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sideユリウス
01.
しおりを挟む「ユリウス様、貴方もこれ以上、僕が幼馴染みだからといって世話を焼こうと、無理に話しかけてこないで下さい。もう僕に関わらないで。貴方に相応しい方とどうぞお幸せに」
──そう告げたイネスの表情と言葉が、朝からずっと離れない。胸は切り裂かれたかのように痛み、愛する人が自分の前から離れていこうとしている事実に、俺は打ちのめされていた。
ああ、なんてバカなことを言ったんだ俺は。完全にやらかした。
最近、赤茶髪の男がイネスの隣にいるのが目について、気に食わない。今朝も楽しそうに笑い合って登校している姿に、どうしようもなく苛立つ。
俺よりあんな奴と一緒にいるのが楽しいのか? ……まさか、付き合ってないよな?
気付けば嫉妬に任せて、イネスの友人を見下すような言葉を吐いていた。
思えば、五年前にイネスが俺から距離を置いた時点で、素直に謝っていれば良かったのだ。
イネスが店員に勧められて買ったという香水をつけていた、あの日。初めて、俺の自信が揺らいだ。
流行りものに乗るのは構わないが、癒し系であるイネスの雰囲気を損なうような、下品な匂いを選んだのは何故だ。前に俺が選んだ匂い袋の方は、イネスに合っていただろ。その時は遠慮して買わなかった癖に、どうして?
悔しさに耐えきれず舌打ちが出てしまった。ふて腐れて「暫く、イネスとは話したくないかも」などと、突き放すような言葉も吐いて。ショックを受けて泣きそうなイネスに背を向け、謝りにくるのを待ち続けた。
本当に俺が好きなら、好きだと言葉に出して、追いかけてきて欲しい。イネスを試すようだが、そのために『暫く』と言ったのに……あれ以来、イネスは俺と距離を置くようになってしまった。目を、合わすこともなく。時折、俺から絡む以外は、言葉を交わすこともなくなった。
それでも、心のどこかで高を括っていた。どうせ卒業したら、俺と結婚するんだ。小さい頃に交わした『約束』という名の契約があるんだから。イネスは必ず俺の元に戻ってくる、と。
母には「後悔する前に素直になれ。ロミオ化すんなよ」と笑いながら忠告されていたのに。俺はそれが煩わしくて、聞き流してしまっていた。
そしてついに、イネスにハッキリと告げられる。俺のことなんかもう好きじゃない、話しかけられるのも迷惑だと。更には、俺ではない別の恋人を作ろうとしていることを。
イネスが他の男に笑いかけ、付き合い、体の隅々まで触れられる?
ふざけるな。そんな未来、許せる筈がないだろ。想像するだけで吐き気が込み上げてくる。嫉妬で頭がおかしくなりそうだ!
そんなことを考えていた所為だろうか。
模擬戦で相手の放った魔法が、目前に迫っていた。咄嗟に防御したものの、受けた魔力との相性が悪く、魔力の余波をまともに浴びて視界が揺らぐ。
くそっ……よりによって、授業中でやらかすなんて、ダサすぎる。
別にしたくもないのに、俺を見て母が爆笑する姿を思い浮かべてしまい、余計に気分が沈んだ。情けなくて、死にたくなってくる。
すぐに起き上がる気力もなく、地面に転がりながら自分の不甲斐なさを噛み締めていると──。
「ユーリ!」
かつてのように、あだ名を叫んでイネスが駆け寄ってくる。心配そうに俺の手を握ってくるその姿に、胸が高鳴った。
ああ、まだ完全に切り捨てられた訳じゃないんだな。なら、希望はある。
この機会を逃せば、二度とイネスを取り戻せないだろう。だから、決めた。俺はこの状況を利用してやる、と。
「いーちゃん」
懐かしい愛称を口にすれば、イネスは驚きに目を見開いた。
「あいつら誰だ? ここも知らないとこだし、落ち着かない。早く家に帰ろう」
あざとく、弱々しく、昔の俺を装う。
格好悪くても構わない。イネスの離れた心を取り戻すために、記憶喪失のフリをしてでも繋ぎ止める。
優しくて、押しに弱いイネスなら、きっと流されてくれる筈だ。
今度は優しく、甘く、そして強引に。二度と離れられないよう、徹底的に君を愛そう。
【離れていく恋人を繋ぎ止めようと、記憶喪失のフリをした/01】
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