罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

文字の大きさ
48 / 223
亜希の章 ツンデレな同居人

青の世界で沈みゆく心……

しおりを挟む
 バスに乗った僕たちは、沖縄の歴史を感じる場所をいくつも巡った。

 首里城では、赤い瓦の向こう、火災で焼け焦げた柱の根元が地面に黒く残っていた。  
 かつてここに立っていた正殿の姿を想像すると、胸の奥が少しだけ痛くなる。

  かつてここに立っていた正殿の姿を想像すると、胸の奥が少しだけ痛くなる……。
 でも、周囲には復元工事の足場が組まれ、職人たちの手が新しい命を吹き込んでいた。

 「見せる復興」——その言葉通り、首里城は今、再び立ち上がろうとしている。


 次に訪れたひめゆりの塔……。
 このの前に立つと、空気が変わった。
 さっきまで騒いでいたクラスメイトたち、さらにあの高藤や悠人でさえも自然と口を閉じていた。

 そして塔の前にある名前が刻まれた石碑……。

「私たちと同世代の子が戦争で亡くなったのよね……」

 石碑の前でそう呟く亜希の言葉に僕の胸がぎゅっと締め付けられる……。


 次にバスは美ら海水族館へと停まる……。

 バスを降りた瞬間、潮風と甘い花の香りが混ざった空気が僕たちを包み込んだ。  
 目の前には、美ら海水族館——沖縄の海をそのまま閉じ込めたような場所。

「……すごい。海の匂いがする」

 亜希が小さく呟いて、髪を耳にかける。  
 その仕草が妙に大人びて見えて、僕は少しだけ目を逸らした。

 水族館の中に入ると、空気がひんやりと変わる。  

 青い光に包まれた空間は、まるで海の底に迷い込んだみたいだった。  
 静かで、幻想的で……まるで夢の中にいるような気分になる。

「わぁ……見て、彼方……!」

 亜希が僕の袖を引いて、大水槽の前へと駆けていく。  
 ジンベエザメが悠々と泳ぎ、マンタが優雅に舞っている。

 僕たちは並んで水槽を見つめる。  
 言葉はなくても、隣にいるだけで心が満たされていく。

「……この海の中に、二人だけでいたらどうなるんだろうね」

 僕がぽつりと呟くと、亜希は少しだけ笑った。

「……酸素がないから、すぐに浮上すると思う」

「……それは現実的すぎる」

「ふふっ、でも……ちょっとだけ、夢みたいね」

 水槽の青が、亜希の瞳に映っていた。  
 その横顔があまりにも綺麗で、僕は思わず見とれてしまう。

「……彼方、見すぎ」

「ご、ごめん……」

 照れながら視線を逸らすと、後ろからシャッター音が聞こえた。

「……記録完了。青の世界に溶ける二人」

 柊さんがデジカメを構えて、無表情で呟く。

「ちょっと……撮らないでよ……!」

 亜希が顔を赤くして抗議するも、柊さんは淡々と次のアングルを探していた。

「おーい!イルカショー始まるぞー!」

 悠人の声が響き、クラスメイトたちがぞろぞろと移動を始める。

「……行こっか、彼方」

「うん」

 亜希が僕の手をそっと握るとショーが行われる場所へと向かう。  
 そのぬくもりが、青い世界の中でひときわ鮮やかだった。

 イルカのショーが始まると、飼育員とイルカたちの一糸乱れぬ動きに、会場から拍手が巻き起こった。

 そしてその時僕はつい言ってしまった……。
 しかしそれが思わぬことになるとはこの時の僕は思いもしなかった……。

「……イルカってちゃんと飼育委員のこと聞くし、素直でかわいいよね」

 そう呟いた瞬間、亜希がワナワナと震えながら、僕をじっと見つめていた。

 どうしたんだろう……?

「それって……私が素直じゃないってこと……?」

 え……?
 今まで笑顔だった亜希の表情が突然一転し僕を睨みつけてくる。

「ちょ、ちょっと待ってよ……!なんでそうなるの!? 僕はイルカのことを言っただけで、亜希のことじゃ……!」

 訳が分からない僕はどうにか亜希をなだめようとするも、一向に亜希の機嫌が直りそうな気配はない。

 とりつく島もないとはこの事だ……!

「もういいわよ……!彼方は私より素直な柊さんや瀬玲奈と付き合えば……っ!?」

 亜希はそれだけを言い残して席を立つとそのままどこかへと行ってしまい、ポツンと取り残されてしまった僕は、ショーの賑わいがやけに遠くに感じたのだった……。


 ~サイドストーリー~


 ──亜希──


 彼方と別れた私は、ひどい自己嫌悪に陥っていた……。

「私……なんであんなこと言っちゃったんだろう……」

 彼方が私ではなくイルカのことを言ってるというのは最初からわかってた……。
 でも、根が素直じゃない私の心を彼方に見透かされたような気がして、思わずあんな事を言ってしまった……。

「彼方のおかげで少しは素直になれたと思ってたのに……やっぱり私って元々の性格がこんなのなのかな……。これじゃあ彼方に嫌われちゃうよ……。う……ひっく……、ううぅ……」

 私はイルカの水槽の前にしゃがみ込み、肩を震わせながら嗚咽を漏らしていた。  
 水槽の青が揺れて見えて、それが自分の心の中の波みたいに感じられた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

処理中です...