罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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亜希の章 ツンデレな同居人

イルカたちの見守る水槽で……

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 突然席を立って離れていった亜希に戸惑いながら、僕も慌ててその後を追った。  
 でも、人の多さに阻まれて、すぐに見失ってしまった。

(亜希……!どこに行ったの、亜希……!)

 僕は人混みをかき分けながら必死に亜希を探すもなかなか見つけられない……。

 彼女を見つけられない焦りと、何か僕が彼女を傷付けてしまう事を無意識に言ってしまったのではないかと言う後悔が僕の心に募っていく……。

「御堂君……!」

 突然名前を呼ばれ、振り向くとそこには早乙女さんの姿があった。

「早乙女さん……?」

「急に御堂君が飛び出してったから……!何かあった感じ……?」

 確か早乙女さんは亜希の友達だったはず……なら彼女に聞けば、なぜ亜希が怒ったのか……何かわかるかもしれない……。
 そう思った僕は早乙女さんに話すことにした。

「実は……」

 僕は早乙女さんに先ほどのことを説明すると、彼女は深いため息をついた。

「はぁ~……、亜希の悪い癖が出ちゃったか……」

「悪い癖……?」

 僕は意味がわからず聞き返す。

「亜希は今でこそ御堂君のおかげでちょっとは素直になったみたいだけど、でも元々のあの子は意地っ張りで全然素直じゃない性格なんだよね……。亜希と付き合ってる御堂君なら少しは心当たりがあるんじゃないの?」

 僕は早乙女さんに言われて少し亜希のことを思い返してみる……。

 そう言えば、同居を始めた頃はすごく僕に突っかかってきてたし、何かとツンツンした感じだったな……。
 それに、初めて亜希がエリシアをしたときなんかシドロモドロに言いながら、まるで人に頼むことに慣れていないような……そんな感じだったような気がする……。

「どうやら少しは思い当たる節があるあるみたいだね……。ま、そんな感じで御堂君は悪くないんだけど、たぶん今ごろ亜希はどこかで一人自己嫌悪に陥ってるはずだからさ、早く見つけてあげて。あと、そんな亜希を受け入れてくれたらウチとしては嬉しいかな……」

「ありがとう、早乙女さん……!」

 僕は早乙女さんにお礼を言うと再び亜希を探し始めた!


 水族館の通路を歩きながら、僕は亜希の姿を探す。  
 でも、どこにもいない……。

 人混みに紛れて、彼女の髪も、声も、見つけられない。

(亜希……どこにいるんだよ……)

 焦りと歯がゆさだけが僕の心の底に降り積もっていく……!

 亜希はもしかしたらどこかで一人泣いてるかもしれない……、そう思うと焦る気持ちだけが空回りする。

 そして……イルカの水槽の奥、少し人の少ないベンチの隅で、僕はようやく彼女を見つけた。

 しゃがみ込んで、肩を震わせてうずくまっているその背中が、あまりにも小さく見えた。

(亜希……)

 逸る気持ちを抑えながら、僕はそっと彼女に近づいた。  
 しゃがみ込んだ背中があまりにも小さく見え、胸がぎゅっと締めつけられる。

「亜希……」

 僕はゆっくりと、そしてできるだけ優しくし彼女へと声を掛けると亜希の体がビクッと震えたのが分かった。

「……なんのよう?素直じゃない私なんか放って置けばいいでしょ?」

 亜希の口からは明らかな否定の色が見えた。
 それはまるで同居したばかりの亜希に戻ったかのようにも感じる。

「亜希、さっきはごめん……、僕知らない内に亜希を傷付けてしまったみたいで……」

「なんで彼方が謝るの……?悪いのは私なのに……」

「亜希……」

「私……可愛くないでしょ?これが私の本性なのよ……?変に捻くれて、素直じゃなくて、意地っ張りで……」

「そんなこと……」

「私もね……彼方と付き合ってたらこの性格が変わると思ってた……。でも、変わらなかった……、今もこうして彼方を困らせている……。自分が悪いのは分かってる……でも……、もう一人の私が『お前は結局変われない、彼方の隣にいるのは相応しくない』って心の中で囁くの……。ね……?可愛くないでしょ?……今からでも私と別れて……柊さんや瀬玲奈と付き合ってもいいよ?」

 そう言う亜希は肩を震わせながら泣いているのがわかる……。

「亜希……」

 僕は彼女の隣に座るとそっと亜希の肩を抱く……。

「なんで……?なんでそんなに優しくしするの……?」

 亜希は顔を上げると涙を流し、泣きすぎて目を腫らしている彼女の顔があった。

「僕はずっと亜希のそばにいるよ……」

 僕はそっと亜希を抱きしめた。  
 拒絶されるかもしれない不安よりも、彼女を受け止めたい気持ちの方がずっと強かった。

「やめて……!今そんなに優しくされたら……!私……私……!自分を許すしかないじゃない……!」

 亜希の声は震えていた。  
 泣きながら、でも必死に言葉を紡いでいた。

「私……こんな自分の性格をずっと許せなかった……。変に意地を張って、素直じゃなくて、捻くれ者で……だからずっと怖かったの……。彼方の隣にいるのが、いつか許されなくなるんじゃないかって……。私が素直になれないせいで、彼方が離れていくんじゃないかって……」

 僕は何も答えることもなく、ただ亜希の肩を抱いたまま彼女の言葉を……気持ちを受け止める……。

「でも……彼方が優しくしてくれるたびに、嬉しくて……怖くて……。こんな私が、そんな優しさをもらっていいのかなって……」

 亜希の涙が、僕の制服にじんわりと染みていく。  
 その温度が、彼女の心の奥に触れているような気がした。

「亜希……僕は亜希が素直じゃなくても、意地っ張りでも、捻くれてても……全部好きだよ」

「……嘘」

「嘘じゃない。僕はどんな亜希でも全部受け入れる……。そのうえで、君の隣にいたいって思ってる」

 亜希はしばらく黙っていた。  
 水槽の中で、イルカが静かに泳いでいる。  
 まるで、ふたりの時間を見守っているようだった。

「……ほんとに、嫌いになってない?」

「うん。それくらいで僕は亜希を嫌いになんかならないよ。それに……何があっても僕は亜希のそばにいるって決めたんだ」

「彼方……!」

 亜希は、僕の胸に顔を埋めて、また少しだけ泣いた。  
 でもその涙は、さっきまでのものとは違っていた。

 水族館の青い光の中で、僕たちはようやく、すれ違いの先にある“本当の気持ち”に触れた気がした。

 そして、イルカたちが静かに泳ぐ水槽の前で僕と亜希は、そっとキスを交わした。  
 それは、すれ違いの先に見つけた“本当の気持ち”の証だった。
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