僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎

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sideユリウス

02.

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 詳しく状況を確認するため、医務室に通された。
 久しぶりにイネスへ触れて、抱き締めることが出来たのに。まぁ、うまく誤魔化してしまえば、後はゆっくり二人っきりになれるだろう。少しの我慢だ。
 そんなことを思いながら、勧められた椅子に大人しく腰を下ろす。

「さて……」

 先生が姿勢を正し、膝の上で手を組む。

「勘違いならすみませんが……ユリウスくん。実は君、記憶を失っていないのではないですか?」
「……やはり、気付いていましたか」
「ええ。頭部に異常はないか診断した所、脳の反応も正常でしたからね」

 流石は元王立病院の癒し手だ。そこまで手早く確認していたとは。

「何故、周囲を巻き込んでまで、そのような嘘をついたのか……理由を聞いても?」

 柔らかな口調は変わらないが、その目は探るように俺を見ている。
 俺は息を吐き、わざと視線を落とした。

「イネスと、仲直りがしたかったからです」

 短くそう言い切れば、先生の眉が困ったように下がる。分かりやすく瞬きの回数が増え、動揺しているのが見て取れた。

「それは……素直に謝れば済む話では? 私が言うのもなんですが、イネスくんならきっと受け入れてくれると思いますよ。元々、君たちはとても仲が良かったでしょう?」
「いえ、ダメなんです。謝っても許される段階は既に過ぎていて……今は、仲直りの糸口さえ見つからない状態なんです」

 そこで少し間を置き、わざと声を落とす。

「……それでも、俺はイネスと元の関係に戻りたい」
「ユリウスくん……」
「先生にとっては『そんなこと』かもしれませんが。俺にとっては大事なことなんです」

 だから邪魔をされると困る。部外者は口を出すな。

「お願いします。イネスと仲直りするまでで構いません。俺が『記憶喪失のフリ』をすること、黙認してください」

 深く頭を下げれば、室内に重苦しい沈黙が落ちた。
 額に手を当て、先生は諦めたように深く溜め息を吐く。

「……分かりました。イネスくんを含め、必要以上に周囲を困らせないと約束するなら、私は口を挟まないことにしましょう」
「それで十分です」

 顔を上げながら、心の中で冷笑する。
 この人は、甘いな。嘘だと分かっていても、相手の意図を確認しようと、話し合いの場を設けようとする。だから、俺みたいな人間に丸め込まれるんだ。やりやすくて、こちらは助かるが。

「生徒に寄り添うのも、校医の役目ですから」
「ありがとうございます。助かります」

 これで、この先余計な邪魔が入ることはないだろう。あとは、他の誰にも俺が記憶喪失を装っていることを悟られないよう、徹底しなければ。

「ですが、下手したら嘘をついていたことで、余計に関係が拗れてしまうかもしれませんよ。具体的にはどうするつもりなんですか?」
「そうですね……暫くはイネスの側にいるつもりです。寮も同室にしてもらわないと」
「えっ……? それは、本当に仲直りするために必要なことなんですか?」

 答えは返さなかった。というのも、ちょうどその時、廊下が騒がしくなったからだ。

「……あれは、ルベルくんとイネスくんの声? 少し様子を見てきます。ユリウスくんは待っていてください」

 扉を開けて、先生が注意をし始める。だが、廊下から聞こえてきた会話に、段々と腹が立ってきた。俺の記憶喪失の件で、イネスが馬鹿げた濡れ衣を着せられている。何がイネスの所為だ。モブ共が、調子に乗るなよ。

 立ち上がり、医務室を出る。イネスの元へ歩み寄り笑いかけると、イネスは戸惑ったような顔をしていた。
 ……まずは呼び方と口調から直させないと。

 だが、イネスと話している所に、ピンク頭が鬱陶しく割り込んでくる。仲が良いなどと妄言を吐き、すり寄ろうとしてきた。邪魔な奴だ。ああいう輩は、最初に釘を刺しておくに限る。

 拒絶すると黙ったそいつを視界から消し、俺はイネスを自分の部屋まで連れ込むことに成功した。


 膝の上で抱き締め、五年ぶりにするまともな会話を楽しむ。柔らかな頬にキスもしたし、手からチョコを食べさせてやった。戸惑いながらも恥ずかしそうに頬を染め、美味しさに顔を綻ばせるのが可愛い。彼シャツ姿の良さも、改めて確認できた。ちらりと覗く鎖骨や細く白い足が扇情的で、ぞくりとする。……最高だな。

 楽しい気分でいられたのも、あのピンク頭が伴侶候補だと、イネスに誤解されていることを知る迄だった。
 本当はもう少しゆっくり進めていくつもりだったが、イネスに告白して無理矢理キスをする。お似合いだなんてバカなことを言うお前が悪いんだぞ。

 罰として、息継ぎの仕方も知らないイネスが、気を失うまで唇を貪ってやった。


 そして、眠るイネスを残し、俺は寮の管理人の元へ向かう。まだ一日も経っていないのに、俺が記憶喪失になったという噂はすでに学園中に広まっているそうだ。ならば話は早い。
 お願いすれば、すぐにイネスと同室の許可をもぎ取れた。代わりに、何故かサインを求められたが。

 チート級に魔術が使えるといっても、俺はまだただの学生で、平民にすぎない。
 普通の男、ユリウスとして接してくれるのは、やはりイネスだけだな。

 寝息を立てる愛しいイネスの顔を眺めながら、俺はどう囲い込んでいこうかと思いを馳せた。

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