僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎

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 ユーリが僕のことを恋人だと公言し、ルベルが激怒した日から、一週間が過ぎた。

 ベンは転倒した際にお尻に青アザを作ってしまったけれど、他に大きな怪我はなかったようだ。翌朝、教室に入った僕と目が合うと彼はウインクをしてから、おしゃべりをしていたクラスメート達の輪に混ざって冗談交じりに「ケツが取れるかと思ったぜ!」と笑っていた。無事な様子にホッとすると同時に、僕が安心出来るようにアピールしてくれた彼の気遣いが嬉しかったな。

 痣といえば……僕の腕には、ルベルに掴まれた時に出来た赤い跡がくっきりと残っていた。服を脱いだ時、その痣に気付いて驚くと同時に背筋がゾワっとした。小さい頃にユーリのお母さんが話してくれたユウレイを思い出してしまったからだ。その恐怖は、ユーリが怖い顔でルベルの元へ行こうとするのを見て吹き飛んだけれど。ユーリの怒りはそう簡単に収まらず、彼を宥めるのに一苦労した。
 やっとのことで落ち着かせた後、ユーリは僕にネックレスを渡してくれた。彼が言うには「お守り」だそうで、攻撃を弾き返す機能や、軽い毒や麻痺の状態異常を無効化する効果を付与されているという。ユーリの瞳を彷彿とさせる青緑色の小さな宝石が嵌め込まれていて、とてもキレイだ。彼の気遣いも嬉しかったので、ありがたく服の下で大切に身に着けることにした。

 僕達は特にお咎めを受けなかったが、担任のダイン先生はルベルに一日謹慎を言い渡し、反省文を書かせたらしい。顔を合わせた時に身構えていた僕を無視し、怪我をさせたベンに謝罪もしなかったけれど、今の所は大人しくしている。でも、あんなに僕に対して強い憎しみを抱いていた彼が、これで諦めるだろうか。何だか不気味な視線を感じることがあり、振り返るとルベルが暗い目でこちらを見ていることがあったので、引き続き注意を払わないと。
 幸いなことにクラスメートは僕達を気に掛けてくれているようで、ルベルの居場所を教えてくれたり、僕とルベルがお互い視界に入らないよう間に入ってくれたりするので助かっている。ユーリのファン達もルベルと同様に大人しいけれど、ユーリと一緒にいる僕を睨んでくるのは変わらなかった。それはもう仕方のないことだと思っている。彼らに僕の存在を受け入れてもらうのは難しいだろうから。

 そんな周囲の支えもあって、少し安心し過ぎていたのかもしれない。気を付けているつもりだったのに、僕はルベルの罠に嵌まってしまったのだ。情けないけれど、気が緩んでいたのだろう。


 放課後、僕は部屋で一人静かに本を読んで過ごしていた。
 ユーリはというと、お母さんが突然学園に訪れたとかで先生に呼び出され、先程嫌々ながら応接室へと向かっていった。

 お咎めはなかったけれど、ダイン先生が僕達の両親に連絡はしていたようで、その時にユーリの記憶喪失の件も伝えていたとか。冒険から戻ってきて文を確認したユーリのお母さんが、瞬間転移で駆けつけたらしい。

「くそっ、担任に口止めをするのを忘れていた……。行きたくない……行きたくないが、行かなかったら絶対部屋に入り込んでくるに違いない……。あー、くそっ」
「えっと……そんなに嫌がらなくても、ユーリのこと心配してわざわざ来てくれたんだから。顔を見せたら、きっと安心すると思うよ」
「心配じゃなくて、爆笑しながら揶揄ってくるに決まっている。なぁ、イネス……戻ってきたら頑張った俺にご褒美をくれないか?」
「んん? そんなにお母さんと会うのが嫌なの?」
「嫌だ」
「え、えっと……頑張って! ご褒美は何がいい? 僕に出来ることならなんでもするよ」
「なんでも? ………………よし、いーちゃんのご褒美を餌に頑張ってくるか」

 そう言いながら、ユーリは僕の頬に軽くキスをして、部屋を出ていった。

 ご褒美って何を頼まれるんだろう。抱き締めて頭を撫でれば良いかな? それとも、えっちな事とか?
 想像しただけで、頬がかあっと熱くなる。誰も見ていないのに、誤魔化すように僕はこほんと咳払いをした。本の続きを読む気分ではなくなったので、頭を冷やすついでにシャワーでも浴びてこようかな。
 僕は首からネックレスを外し、サイドテーブルにそっと置いた。

 その時、呼び鈴が鳴り、控えめにノックをする音が聞こえた。誰だろう。僕がこの部屋に来てから、点呼以外に来客はなかったから心当たりがなくて少し不安を抱く。
 一応念のため、ネックレスを握りしめて扉をそっと開けると、そこにはルームメイトだったルックが立っていた。久しぶりに会う彼は普段と違い、どこか落ち着かない様子で、僕と目が合うと少しだけホッとしたような表情を見せた。

「あれ、ルック? 久しぶりだね。どうしてここに?」
「……ひ、一人? ゆ、ユリウス様は……いないの?」

 ルックは周囲を警戒するようにキョロキョロと見回し、部屋の奥をしきりに気にしている様だ。

「ユーリなら、今は応接室で……お客さんと会っているけれど、何か用があるの?」
「あっ……う、うぅ……」

 僕が首を傾げてそう尋ねると、彼は俯いて、少し汚れた制服の裾をぎゅっと握りしめた。

「ぼぼぼぼく……イネスに用が、あって……。一緒に旧倉庫まで、来てほしいの……お願い……」

 ブルブルと肩を震わせる姿に違和感を覚えた。普段からおどおどしてはいるけれど、長年二人で一緒に過ごす僕に対しては気を許していたのに。何かあったんだろうか。

 旧倉庫は寮の外れにあって、今はあまり使われていない場所だ。古い物やイベントで使う道具が雑多に置かれているだけで、あまり人が近付かない。もしかして、誰かに何かを取ってくるように命じられたとか?
 ルックは人見知りで弱気な性格だし、強く言われて断れなかったのかもしれない。自分の友達じゃなくて、僕を頼ってきたのは、寮関係のことなのかな?
 少しでも安心出来るように、ルックの肩を優しくぽんぽんと叩く。

「大丈夫だよ、落ち着いて。君と一緒に旧倉庫に行けば良いんだね? 手伝うよ。まずは先生に鍵を借りてこなきゃ。あ、重い物や量が多いと大変だから他にも手伝ってくれそうな人を呼ぼ──」
「だめっ! い、急ぎだから……! その……もう鍵は持ってるし……あの、ね、猫が……。そう、猫が出られなくて、鳴いてる……から、早く……」
「猫? ルック、猫を飼っていたの?」

 彼はぶんぶんと横に首を振る。

「そっか……じゃあ、野良猫が迷い込んじゃったのかな?」
「す、隙間に入って……出てこない……」
「それは心配だね。怪我したら大変だ、早く行こうか」
「う、うん……」

 僕は少し悩んだ末に、ネックレスはそのまま部屋へ置いていくことにした。落としてしまったら困るし、猫を助けるだけなら、危険なこともないだろうとそう思ったからだ。


 寮の裏を暫く歩いた所にある、旧倉庫へと着いた。日が暮れていることもあり辺りは薄暗く、どこか不気味な雰囲気が漂っている。倉庫の扉を開けると、錆び付いた音が響き、暗い闇が目の前に広がった。暗くて中がよく見えないな。
 光魔法を使って辺りを照らしたい所だが、急に眩しくさせたら猫が驚くかもしれない。

「ねぇ、猫ってどこら辺に逃げたのか分かる?」
「ご、ごめん……」
「え?」

 涙声で謝るルックの声に、後ろを振り返ると彼は顔を歪め、ぽろぽろと涙を流していた。

「ごめん! 本当にごめん!」
「ど、どうしたの? ルック……?」
「案内ご苦労。もう帰って良いぞ糸目」

 突然響いた第三者の声に視線を向ければ、倉庫の入口を塞ぐようにルベルが立っていた。彼の後ろには見知らぬ男が二人。ダークグレーの髪と顎髭を生やした男と、紫色の髪を後ろで一つに結んだ男だ。どちらもがっしりとした体型で、袖無しの革ベストから見える腕は筋肉が凄かった。どう見ても学生ではないから、ルベルが外部から呼んできたのかもしれない。何が面白いのか、彼らは低い笑い声を漏らしていた。
 まさか、と思うと心臓が凍りつく。

「ルック……もしかして、君……」
「おい、早く出てけ。お前にはもう用がないんだよ。それとも、また痛めつけられたいのか?」
「ひっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「ふふ、ちなみに助けを呼んだらどうなるかは分かってるよな? 嫌ならさっさと自分の部屋の隅で震えて泣いておけ、凡人が!」

 だんっとルベルが床を足で踏み鳴らすと、顔を青ざめさせたルックは一目散に外へ駆け出して行った。

 ルックに騙されたのは悲しいけれど、きっとルベルに脅されて仕方なく従ったのだろう。終始怯えていた彼の姿で、僕はそう確信すると同時に胸の奥に苦い思いが広がるのを感じる。
 あぁ、失敗した。ネックレスを身に着けておくべきだった。

 ルベルがゆっくりと近づいてくる度に、僕はじりじりと後退さろうとするも、すぐに背中が倉庫の古びた棚にぶつかった。どうにか逃げる手段を探してみるけれど、難しそうだ……。

「逃げられると思ったか?」

 ルベルの声は冷たく、怒りが滲んでいた。彼の目には狂気が宿っており、その迫力に僕はすくみ上がる。怖い。体が震え、恐怖で思うように足が動かない。

「おい、こいつを跪かせろ」
「おぅ」
「りょーかい」

 男達がニヤけた顔で僕の肩を掴み、力任せに押さえつけてきた。その強い力に抵抗出来ず、僕はその場にガクリと膝をついてしまう。冷たい床に手をつきながら、ルベルを窺うと彼は満足そうな笑みを浮かべていた。

「はぁ、やっと……やっとだ。私とユリウス様の邪魔をするお前に、やっと報復が出来る。ユリウス様がおかしいのは、私に冷たくするのは……貴様がいるから悪いんだ。大した魔力もなく、美しさも可愛さもない、平凡の癖に! 貴様なんかがユリウス様と釣り合う筈ないんだよ! 全然、相応しくないのに!!」

 強い嫉妬と憎悪が混じった言葉に、僕は何も答えられず、ただ唇を噛みしめることしかできなかった。そんな僕の顔をのぞき込むようにして、ルベルは冷たい笑みを浮かべた。

「だから文武相応な夢を見る貴様の目を、私が覚ましてやる。幼馴染みという立場を利用して記憶喪失のユリウス様を騙し私から奪ってすみませんでしたもう近付くのはやめますって、そう言わせるまで帰れると思うなよ。なぁ、イネス?」

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