25 / 28
sideユリウス
02.
しおりを挟む
詳しく状況を確認するため、医務室に通された。
久しぶりにイネスへ触れて、抱き締めることが出来たのに。まぁ、うまく誤魔化してしまえば、後はゆっくり二人っきりになれるだろう。少しの我慢だ。
そんなことを思いながら、勧められた椅子に大人しく腰を下ろす。
「さて……」
先生が姿勢を正し、膝の上で手を組む。
「勘違いならすみませんが……ユリウスくん。実は君、記憶を失っていないのではないですか?」
「……やはり、気付いていましたか」
「ええ。頭部に異常はないか診断した所、脳の反応も正常でしたからね」
流石は元王立病院の癒し手だ。そこまで手早く確認していたとは。
「何故、周囲を巻き込んでまで、そのような嘘をついたのか……理由を聞いても?」
柔らかな口調は変わらないが、その目は探るように俺を見ている。
俺は息を吐き、わざと視線を落とした。
「イネスと、仲直りがしたかったからです」
短くそう言い切れば、先生の眉が困ったように下がる。分かりやすく瞬きの回数が増え、動揺しているのが見て取れた。
「それは……素直に謝れば済む話では? 私が言うのもなんですが、イネスくんならきっと受け入れてくれると思いますよ。元々、君たちはとても仲が良かったでしょう?」
「いえ、ダメなんです。謝っても許される段階は既に過ぎていて……今は、仲直りの糸口さえ見つからない状態なんです」
そこで少し間を置き、わざと声を落とす。
「……それでも、俺はイネスと元の関係に戻りたい」
「ユリウスくん……」
「先生にとっては『そんなこと』かもしれませんが。俺にとっては大事なことなんです」
だから邪魔をされると困る。部外者は口を出すな。
「お願いします。イネスと仲直りするまでで構いません。俺が『記憶喪失のフリ』をすること、黙認してください」
深く頭を下げれば、室内に重苦しい沈黙が落ちた。
額に手を当て、先生は諦めたように深く溜め息を吐く。
「……分かりました。イネスくんを含め、必要以上に周囲を困らせないと約束するなら、私は口を挟まないことにしましょう」
「それで十分です」
顔を上げながら、心の中で冷笑する。
この人は、甘いな。嘘だと分かっていても、相手の意図を確認しようと、話し合いの場を設けようとする。だから、俺みたいな人間に丸め込まれるんだ。やりやすくて、こちらは助かるが。
「生徒に寄り添うのも、校医の役目ですから」
「ありがとうございます。助かります」
これで、この先余計な邪魔が入ることはないだろう。あとは、他の誰にも俺が記憶喪失を装っていることを悟られないよう、徹底しなければ。
「ですが、下手したら嘘をついていたことで、余計に関係が拗れてしまうかもしれませんよ。具体的にはどうするつもりなんですか?」
「そうですね……暫くはイネスの側にいるつもりです。寮も同室にしてもらわないと」
「えっ……? それは、本当に仲直りするために必要なことなんですか?」
答えは返さなかった。というのも、ちょうどその時、廊下が騒がしくなったからだ。
「……あれは、ルベルくんとイネスくんの声? 少し様子を見てきます。ユリウスくんは待っていてください」
扉を開けて、先生が注意をし始める。だが、廊下から聞こえてきた会話に、段々と腹が立ってきた。俺の記憶喪失の件で、イネスが馬鹿げた濡れ衣を着せられている。何がイネスの所為だ。モブ共が、調子に乗るなよ。
立ち上がり、医務室を出る。イネスの元へ歩み寄り笑いかけると、イネスは戸惑ったような顔をしていた。
……まずは呼び方と口調から直させないと。
だが、イネスと話している所に、ピンク頭が鬱陶しく割り込んでくる。仲が良いなどと妄言を吐き、すり寄ろうとしてきた。邪魔な奴だ。ああいう輩は、最初に釘を刺しておくに限る。
拒絶すると黙ったそいつを視界から消し、俺はイネスを自分の部屋まで連れ込むことに成功した。
膝の上で抱き締め、五年ぶりにするまともな会話を楽しむ。柔らかな頬にキスもしたし、手からチョコを食べさせてやった。戸惑いながらも恥ずかしそうに頬を染め、美味しさに顔を綻ばせるのが可愛い。彼シャツ姿の良さも、改めて確認できた。ちらりと覗く鎖骨や細く白い足が扇情的で、ぞくりとする。……最高だな。
楽しい気分でいられたのも、あのピンク頭が伴侶候補だと、イネスに誤解されていることを知る迄だった。
本当はもう少しゆっくり進めていくつもりだったが、イネスに告白して無理矢理キスをする。お似合いだなんてバカなことを言うお前が悪いんだぞ。
罰として、息継ぎの仕方も知らないイネスが、気を失うまで唇を貪ってやった。
そして、眠るイネスを残し、俺は寮の管理人の元へ向かう。まだ一日も経っていないのに、俺が記憶喪失になったという噂はすでに学園中に広まっているそうだ。ならば話は早い。
お願いすれば、すぐにイネスと同室の許可をもぎ取れた。代わりに、何故かサインを求められたが。
チート級に魔術が使えるといっても、俺はまだただの学生で、平民にすぎない。
普通の男、ユリウスとして接してくれるのは、やはりイネスだけだな。
寝息を立てる愛しいイネスの顔を眺めながら、俺はどう囲い込んでいこうかと思いを馳せた。
久しぶりにイネスへ触れて、抱き締めることが出来たのに。まぁ、うまく誤魔化してしまえば、後はゆっくり二人っきりになれるだろう。少しの我慢だ。
そんなことを思いながら、勧められた椅子に大人しく腰を下ろす。
「さて……」
先生が姿勢を正し、膝の上で手を組む。
「勘違いならすみませんが……ユリウスくん。実は君、記憶を失っていないのではないですか?」
「……やはり、気付いていましたか」
「ええ。頭部に異常はないか診断した所、脳の反応も正常でしたからね」
流石は元王立病院の癒し手だ。そこまで手早く確認していたとは。
「何故、周囲を巻き込んでまで、そのような嘘をついたのか……理由を聞いても?」
柔らかな口調は変わらないが、その目は探るように俺を見ている。
俺は息を吐き、わざと視線を落とした。
「イネスと、仲直りがしたかったからです」
短くそう言い切れば、先生の眉が困ったように下がる。分かりやすく瞬きの回数が増え、動揺しているのが見て取れた。
「それは……素直に謝れば済む話では? 私が言うのもなんですが、イネスくんならきっと受け入れてくれると思いますよ。元々、君たちはとても仲が良かったでしょう?」
「いえ、ダメなんです。謝っても許される段階は既に過ぎていて……今は、仲直りの糸口さえ見つからない状態なんです」
そこで少し間を置き、わざと声を落とす。
「……それでも、俺はイネスと元の関係に戻りたい」
「ユリウスくん……」
「先生にとっては『そんなこと』かもしれませんが。俺にとっては大事なことなんです」
だから邪魔をされると困る。部外者は口を出すな。
「お願いします。イネスと仲直りするまでで構いません。俺が『記憶喪失のフリ』をすること、黙認してください」
深く頭を下げれば、室内に重苦しい沈黙が落ちた。
額に手を当て、先生は諦めたように深く溜め息を吐く。
「……分かりました。イネスくんを含め、必要以上に周囲を困らせないと約束するなら、私は口を挟まないことにしましょう」
「それで十分です」
顔を上げながら、心の中で冷笑する。
この人は、甘いな。嘘だと分かっていても、相手の意図を確認しようと、話し合いの場を設けようとする。だから、俺みたいな人間に丸め込まれるんだ。やりやすくて、こちらは助かるが。
「生徒に寄り添うのも、校医の役目ですから」
「ありがとうございます。助かります」
これで、この先余計な邪魔が入ることはないだろう。あとは、他の誰にも俺が記憶喪失を装っていることを悟られないよう、徹底しなければ。
「ですが、下手したら嘘をついていたことで、余計に関係が拗れてしまうかもしれませんよ。具体的にはどうするつもりなんですか?」
「そうですね……暫くはイネスの側にいるつもりです。寮も同室にしてもらわないと」
「えっ……? それは、本当に仲直りするために必要なことなんですか?」
答えは返さなかった。というのも、ちょうどその時、廊下が騒がしくなったからだ。
「……あれは、ルベルくんとイネスくんの声? 少し様子を見てきます。ユリウスくんは待っていてください」
扉を開けて、先生が注意をし始める。だが、廊下から聞こえてきた会話に、段々と腹が立ってきた。俺の記憶喪失の件で、イネスが馬鹿げた濡れ衣を着せられている。何がイネスの所為だ。モブ共が、調子に乗るなよ。
立ち上がり、医務室を出る。イネスの元へ歩み寄り笑いかけると、イネスは戸惑ったような顔をしていた。
……まずは呼び方と口調から直させないと。
だが、イネスと話している所に、ピンク頭が鬱陶しく割り込んでくる。仲が良いなどと妄言を吐き、すり寄ろうとしてきた。邪魔な奴だ。ああいう輩は、最初に釘を刺しておくに限る。
拒絶すると黙ったそいつを視界から消し、俺はイネスを自分の部屋まで連れ込むことに成功した。
膝の上で抱き締め、五年ぶりにするまともな会話を楽しむ。柔らかな頬にキスもしたし、手からチョコを食べさせてやった。戸惑いながらも恥ずかしそうに頬を染め、美味しさに顔を綻ばせるのが可愛い。彼シャツ姿の良さも、改めて確認できた。ちらりと覗く鎖骨や細く白い足が扇情的で、ぞくりとする。……最高だな。
楽しい気分でいられたのも、あのピンク頭が伴侶候補だと、イネスに誤解されていることを知る迄だった。
本当はもう少しゆっくり進めていくつもりだったが、イネスに告白して無理矢理キスをする。お似合いだなんてバカなことを言うお前が悪いんだぞ。
罰として、息継ぎの仕方も知らないイネスが、気を失うまで唇を貪ってやった。
そして、眠るイネスを残し、俺は寮の管理人の元へ向かう。まだ一日も経っていないのに、俺が記憶喪失になったという噂はすでに学園中に広まっているそうだ。ならば話は早い。
お願いすれば、すぐにイネスと同室の許可をもぎ取れた。代わりに、何故かサインを求められたが。
チート級に魔術が使えるといっても、俺はまだただの学生で、平民にすぎない。
普通の男、ユリウスとして接してくれるのは、やはりイネスだけだな。
寝息を立てる愛しいイネスの顔を眺めながら、俺はどう囲い込んでいこうかと思いを馳せた。
223
あなたにおすすめの小説
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました
ミヅハ
BL
1年前、困っていたところを助けてくれた人に一目惚れした陽依(ひより)は、アタックの甲斐あって恩人―斗希(とき)と付き合える事に。
だけど変わらず片思いであり、ただ〝恋人〟という肩書きがあるだけの関係を最初は受け入れていた陽依だったが、1年経っても変わらない事にそろそろ先を考えるべきかと思い悩む。
その矢先にとある光景を目撃した陽依は、このまま付き合っていくべきではないと覚悟を決めて別れとも取れるメッセージを送ったのだが、斗希が訪れ⋯。
イケメンクールな年下溺愛攻×健気な年上受
※印は性的描写あり
才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる