爵家の後継となり、うちに婿入りできなくなったからだった。
ツェルク様は良い方だったので、ちょっと残念に思っていると、
「自分から申し込んできておいて、断る際には自ら来ないような、誠意のない男なんか話にならない」
と、父が憤慨していたのを聞いて、それもそうだな、と思った。
ツェルク様にとって、私は婿入り先としてちょうど良い相手だっただけなのだろう。
その次に、婚約を申し込んでくださったのは、同じく生徒会の役員をされていた伯爵家のニール様。華やかな容姿のとても女性人気の高い方なので、正直なところ驚いた。
「社交は得意なんだけど、領地経営には興味ないんだよね」
そう、ぶっちゃけてくれる辺り、誠実とも言える。つまり、お互い得意分野を担って、我が伯爵家を盛り立てていこうという意味なんだと、前向きに考えることにした。
「つまり、領主の仕事をマリーに丸投げして、自分は今まで通り女性たちに囲まれて楽しく生きていきたいと?」
氷点下の空気を吐き出しながら、父が挨拶に来たニール様を屋敷から叩き出した。父は前向きに捉えることができなかったようだ。
学院に入学してから3件の婚約のお申出をいただきながら、成立しなかった。
「マリーほど素晴らしい淑女はいない! だから、絶対良い婿が見つかる!」
父は全力で励ましてくれるけれど、手放しで褒めちぎってくれるのは父だけだ。思わず口から溢れそうになった台詞を何とか飲み込んだ。
家柄も良く、容姿も(自分で言うのもあれだけれど)まあそれなりだと思うのだけれど、適齢期を過ぎても、まだ婚約者が決まらない。
これはもう、呪いの類だと思っている。
そう、溺愛という名の。
一番最初に婚約の話があったのは、私が10歳の頃。相手は8歳年上で、遠い親戚の子爵家の方だった。
少し歳は離れているけれど、とても優しく微笑みかけられ、心がとても温かくなったのを覚えている。
だけど、この婚約は成されなかった。
ちょうどこの頃に、我が家に不幸な出来事があって、この話はなかったことになってしまったのだ。
次に婚約の打診があったのは、家の中が落ち着いて、私が貴族の子女などが通う学院に通い出した一年目。
学院に通う前は、まだ早い、と全て父が門前払いしていたらしいのだけれど、学院に通う年齢にもなって、その断り文句は通用しない。
相手は、同じ学年の隣のクラスの伯爵家の御令息サトラー様。私は一人娘なので、ヒルデロッタ家に婿入りしてもらうことになるため、家を継ぐ予定のない三男の彼は条件的に良いご縁だと言えた。
話したことはなかったのだけれど、彼の方は私のことを見かけて、気にかけてくれていたそうだ。
まあ、父曰く、「マリーの容姿だけに惹かれるとは、浅慮が過ぎる」とのことだったのだけれど、私としては、見た目だけとしても好ましく思ってもらえたのは嬉しいし、婚約者として付き合っていく中で、お互いを知っていけたらいいのだと思っていた。
ただ、この婚約も成立しなかった。
私の見目は好みだったそうなのだけれど、性格は思っていたのと違ったらしい。
「どうして君は私をたてようとしてくれないのだ」
ことあるごとにそう言われた。
サトラー様は、男性に全てを委ね、何事をするにも彼の意見だけを尊重し、一歩後ろをついて行く、奥ゆかしい淑女であることを、私に求めていたらしい。
どうしたらよいのか途方に暮れて、父に相談したら、
「そんな男はマリーに相応しくない!」
と、縁談はなかったことになった。
まあ、婿入り予定なのだから、父が気に入らなければ、うまくはいかなかっただろう。
早めに父との相性が分かって良かった、と思うことにした。
その次、婚約のお申し出をいただいたのは、その翌年。一学年上の先輩で、侯爵家の次男のツェルク様。生徒会の役員をされている方で、学院の行事の係をした時にお知り合いになった。
とても優秀な成績を修めている方で、我が伯爵家に婿入りいただければ、とても有難いお話だった。なので、私も気合いを入れないといけないなと思ったのだけれど、父はあまりいい顔をしなかった。
すぐにお断りしないといけないような理由は見当たらない。訳を尋ねると、
「あそこの家は跡取り息子がなあ」
と渋る返事が返ってきた。
ツェルク様ではなく彼の兄のことだ。
侯爵家の跡を継ぐ予定の長兄とは、この婚約そして婚姻が成立すれば、親戚になる。それが気に入らないのだろうか。
やむを得ず返事を保留していたら、学院で噂を聞くことになった。
ツェルク様の兄が勘当されたらしい。
しばらくして、侯爵家から婚約の話はなかったことにして欲しい、と申し出があった。次男のツェルク様が侯爵家の後継となり、うちに婿入りできなくなったからだった。
ツェルク様は良い方だったので、ちょっと残念に思っていると、
「自分から申し込んできておいて、断る際には自ら来ないような、誠意のない男なんか話にならない」
と、父が憤慨していたのを聞いて、それもそうだな、と思った。
ツェルク様にとって、私は婿入り先としてちょうど良い相手だっただけなのだろう。
その次に、婚約を申し込んでくださったのは、同じく生徒会の役員をされていた伯爵家のニール様。華やかな容姿のとても女性人気の高い方なので、正直なところ驚いた。
「社交は得意なんだけど、領地経営には興味ないんだよね」
そう、ぶっちゃけてくれる辺り、誠実とも言える。つまり、お互い得意分野を担って、我が伯爵家を盛り立てていこうという意味なんだと、前向きに考えることにした。
「つまり、領主の仕事をマリーに丸投げして、自分は今まで通り女性たちに囲まれて楽しく生きていきたいと?」
氷点下の空気を吐き出しながら、父が挨拶に来たニール様を屋敷から叩き出した。父は前向きに捉えることができなかったようだ。
学院に入学してから3件の婚約のお申出をいただきながら、成立しなかった。
「マリーほど素晴らしい淑女はいない! だから、絶対良い婿が見つかる!」
父は全力で励ましてくれるけれど、手放しで褒めちぎってくれるのは父だけだ。思わず口から溢れそうになった台詞を何とか飲み込んだ。
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