僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎

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 カーテンの隙間から差し込む朝の光で、目を覚ます。重い目蓋を擦りながら隣を見ると、ユーリが穏やかな寝息を立てて眠っていた。抱き締められていた腕からそっと抜け出し、頬にかかった髪を指先で耳にかけてやる。癖のない銀色の髪が朝日に照らされ、キラキラと輝く姿は、相変わらず美しい。

 暫くユーリの寝顔を眺めていたが、不意に昨夜の出来事を思い出し、僕は顔を赤らめる。
 ……ついに、最後までえっちしちゃったんだ。

 記憶喪失になっていたユーリがやっと記憶を取り戻し、誤解も解けて、互いに気持ちを確かめ合えた。優しく抱き締められ、何度も口づけを交わし、初めてを彼に捧げて。とても幸せな初体験だったなぁ。
 恥ずかしいけれど、思い出すだけで思わず頬が緩んでしまう。

 鍛えられた胸板に額を擦り付け、ふふっと笑う。すると、ユーリの腕がぎゅっと僕を抱き寄せた。

「おはよう、ユーリ」

 僕が挨拶をすると、寝たフリをしていたユーリの片目が開かれる。

「…………おはよ、イネス」

 掠れた声でそう返すと、ユーリは僕をさらに胸元へ引き寄せてきた。どうやら、まだ離してくれるつもりはないらしい。僕も体が気怠くて起き上がる気にはなれなかったから、大人しくその腕の中に収まる。

「ねぇ、ユーリ」
「なんだ?」
「体、キレイにしてパジャマ着せてくれたんだね。ありがとう」
「当然だろ。後処理は俺がするって言ったじゃないか。それより……体は辛くないか?」

 腰に回された大きな手が、労るようにゆっくり撫でる。その感触に、昨日の快楽が蘇ってきて、顔が熱くなった。一人だけ朝からそんな気分になりかけたのが気まずくて、慌てて胸元に顔を埋めて隠すと、ユーリにくすりと笑われてしまう。

「……ちょっと体の節々が痛むけれど、大丈夫」
「筋肉痛か。起きたらマッサージしてあげる。それと、疲労回復に効く魔法薬も作るから飲んでくれ。今日は休みだから、ゆっくり過ごそうな」
「うん? 今日は授業があった筈じゃ……」
「あんな事があったばかりだし、大事を取って休みを申請しておいた。勿論、俺も一緒に」
「……そうなんだ。ありがとう」

 もしかして、それもあって昨夜しようと誘ってきたのかな?
 少し強引で優しくない所もあったけれど、男たちに触れられた記憶をユーリが全部上書きしてくれた。嫌悪も恐怖感を抱くことなく、ただ与えられた快楽に身を委ねられたのは、ユーリが僕を愛してくれているからだ。
 ……昨夜の余韻で、まだ身体が敏感なのは困りものだけれど。

「イネス? 何を考えているんだ?」
「ん……? 僕の体、ユーリに染められて……えっちな身体にされちゃったなって思って」
「っ!?」
「だから責任取って、ちゃんと傍にいてね」

 意地悪っぽく笑いかけると、ユーリが固まって笑顔を消した。

「あ、あれ……? ごめん、浮かれて調子に乗っちゃったかも。えっと、ユーリが僕に飽きる迄で良いんだけれど……ダメ?」
「……飽きる訳がない。俺は二度とイネスを離さないと言っただろ?」
「あ……うん。確かに……言われた、かも」

 次の瞬間、ユーリは勢いよく上体を起こした。少し体は痛んだが僕もつられるように身を起こすと、左手を取られ、真剣な眼差しで見つめられる。

「イネス、改めて言うが……俺と結婚してくれ。死ぬまでずっと、俺の傍にいて欲しいんだ。勿論、イネスが願っていた通り、卒業までは恋人としての時間を大切にするつもりだが、卒業したらすぐに手続きをしたいと思っている」
「……あ……その、えっと……」
「もう二度と悲しませない。絶対に幸せにすると約束するから……頷いてくれると嬉しい」

 夢、かな? 昨日に続いて、こんなに嬉しいことが起きるなんて。確かに小さい頃に結婚の約束をしていたし、ユーリが記憶を失っていた時も、僕と早く結婚したいと呟いていたけれども。

「……もしかして、嫌なのか? 小さい頃、約束もしていたのに……いーちゃんの嘘つき」

 眉尻を下げ、切なげな表情を浮かべたユーリに、胸がぎゅっと締め付けられる。違うのだと伝えたくて、慌てて首を横に振った。

「嫌じゃないよ! すごく嬉しい。ただ、ビックリしすぎて固まっちゃった……」
「……それなら、良かった」
「でも、本当に僕なんかでいいの? 平凡だし、頭もそんなに良くないし、魔力も少ししかなくて……ユーリとは不釣り合いだよ」
「あぁ、それでも俺はイネスがいい。優しくて、少し空回っちゃうけど頑張り屋で、ちょっと頑固な所も含めて。小さい頃からそんな所が可愛くて、好きだったんだよ。俺の目に映るのは、ずっとイネスだけ。イネスだけが特別なんだ」
「ユーリ……」

 そこまで、僕の事を……。
 胸に熱いものが込み上げて、じわりと視界が滲む。嬉しくて堪らない。僕も、ユーリが好き。大好きだよ。

「僕で良かったら……よ、宜しくお願いします」
「ありがとう、イネス! 幸せにすると誓う」

 そう言って、ユーリは僕の左薬指に軽く口づけを落とした。唇が離れると、そこには銀色に光る指輪がはまっていた。中央には青緑色のキラキラした宝石が嵌め込まれている。ユーリの瞳と同じ色だ。

「わ……キレイ……」
「結婚する証として、作ってみた。宝石部分は魔法石で、俺の魔力を込めてある。もしもの時は使ってくれ」
「ユーリが手作りしたの……? すごい、そんなことまで出来るんだね」
「親が彫金師と懇意にしていて、その時に少し教わった」
「そうなんだ。……ありがとう、本当に嬉しい。一生、大切にするね。あっ、勿論ネックレスも!」
「あぁ。イネス、俺にもこれを付けてくれないか?」

 差し出された小さなケースには、同じく銀色の指輪が収められていた。
 僕はユーリに従って、彼の左手をそっと取り、薬指に指輪をはめてから口づける。すると、石がほわりと光って、透明感のあるチョコレート色に変化した。

「……僕が貰った物と、色が違う?」
「イネスの魔力に反応して変わったんだよ。……うん、見慣れた好きな色だ」

 嬉しそうに微笑みながら指輪を見つめるユーリの姿に、僕も嬉しくて、幸せでいっぱいになる。ほわほわとした気分に浸りながら、お揃いの指輪を眺めていた所為か、ユーリの呟きにすぐ反応出来なかった。

「…………済んで、良かった」
「え……? ごめん、なんて言ったの?」
「いや、記憶喪失になって良かったな、と思って」
「あっ、確かに……。ユーリが記憶を失わなかったら、二度と話し合うことも無かっただろうしね」
「……まぁ、そういう事だ」

 思わず笑ってしまう僕に、ユーリはバツが悪そうな顔をして溜め息を吐いた。

「お父さんとお母さん、驚くだろうなぁ。僕とユーリと疎遠になっていたのは、送っていた手紙でなんとなく気付いていただろうし。急に結婚なんて……どこから話そう」
「イネスのご両親へは、もう連絡済みだ」
「…………え? いつ?」
「昨日の夜に『イネスをください』と。正式な挨拶は次の連休にすると伝えたら、とても喜んでいたぞ」
「……え、ちょ、ちょっと待って! 昨日の今日で……早くない? 僕がユーリとの結婚を断っていたら、どうするつもりだったの?」
「その時は……イネスを汚してしまった責任を取らせてくださいと謝罪に行ったかな」
「それって……どっちにしろ、僕を離す気はなかったんだね」
「当たり前だ」

 呆れて肩を落とす僕を、ユーリは膝の上に抱き寄せて、ぎゅっと抱き締める。じとりと睨んでも全く堪えた様子はなく、僕は観念して溜め息を吐いた。

「もう……今度からそういう大事な話は、先に僕へしてよね」
「あぁ、約束する」
「あと、ユーリのお母さんとお父さん達にも挨拶しに行かなきゃ」
「……それは、手紙だけで良くないか?」
「何言ってるの。ダメに決まってるでしょ」
「…………バカみたいなテンションで、色々と変なことを吹き込んでくるかもしれないが、全部無視してくれ」

 げんなりとした顔に、つい笑ってしまう。ユーリがお母さんに振り回される姿、想像出来ちゃうかも。

「そんなことよりも……そろそろお腹が空いただろ? パンケーキでも作ろうか?」
「え? うん、食べたい」

 誤魔化すように食事の話へ切り替えたけれど、ちょうどお腹が空き始めていたので、僕は素直に頷いた。
 ホッとしたように立ち上がろうとするユーリを、思わず引き止める。

「ね、ユーリ」
「ん?」

 改めて、ユーリが記憶喪失になってから色々なことがあったけれど、こうして結ばれる事ができて本当に良かった。ずっと好きだったユーリと、これからも一緒にいられることが嬉しくて。溢れる想いを伝えるため、ユーリの頬っぺたにキスをした。

「愛してる」

 そう伝えると、ユーリは一瞬だけ目を見開き、すぐに蕩けるような笑顔を浮かべて僕を見返す。

「あぁ、俺も愛してる」

 そして、僕たちは微笑み合い、触れるだけの口づけを交わした。



end.

感想 7

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