悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。

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18話

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「……まぁ、こちらはどちらの通りかしら」

干し草の香りと陽気な音楽が漂う小道を、ルゥナ=フェリシェはのんびりと歩いていた。  
道なき道を気の向くままに進み、やがて辿り着いたのは、小さな農村の中央広場。

「……あら、にぎやかですわね。今日は何かのご催しで?」

村人たちは総出で色とりどりの飾り付けに奔走し、子どもたちは麦の冠をかぶって走り回っていた。  
その中央には、花と果実で彩られた舞台と、白い衣装を抱えた若い娘がひとり。

「そこのお嬢さん! お願い、これ着て!」

「あら、これは……?」

「うちの舞姫、風邪で倒れちゃって! もう時間がないの! 顔立ちも姿勢もぴったり! お願いっ!」

「……着るだけでよろしいのですか?」

「あとは立っててくれるだけで大丈夫! お願いっ!」

あれよあれよという間に、ルゥナは白い衣を纏わされ、髪に麦の冠を飾られ、手に花束を持たされた。

「まぁまぁ、たいへん丁寧なお仕度ですわね。祭壇に……立つのですの?」

「そうそう、その上でちょっと佇んでればいいから!」

「では、参りますわね」

ルゥナはふんわりと舞台の階段をのぼり、祭壇の中心に立った。  
光の角度、風の流れ、群衆の視線。すべてが彼女を“舞姫”として演出する空気を作り上げていた。

そのとき――

「……あら、足元が……」

足場の布がわずかにずれていた。  
ルゥナの足がすべり、軽くバランスを崩す。

しかし、彼女はそのまま、ふわりと身体を翻し、腕を柔らかく広げてくるりと回った。

その一瞬。

風が吹いた。  
麦の冠が陽光を受けてきらめき、果実の香りが広場を満たす。  
ルゥナの動きは、誰の目にも――“踊り”に見えた。

「……!」

「なんて……なんて美しい……」

「天から舞姫が降りたのかと思った……!」

「風が……止まった……!」

その場にいた全員が息を呑み、見とれていた。

ルゥナはというと、何事もなかったかのように姿勢を整え、再び花束を両手に捧げ持ち、にこやかにお辞儀をした。

それが、完璧な“舞の締め”として大喝采を浴びることになるとは、彼女は夢にも思っていなかった。

「……踊るつもりはなかったのですけれど。まぁ、結果オーライですわね」

そう呟いた彼女に、村の長老が震える手で感謝状を差し出した。

「……あなたこそ、祝福を運ぶ精霊の化身じゃ……」

「……は?」

それから数日後。  
帝都へと向かう商隊の噂話に、“麦の祭壇に舞い降りた天女”が加わる。

舞姫として祭られたその令嬢は、今もどこかで猫を探しているとは、誰も想像しなかった。
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