罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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亜希の章 ツンデレな同居人

神秘的な"青"と未来への約束

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 海を泳ぎ進み、洞窟の入り口へとたどり着いた僕と亜希はそのまま静かに中へと入っていった。

 日が陰るため一瞬暗くなるも、中へと入るとその光景に言葉を失った……。

「きれい……」

 亜希はその光景に声を漏らす……。

 洞窟の入り口から差し込む光が、水面で揺れていた。

 その光は青だけを残して、壁にステンドグラスのような模様を描く。
 僕たちが潜ると、泡が金色に染まり、魚たちがその光の中をすり抜けていく。

 音はなく、ただ泡の弾ける音だけが耳に届く。
 亜希の髪が揺れ、瞳が青の光を受けてきらめいた。

 この場所は、世界のどこにもない“静かな青”だった。

「すごい……」

 僕もその光景にただそう呟くのが精一杯だった……。
 いや、それ以外に言葉のしようがなかった、それほどここは美しく、そして神秘的だった……。

 さらに海中にはその光を反射し、キラキラと鱗を輝かせる魚たちの姿まである。

 僕たちはしばらく、ただその場に漂っていた。  
 泳ぐでもなく、話すでもなく、ただ青の光に包まれながら、ゆっくりと呼吸を整える。

 亜希がふと、僕のほうを見た。  
 その瞳は、洞窟の青を映していて、まるで水の中に浮かぶ星のようだった。

 僕も彼女を見返す。  
 言葉はなかった……けれど、何かが通じた気がした。

「彼方……」

 亜希がそっと手を伸ばす。  
 水の抵抗でゆっくりと動くその指先が、僕の手に触れる。

「亜希……?」

 指が絡む。  
 水の中なのに、ぬくもりが伝わってくる気がした。

 泡がふたりの間を通り過ぎていく。  
 その泡越しに、亜希が微笑んだ。

「私……彼方とここに来れてよかった……」

 亜希の言葉に僕の胸が、静かに高鳴る。

「僕も……亜希とこの場所に来れて本当によかったと思う……」

 この場所で、彼女と手を繋いでいることが、ただそれだけで、世界のすべての音が消えていくようだった。

 ふたりの手は、まだ水の中で繋がっていた。

 亜希の指先がほんの少しだけ力を込めると、それに応えるように、僕も彼女の手を握り返す。

 洞窟の奥から、ゆっくりと泡が浮かび上がっていく。  
 その泡が、青の光をまといながら、ふたりの間を通り過ぎていった。

 僕と亜希はお互いを見つめ合うと言葉を交わすこともなく、まるでそうするのが自然のようにどちらからともなく顔を近づけるとそっと唇を重ねた……。


「亜希、そろそろ戻ろう……船が港に戻る時間になっちゃう……」

「……うん」

 どのくらいの洞窟の中で過ごしただろう……、時計がないので時間は分からないけど、そろそろ船が港へと戻る時間が近いかもしれない……。

 僕は、亜希の手を引くようにして、この光景を惜しむようにゆっくりと泳ぎ始める。  
 洞窟の出口へ向かって、青の光を背にしながら……。

 僕たちは、言葉もなく、ただその静かな水の中を進んでいく。  
 手を繋いだまま、泡の中をくぐり抜けながら。

 出口が近づくにつれて、光が強くなっていく。  
 青から白へ、幻想から現実へと、世界が少しずつ色を変えていく。

 水面に顔を出した瞬間、太陽の光がまぶしくて、僕は思わず目を細めた。  
 隣で亜希も顔を上げ、髪をかき上げながら笑っていた。

「……ねえ、彼方」

「うん?」

「また来ようね、ここ」

「……うん!」

 その言葉に、僕は静かに頷いた。

 この青の記憶が、きっとふたりの中でずっと残り続ける気がした。


 ◆◆◆


 その夜……、お風呂と夕食を済ませたあと、亜希からメールで呼び出された僕はリゾートホテルの一階にある海に面したテラスへとやって来ていた。

「彼方~っ!」

 辺りを見渡し、亜希の姿を探しているとテラス席の一つに座り、僕へと手を振る亜希の姿を見つけると、彼女の隣へと座った。

「亜希、ここに来てほしいってメールがあったけど、どうしたの?」

「うん、ちょっとね……彼方と話がしたくて……。今日すごく楽しかったわね!」

 亜希は照れくさそうに笑うと、僕も彼女につられて思わず笑みがこぼれる

「うん、特にあの青の洞窟は一生の思い出だよ……!」

 目を閉じると今でもあのときの光景が蘇ってくる……。

 亜希もその光景を思い出しているのかしばらく僕たちは無言のまま目を閉じていた……。

「あの……さ、彼方は昔柔道してたよね……?」

 目を開いた亜希はどこかソワソワしながら僕へと問う。

「うん……、そうだけど……あれ?亜希にその話したっけ……?」

 それとも、由奈ちゃんから聞いたのかな……?

「ううん、聞いてはないけど……私も一時期習ってたから……。あのさ……、小学校の低学年の頃……男の子にイジメられてた子って覚えてる……?」

「小学校の低学年の頃……?」

 僕は腕組みをしながら昔の記憶を思い起こす……。

「ほら、中々上達出来ずにいた男の子のような子……」

 亜希に言われて僕は思い出す。
 確か男の子の割にどこか華奢で線の細い子が一人いたっけ……。

「……ああ、そう言えばいた!思い出したよ、確かその子他の男の子からいじめられたんだよね。あまりにも可哀想だったから、僕がイジメてた子たちを投げ飛ばして助けた記憶があるよ」

「あのさ……そのイジメられてた子って……実は私なの……」
  
 亜希の声は、少し震えていた。

「へ……?」

 亜希の言葉に僕の目は点になる……。

 え……?あのイジメられてた男の子が……亜希……?

「え……?ぅええぇぇぇぇぇーーーー……っ!う……うそ……っ!?」

 僕は思わず大声を出すと亜希を指差す。

「し……仕方ないでしょ……?あの頃は私ボーイッシュだったし、それに……嫌々やらされてたから……」

「そ……そうなんだ……」

「でも、あの時からなの……彼方のことが好きになったの……。」

 亜希は、ぽつりとそう言うと、さらに続ける……。

「でも、その後両親が離婚して、私は男の子からイジメられてた事がトラウマとなった事で壁を作り、徹底的に男の子を避けるようになったの……。本当は最初彼方から告白された時凄く嬉しかったの……!同居が決まった時も飛び上がりそうなほど嬉しかったのよ……!」

「でも、あの最初の告白は……」

「うん、罰ゲームだったのは知ってる。それに、私も彼方に対して全然素直になれなくて……ツンツンして……でも……彼方はそんな私を受け入れてくれた……」

 気づけば、亜希の目から涙がこぼれていた。
 僕はそっと指先で、その涙を拭った。

「前も言ったけど、僕は本当に亜希のことが好きだから……どんな亜希でも僕は受け入れるよ……」

「彼方……私……彼方のこと好きになってよかった……!」

「亜希……この先、何があっても僕はずっと、亜希と一緒にいたいと思ってる」

 言いながら、少し照れくさくなって笑う。

「……なんか、プロポーズみたいだね」

 僕は「あはは……」と苦笑すると、亜希はゆっくりと首を横に振る。

「そんなことない……私は……あなたのそのプロポーズを受け入れます……」

「亜希……」

 海から聞こえる波の音が、静かにふたりを包み込む。  
 僕は亜希をそっと抱きしめ—— その唇に優しくキスをした。
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