罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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由奈の章 甘えたがりな義妹

触れられた手とときめく心

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 バターを常温へと戻していると、由奈ちゃんは準備していたラッピングの袋を取り出す。

「じゃあ、焼いてる間にラッピングの準備しよ~っと」

「まだ焼いてもないのに?」

 由奈ちゃんの言葉に僕は思わず苦笑する。

「だって、楽しみなんだもん。お兄ちゃんが食べてくれるの、すっごく嬉しいから」

 由奈ちゃんは水色の袋を広げて、リボンを選び始める。  
 その姿が、なんだか……プレゼントを渡す準備をしてるみたいで、ちょっとだけ照れる。

「こほん……、それじゃあ混ぜていくよ」

「うん!お願いしますっ!」

 僕はボウルに常温に戻したバターと砂糖をいれると泡だて器で練っていく……。

「いい?バターはクリーム状になるまで混ぜるんだ」

「あたしもやる!」

「いいよ、やってご覧。」

「うん!見ててっ!」

 僕は由奈ちゃんにバターの入ったボウルを手渡す。
 しかし……。

「いっくよ~!えぇーーいっ!!」

 由奈ちゃんは泡だて器で勢いよくバターを混ぜ始めるとボウルから中身が飛び散り始める!

「うわ……っ!?ちょ……!由奈ちゃん……それは……!」

 飛び散ったバターが僕の服や顔へと付くとバターにより視界が遮られてしまった……。

「あ……あれ……?お兄ちゃんバターがなくな……きゃあぁぁーーー……!お……お兄ちゃんどうしたの……っ!?」

 由奈ちゃんは不思議そうな顔をして空になったボウルを持って僕の方へと振り向くと悲鳴を上げる。

 今の僕は顔中にバターがベッタリとついた怪人バター男と化していた……。

「……由奈ちゃん、そんなに勢いよく混ぜなくてもいいんだよ」

「お兄ちゃんごめん……!」

 由奈ちゃんがタオルで僕の顔を拭くとようやく前が見えるようになった……。

「ま…、まぁ……顔や服は洗えば落ちるから……」

 僕は苦笑して答えると、由奈ちゃんはシュンとして落ち込むと、目には薄っすらと涙が滲んでいた。

「お兄ちゃん、本当にごめんね……。はぁ……なんであたしってこんなにガサツなんだろう……」

「失敗は誰にでもあるよ、次はゆっくりでいいからしっかりと混ぜ込んでいこう」

「あ……、うんっ!」

 僕は由奈ちゃんの頭に手を置いて優しく撫でると彼女は沈んだ表情から一転、笑顔を向けてくれた。

 やっぱり由奈ちゃんは笑顔が似合うな……。


 再び常温に戻し、砂糖を入れたバターを由奈ちゃんはゆっくりと、そしてしっかりと混ぜていく……。

「お……お兄ちゃんこう……?」

「うん、いいよ。その調子。そこから交ぜて空気を含ませながら白っぽくなるまで混ぜるんだ」

「う……うん、分かった……」

 由奈かは真剣な表情でバターを混ぜると段段と白っぽく色が変わってくる……。
 
「お、由奈ちゃんそろそろいいよ。次は卵をいれるよ」

「ねえ、卵はそのまま入れちゃだめなの?」

「卵は溶き卵にして少しづつ入れてしっかり混ぜるよ」

「うん、分かった……」

 由奈ちゃんは溶き卵を入れるとしっかりと混ぜ込む……。

「……混ざったね、次は薄力粉を入れてその後またしっかりと混ぜていくよ」

 僕はふるいを手に取るとその中に薄力粉を入れ、バターの中に入れていく……。

「お兄ちゃん、なんでそのふるいを使うの?」

「これを使ったほうがダマにならなくていいんだよ」

「へぇ~……」

 薄力粉を入れると、僕はゴムベラを手に取り切るように混ぜていく。

「薄力粉を入れたらこうやって切るようにしっかりと混ぜるんだ」

「あたしにもやらせて!」

「うん、やってごらん」

 僕はヘラを由奈ちゃんへと手渡す、しかし……。

「あ……あれ……?お兄ちゃん、これ難しいよぉ~……」

「由奈ちゃん、ちょっといい?」

「え……?お兄ちゃん……?」

 僕はそっと後ろから由奈ちゃんの手に触れるとしっかりと混ぜていく。

「こう混ぜていくんだ」

「う……うん……」

 すると、いつもは元気な由奈ちゃんが少し顔を赤くして、それ以上何も言わなかった。

 疲れたのかな……?

「……よし、生地が出来たね。後はこのままラップに包んで1時間ほど休ませるよ」

「すぐに焼くんじゃないの?」

「休ませることも重要なんだよ」

「そっか~……、残念……」

 由奈ちゃんは、残念そうな顔をしながら頭の後ろで手を組むとリビングのソファへと向かった。


 ~サイドストーリー~


 ──由奈──


 あたしはソファへと座って、自分の手をじっと見つめる……。
 それはさっきまでお兄ちゃんの手が触れていた場所……。
 ただ手が触れていただけ……それだけなのに胸がドキドキする……。

 心なしか、お兄ちゃんが触れていたところが熱くなってるような気すら覚え、あたしはその手をそっと包み込むように自分の胸に押し当てると、心の中でお兄ちゃんの名前を呼ぶ……。

(彼方さん……)

 さっき手を触れられた時、少し体がビクってしちゃったし、顔を赤くなって黙っちゃってたけど……お兄ちゃんにあたしのドキドキバレちゃったかな……?

 バレちゃってたら恥ずかしい…。
 でも……バレててくれたら……ちょっとだけ嬉しいな……。

 胸の奥で、ドキドキが静かに続いていた。
 あたしはバレてほしい気持ちと、バレたくない気持ちの間で、そっと揺れていた。
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