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ルベルに対する僕の第一印象は、正直に言うと最悪だった。急にクラスに入ってきた彼は、初対面の僕を値踏みするかのようにじろじろ見ると「なんだ、幼馴染みってコレか。なら私の方がユリウス様に相応しいな」と鼻で笑ったのだ。それ以来、会う度に嫌味や嫌がらせをしてくるからどんどんと苦手になっていった。
ユーリが記憶を失って、ルベルをハッキリと拒絶する迄どこか態度に余裕はあったけれど、浮かれている僕を見て我慢できなくなったんだろう。まさかいきなり殴りかかってくるとは思わなかった。自分が悪かったとはいえ、ルベルの怒りに歪んだ表情と叫び声を思い出して、ふるりと震える。
それに気付いたのか、ユーリが足を止めて、心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
「イネス、大丈夫か?」
「う、うん……ちょっと、ビックリしただけだから……」
「……課題の提出期限はまだ先だろ? 今日はもう部屋に戻ってゆっくりしよう」
確かに、今は課題のために図書室へ行く余裕なんてない。ユーリの提案通り、少し休んで、頭と心を落ち着かせよう。
僕が頷くと、ユーリは優しく微笑みながら僕の手をぎゅっと握った。その行動に少し安心感を覚えたけれど、やっぱり不安はすぐには消えない。
隠そうとしていた僕達の関係がバレてしまった。ユーリが堂々と僕を恋人だと宣言するなんて思わなかったし。ベンは大丈夫かな、怪我してないといいけれど。ルベルも……。
一人で悶々と考え続けていると、いつの間にか僕はユーリの膝の上に座っていた。どうやら彼が瞬間移動の魔法を使ったらしい。ソファの上で僕を抱えたまま、ユーリは魔法を使い、飲み物を用意している。
抱かれている安心感と、じんわりと伝わる体温に少しずつ緊張がほぐれていく。僕は力を抜いて彼にもたれ掛かり、甘えるように身体を預けた。
「ハーブティーを用意したから、飲むか?」
「……ありがとう。でも今はもう少し、こうしていても良い?」
「あぁ、勿論だ」
僕のお願いに対して、ユーリは優しく微笑んで、僕の体をぎゅっと抱きしめ直す。彼の腕の中で、僕は暫くその優しさを堪能したのだった。
改めてソファに座り直し、温め直してくれたハーブティーを一口飲む。体の内側からじんわりとした暖かさが沁み渡り、ほっと息をついた。自然と笑みがこぼれる。
「美味しい……」
「やっと落ち着いたようだな」
「うん、心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ」
「そうか。まだ膝の上にいても良かったんだぞ?」
「それは行儀が悪いから……」
茶化すようなユーリの言葉に、僕は少し照れくさくなって苦笑いを浮かべた後、視線を落とす。手元のティーカップを指先でいじいじと弄りながら、さっき考えていたことを口に出した。
「……あの、言うのが遅くなっちゃったけれど、助けてくれてありがとう。でも……みんなの前で僕と恋人になったって言うのは、まずかったんじゃないかな……。記憶が戻った時に、ユーリが困るでしょう?」
「いや、別に困らないさ。むしろイネスが俺のだと言えてスッキリした。これで俺達の邪魔をする奴らが減るだろう。とはいえ、アレがここまで強く干渉してくるのは予想外だったな。楽観視は出来ないか。イネスを守るための対策を考えないと……」
ユーリは否定していたけれど、段々と声が硬くなり、真剣な表情で何かを考え込み始めた。僕はその様子を暫く見つめた後、再びティーカップへと視線を戻す。
今のユーリは問題ないだろうけど、記憶が戻った時もそう言えるだろうか。多分、自分がした行動を後悔するに決まっている。
嫌なら忘却薬を作って記憶を消すと言っていたものの、周囲の人達の記憶はどうするんだろう。流石に僕たちのことを知っている人全員に薬を配るなんて、現実的じゃないし……。記憶を失っている間のことは話題に出すなとユーリが告げれば、みんな黙っていてくれそうではあるけれど。
それと、ルベルとのことも気になる。今日のことを考えるとユーリの記憶が戻るまで、大人しくしているとは思えない。また僕に何か仕掛けてくる可能性もあるから、注意しないと。
そういえばキスマーク? がなんとか言っていたっけ。
ふと思い出して、僕はティーカップをテーブルに置いて、席を立とうとした。
「どこへ行くんだ?」
「あっ。ルベルが激怒した理由の一つに、僕にキスマークがついてるって言われたことを思い出したんだ。ちょっと鏡で確認しようと思って……」
その瞬間、ユーリの表情が一気に曇った。何だかバツが悪そうに見える。
「……すまない。イネスがこんな目に遭ったのは、俺のせいだ」
「うん?」
「…………わざと見える所に……付けた」
「えっ、もしかしてお仕置きのために付けたマーキングのこと? それをするとキスマークが浮かんでくるの?」
「あー、知らなかったのか……通りで……」
戸惑いながら問いかけると、ユーリは少し困ったように頭を抱え、深く息を吐いた。
「キスマークはな、肌を強く吸って赤い痕を残すことを言うんだ。愛情表現の一つとして付けたりするが、俺の場合は……意図的に付けた。イネスは自分のだと主張するためにな」
「えっ……」
それってつまり……ユーリが僕たちの関係を言わなくても、周りにはバレていたってこと? だから皆、あんな風に見ていたのか……。
周囲の視線の理由が漸く分かり、恥ずかしさで僕の顔は一気に赤く染まった。
「お前を支えてやると言ったのに、守る所か危険な目に遭わせてしまった。自重しなければいけない……が……」
そう呟いたかと思うと、急にユーリががばっと僕に抱きついてきたので、驚いて僕は彼の腕の中から動けずにいた。頭の上で長い溜め息が聞こえる。
「早く卒業して、いーちゃんと結婚したい」
「えっ、なっ……」
突然の告白に、胸がとくんと高鳴る。確かに小さい頃は約束をしていたけれども、なんで急に結婚の話になったんだろう。驚きと戸惑いが混じり、なんて答えようかと考えている間に、ユーリの腕の力がさらに強くなって、僕は彼の胸に押し付けられるように抱き締められた。
「誰にも邪魔されず、お前を愛したいのに……」
「ユーリ……」
彼のいつもより弱々しい声色に、胸が少し痛む。もしかしたら、ユーリも僕と同じように不安を抱えているのかもしれない。自分のことにいっぱいいっぱいで、あまり彼のことを気遣えていなかった。幼馴染みとして、恋人としても支えるべきなのに。
そっと彼の背中に手を回して、慰めるように優しく撫でた。これで少しでも安心してくれれば良いなと思って……。
「僕も、出来るならずっとユーリと一緒にいたいよ。でも、卒業までまだ時間があるし……今は……恋人としての時間を大切にしたいな」
「イネス……」
「あと、ルベルとはなるべく衝突しないように出来るだけ近付かないよう気を付けるし、一人にならないようにもする。だから、あんまり心配しなくても大丈夫だよ」
ユーリは暫く黙り込んでいたが、やがてゆっくりと僕を解放し、真剣な眼差しで頷いた。
「そうだな、俺もイネスの側からなるべく離れないようにする。周りをしっかりと警戒しておくよ」
僕もこくりと頷くと、安心したかのようにユーリは薄く微笑んだ。そして、ふと思い出したように口を開く。
「所で、イネスはネックレスとブレスレットとピアスなら、どれが好きなんだ?」
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