僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎

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 パチリと瞬きをすると、僕は既にベッドの上に寝転んでユーリを見上げていた。
 お仕置きをすると言っていた割に、こちらを見下ろすユーリの表情は不機嫌とは真逆で、どこか楽しそうだ。

 薄暗い夕方の光が窓から差し込み、彼の銀髪に反射している。瞳もキレイだけれど、受ける光によって雰囲気が様変わりする髪も好きだなぁ。思わず見とれてしまう。

 長い指が僕のネクタイを解き、制服のベストやシャツのボタンを一つ一つゆっくりと外していく。胸元がはだけ、ベルトを外された所で漸くお仕置きの内容に思い至り、ズボンに手をかけようとするユーリへと慌てて声をかけた。

「ま、待って!」
「うん?」
「お仕置きってもしかして……えっちな方の意味でしょうか?」

 思わず敬語になってしまった僕に、ユーリは何も答えずに微笑む。多分、笑顔で肯定したのだと思う。
 ユーリの動きが止まったのはその一瞬だけだった。僕が着ていた服はぽいぽいとベッドの下へと落とされ、あっという間に一糸まとわぬ姿になってしまった。
 夕方とは云えまだ部屋は明るく、僕の貧相な身体がよく見えることだろう。こんなにじっくりと裸を眺められるのは初めてで、すごく恥ずかしい。そっと前を手で隠して、ユーリの視線から逃れるように顔を横へと反らした。

「あの、その……カーテンを閉めてくれたりは……」
「しない」
「うぅっ……」
「それと、顔や身体を隠すのもダメだ」
「あっ」

 言われるが早いか、シュルッと布の擦れる音がした。瞬間、僕の両腕が勝手に頭上へと持ち上がり、ネクタイが巻き付いて動かなくなってしまう。どうやら魔法で拘束されてしまったようだ。力を入れてもビクともしない。
 それならばせめて脚で隠そうと身動ぎをするも、両脚を開かれてその間にユーリの体が入り込んできたので失敗してしまった。

「ひ……酷い……」
「お仕置きだからな」
「それなんだけど……あのね、さっきも言ったけれどベンのことは誤解だよ。彼とは友達で恋愛感情はお互いにないから、僕は浮気をしてなくて……だから、その……」
「ダメだろイネス、ベッドで他の男の名を呼ぶのはマナー違反だ。覚えておけ」
「えぇっ」
「お仕置きを追加しないといけないようだな」
「そんなのずるいよ……」

 弁明するためにベンの名前を出したのは、どうやら悪手だったみたい。
 そんなの理不尽じゃないか。
 でもユーリは僕の抗議の言葉に、耳を傾ける気はないようだ。浮気なんてしていないのに、どうすれば信じてもらえるんだろう?
 よほど情けない顔をしていたのか、ユーリは苦笑しながら僕の頭を撫でてくれる。

「心配するな、イネスが本当に浮気したとは思ってない」
「……本当?」
「あぁ。ただ、お前が恋人である俺以外の男に好きだなんて言うから……少し意地悪をしたくなった」
「えっと……それでお仕置きをしようと?」
「我ながら心が狭いとは思うが、イネスには俺だけを見て、俺だけを愛して欲しい。お前の初めてを全て俺のものにしたいんだ。腹立たしいことに『好き』という言葉はあの男に盗られてしまったが、これ以上は他の誰にも渡したくない。だから今は恋人の俺だけが、お前の裸を見て触れられる優越感に浸らせてくれ」
「え、あ……」

 その瞬間、胸の中に何かが込み上げてきた。
 裸ならば寮にある共同のシャワールームでベンに限らず色々な生徒に見られたことがあるけれど、こんな面白みもない僕の体なんかに欲を感じてくれるのはきっと今のユーリだけだろう。
 思っていた以上に自分が求められていることを知り、嬉しさと恥ずかしさが交錯する。

「あんまり体には自信がないし恥ずかしいけれど……それでユーリの気が晴れるなら、いいよ?」

 少し声が震えたけれど、素直な気持ちを告げる。彼のために、自分が出来ることをしてあげたいと心から思ったから。

「……煽るのはやめろ、うっかり抱き潰してしまいたくなる」
「んん?」

 耐えるように眉を寄せたユーリに困惑する。
 煽るってなに? 僕はただ彼がやりたがっているお仕置きに同意しただけなんだけれど……。

「あっ、お仕置きでもセックスするのはダメだからね。約束した通り、ユーリの記憶がちゃんと戻って両想い同士になってからだよ」
「あぁ、分かっている。お仕置きはイネスを見て触って……俺のだってマーキングするだけだ」
「ん? なんか三つない?」
「見て触るのはセットで良いだろ?」
「それは……ちょっとズルいかも」
「いーちゃんが知らないだけで俺は昔からズルいんだよ」
「あっ」

 ユーリは口元に楽しげな笑みを浮かべると自分のネクタイを外して、僕に覆い被さった。ボタンを外していき、はだけたシャツから彼の胸元が露になると、何故か胸がドキドキしてくる。裸の上半身なんて、毎朝ベッドで見ているのに、どうしてだろう。

 直視出来なくなって顔を反らすと、上からふっという笑い声が聞こえた。そしてそのままにユーリは僕の首元へ顔を埋めてくる。さらりとした銀色の髪が肌に落ちてきて、くすぐったい。
 首筋にちゅっとキスをされたと思ったら、先程のようにちりっとした痛みが一瞬走る。首筋から鎖骨、胸元まで場所をズラして何度も同じことをされる度に、僕は小さく体を震わせて声を漏らした。

 これがマーキングなのかな?
 そっと視線をユーリに向けると、僕の右胸の突起へと唇が寄せられた所だった。えっと思った瞬間、ちゅうっと吸われて、腰が跳ねる。

「ひゃっ! ユユユユーリ?!」
「ん?」
「なんで、そんな所を……? そ、そこを吸うのはやめて……」
「そこって?」
「僕の、胸……」
「イネスの胸? あぁ、このツンと主張している桜色をした可愛い乳首のことか?」

 ユーリが小首を傾げながら、右胸の突起を指で弾いてきたので、声を上げてしまった。

「ひんっ!」
「ふふっ、可愛い。痛かったな、お詫びに今度は舐めてあげるよ」

 ぬるりと舌が這い、くすぐったさと濡れた感触に体がぞわぞわする。止めて欲しくて手を伸ばそうにも、魔法で拘束されていて動けない。

「ユーリ、やめてってば」
「やめる訳ないだろ。お仕置きなんだから大人しく受け入れて」
「あっ」

 再び吸われて、左胸の突起も親指で押し潰される。くにくにと舌や指で弄られて、腰に熱が集まってきた。ここを弄られると、どうして声が出ちゃうんだろう。恥ずかしい。

「んっ……ダメ。変な声出ちゃうから……」
「変じゃない、可愛いよ。その声、もっと聞かせてくれ」
「あっ、んんっ……可愛くない……!」
「感度がいいな。普段から触っていたのか?」
「ここは別に……さ、触らないよ……」
「本当? なら、いーちゃんの体がえっちなだけか」
「うぅ、意地悪なこと言わないで」

 揶揄われ続けて、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。不服そうに睨み付けると、ユーリは僕の額に優しくキスをして、あやすように笑った。

「分かったよ、意地悪をするのはこれで終わりにするって。俺もこれ以上触っていたら、我慢出来なくなるしな」
「もう触るのは終わり!」
「むっ、それならキスは?」
「キスは……良いよ」
「なら沢山キスをしてやる。………は、また……」
「え? ごめん、最後なんて言ったの? 聞こえなかったんだけれど」
「今は気にするな」

 釈然としないけれど、唇に軽くキスをされたので黙る。そのままユーリの唇は下へ下がりつつ、色々な所にキスを落としていく。僕のお腹あたりの位置まで来ると、ふと不安が頭をよぎった。
 どうしよう、汚くないかな。今日は外での授業がなかったから汗臭くはないだろうけれど、シャワーは浴びれていないし、クリーンも事前にかけていないような……。

「ちょ、ちょっと待って!」

 そういえば、トイレに行ったばかりだという事実を思い出して青ざめた。動かせる範囲で体を捩ったり、足をバタバタとさせる。

「これ以上はダメだから、止めて!」
「暴れるなよ、イネス。キスなら良いとお前が言ってくれたんじゃないか。ほら、触らないでキスしてるだけだろ。それとも恥ずかしくなったのか?」
「恥ずかしいのもあるけれど、そうじゃなくて……。僕の体、今汚いからシャワーを浴びに行かせて欲しいんだ。それかせめてクリーンをかけさせて!」

 お願いだから、今はこれ以上触れないで欲しい。そんな気持ちで必死に説得を試みた。ユーリは一瞬戸惑ったように眉をひそめたが、その表情はすぐに柔らかくなり、優しく微笑んだ。

「あぁ、そういうことか。大丈夫だよ、いーちゃんには汚いとこなんてないから」

 優しい声でそう返してくれたけど、違うんだよ。汚いって言ってるじゃないか! そんな優しさ、今はいらない。

「ダメだってば! キレイにさせてくれなきゃ……恋人やめる! ユーリのこと嫌いになっちゃうから!」

 早く汚れた体を清めないと、とパニックになっていた所為だろうか。出てきたのは、自分でも驚くほど必死で大きな声だった。感情が高ぶり、涙が込み上げてくるのを感じながら僕は目をぎゅっと閉じた。

 数秒後、クリーンの魔法がかけられたのを感じてそっと目を開けると、ユーリは無言のまま、どこか浮かない表情で僕を見つめていた。

「少し……頭を冷やしてくる」

 彼はそう呟いて、僕の側をそっと離れる。そのまま背中を向けて部屋を出ていく姿を、僕はただ呆然と見送った。

 ──あ、どうしよう。

 過去の出来事がふと頭をよぎり、急速に顔から血の気が引いていく。
 僕、また同じ過ちを繰り返そうとしている?

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